ぼくらのであい

柊 奏汰

1 自覚

小学生の高学年になった頃から何となく、自分の感覚が他人とズレているんだろうな、ということには気付いていた。

例えば、女性タレントの誰が可愛いかという同級生の話に入りにくくて、ドラマで話題の若い男性タレントの話で女の子と盛り上がったり。

女の子と付き合いたいという気持ちもないわけではないけれど、男の子の不意な格好良い仕草にドキッとしたり。

自分にとってはごくごく普通の事なのだけれど、1歩立ち止まって振り返ったときに、あれ?と首を傾げてしまう、小さな違和感。

中学生になり、友達が同級生の誰が好きで、誰と誰が付き合い始めた、なんて話が出るようになってきて、ますます違和感は強くなっていった。


僕が中学1年生の夏、病み上がりであまり体調が良くなかった日のことだった。

その日は日直で先生に仕事を頼まれて、教材の入った重い段ボール箱を運んでいた。

2階に上がる階段の手前まで来た時には眩暈がして限界で、荷物を降ろしてずるずるとその場に座り込むしかなかった。


「おいっ、歩!大丈夫か!?」


顔を上げると焦ったような拓海の顔が目の前にあって、傾いた身体をしっかりとした腕で支えてくれていた。

拓海は保育園の頃から仲がよくて、家も近いからよく一緒に遊んだりもする幼なじみだ。

中学では野球部に入って朝練も夕方の部活も頑張っているのを知っている。


「あ…拓海、ごめんね、だいじょぶ」

「嘘つけ、顔真っ青じゃねぇか!保健室行くぞ!」


あまり大きくない僕の身体を軽々と持ち上げる、その逞しい背中に背負われて廊下を歩く。

小学生の頃はひょろひょろだったのに、中学に入学してからまだ半年しか経っていないとは思えないくらい、筋肉がついて格好良くなっているのにドキドキした。

拓海ってこんなに男らしかったっけ。

胸が痛くて苦しくなるような、この気持ちが何なのかが分からなかった。

ぐるぐるする思考が眩暈をさらに助長して、顔は燃えるように熱くなって気持ち悪い。


「ねえ拓海、これやだ。おんぶされてるの恥ずかしい」

「うるせ、黙って背負われてろ。体キツいんだろうが」

「う…はい…」


降ろして欲しいとは言ったものの眩暈がかなりひどくて、大人しく背中に頭をつけて身体を預ける。

熱も高くて、けれど両親は迎えに来れないからベッドを借りて、午後の授業は休むことにした。

最初は養護の香苗先生の話を睨むような目つきで聞いていた拓海も、少し安心した表情で息を吐いた。


「…マジで心配した」

「ごめん…ありがと」

「親御さん仕事なのか?帰りはどうする?」

「うーん…ここで休ませてもらって動けそうだったら歩いて帰るかも」

「分かった。じゃあ帰り、鞄持って迎えに来るから。ちゃんと寝てろよ?」

「うん…分かった」


さらりと撫でられた頭と頬がまた熱くなる。

ドキドキとなり続ける心臓の音が止まらない。

恋なんて知らなかった俺でもすぐに理解し、そして困惑した。


人生で初めて好きになった人。

どうしよう。

僕、拓海の事を好きになった。

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