2 拒否といじめ
思えば、これまでの僕の想い出の中にはいつも拓海がいた。
小学校は1クラスしかなかったのでずっと同じクラスだったし、家も近いから毎日一緒に登下校して、下校した後も暗くなるまで毎日のように一緒に遊んでいた。
中学1年生だったこの時の僕はとても未熟で、恋愛も何も知らないただの幼い子供で。
同性同士の恋愛が社会や他の同級生からどんな風に見られているかなんて、これっぽっちも想像ができていなかった。
きっと同性同士なんておかしいのだろうな、くらいにしか思っていなかった僕は、恋心を1人で抱えていることができなくなって、拓海に告白してしまったのだ。
それはいつものように2人で歩いた帰り道、季節は合服に変わったばかりの秋の初めのころのことだった。
「ねえ、拓海」
「んー?」
「僕、拓海のことが好きだよ」
「今更?俺も歩のことは好きだけど」
拓海と別れる道の曲がり角で、僕は拓海に告白した。
最初は拓海は何のことか理解ができていなくて、「友達として好きだ」という意味だと誤解してしまったようだけど、僕はちゃんと否定する。
僕の本心をちゃんと知っておいて欲しかったし、この時はまだ、拓海ならちゃんと受け止めてくれると思っていた。
「…違う、そうじゃないんだ」
「は?それってどういう…」
「恋愛感情で、拓海が好きだよ」
何も受け入れてもらえると思っていたわけじゃない。
でも、小さい時からずっと一緒にいた拓海だから、受け入れてもらえなくてもただ断られるくらいで、その後はずっと友達でいられると思っていた。
でも、拓海の反応は予想とは全然違っていた。
「は?何それ、キモイんだけど」
「え…」
「歩ってずっと俺のことをそういう目で見てたわけ?」
拓海から向けられたのは明らかな敵意と嫌悪感で、その冷たい視線に僕は背筋が凍るのを感じた。
「ち、ちが…自覚したのは最近なんだ、拓海が保健室に連れてってくれたあの日でっ」
「俺がお前を背負っていった日のことか?…お前、どういう気持ちで俺に背負われてたんだよ。密着できて興奮してたとか?」
「そ、そんなんじゃ…っ!」
拓海は大きなため息をつくと、ぱっと踵を返して歩き出した。
「拓海っ!待ってよ!」
「…寄るんじゃねえよ、気持ち悪ぃ」
拓海のことを追いかけたかったけど、振り向きざまに冷たくそう言われて足が竦む。
告白なんてしなければよかった、ずっと心の内にしまっておけばよかった。
そんな後悔でいっぱいになりながら、僕は去っていく拓海の背中を見送ることしか出来なかった。
翌日学校に行くと、クラスの友達は一斉に僕から距離を取った。
拓海が僕の告白のことを誰かに話してしまっていたようで、クラス中に噂が広まってしまったのだと、僕は一瞬にして理解した。
僕の机の上は「キモイ」「クズ」「ホモ」そんな僕のことを馬鹿にする言葉の落書きで溢れていて、机の中には紙くずがたくさん詰め込まれていた。
僕は休み時間もずっと1人で、周りからひそひそ話す声が聞こえるたびに、誰かが僕のことを噂しているんじゃないかとビクビクしていた。
委員会活動や学級の日直なんかでクラスメイトと話すことは少しだけあったけど、みんな僕から距離を取っているのは嫌でも分かった。
男子たちからからかわれたり、女子たちから軽蔑の目で見られたり。
何より苦しかったのは、拓海から冷たい視線を投げかけられることだった。
拓海と話をしたかったけれど、休み時間になると毎回のように僕の席に話しに来ていた拓海はその日以来一度も僕に近づいてこなくなったし、一緒に登下校するどころか、目線すらも合わせてもらえないことが続いた。
それから1年生の終業式が終わるまで、僕はずっと1人で過ごしながら、クラスメイト達からのいじめに耐え続けたのだった。
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