第13話 諭吉くんが来た


玄関に向かえば、そこにいたのはまさかの諭吉くんとコンちー!?どうしてここに……!


「んもぅ、兄さんのバカっ!コンちーのこの姿は小さい方!」

そしていきなり諭吉くんのおバカコールにお兄ちゃんゾクゾクしちゃうっ!


「でも……コンちー、でかいのに」

「アンタほんと何言ってるんですか。ヒト型よりキツネ型の方がでかいに決まってるじゃないですか」

ぎゃっふーっ!コンちーからの全否定~~っ!でも諭吉くんからじゃないからゾクゾクはしないの~~っ!お兄ちゃん、浮気はいたしませんっ!


コンちーはヒト型にも獣のキツネ型にもなれる。当然そちらの方がわふちゃん級なのででかいに決まっているのだが。


「違うって。俺の部屋に6本しっぽのちっこいこぎつね妖怪が来たんだって。マジぷりちーなの」

「えっ」

その瞬間、コンちーのしっぽ全体がもふぁさっと歓びもふるのを、俺は見タっ!!


「ちっこい……こぎつね……っ」

うおぉ――――――っ!?コンちーが顔赤らめて目をキラキラさせてるぅ~~っ!?こんな表情初めて!いつもはクールなおきつねさまなのにぃ~~っ!?こぎつねワードだけで効果やっべぇなコレぇっ!!


「まぁ、入る?でも先に真冬に聞いた方がいいかな」

「別にいいですよ」

「あぎゃ――――――っ!?」

気が付いたらいつの間にか後ろにいるかもしれない。蜘蛛あるある――――――っ!


「いいの?真冬」

「えぇ、知った顔ですしね。悪いことしたら、蜘蛛女たちにお仕置き小屋に引きずり込まれますし」

何その恐ろしい罰ぅ――――――。諭吉くんはいいコだから心配ないだろうけど。


「でも……今日はどうしたの?」

いつまでも玄関じゃなんなので屋敷の中に2人を招き入れる。


「その、えと、お泊まりに……来たんだけど……」

ゆ、諭吉くぅ――――――んっ!?まさかの突撃お兄ちゃん家にお泊まりぃ~~~~っ!や~ん、かわいいなぁ~~、諭吉くんったらぁ~っ!


「何想像してんの?兄さんのバカ。単なる交流だから」

あはんっ!!諭吉くんのおバカコールひゃっほぉぉいっ!


それにしても……。


「交流?やっぱりお仕事で連携するから?」

「うん、あと……えと、」

何故かもじもじしている諭吉くん。


「に、兄さんのお家に遊びに来たいとか、そう言うんじゃないからっ!」

げふあぁぁぁ――――――っ!!!なんっ、だと!?これは……っ、これはああぁぁぁっ!まさかの、まさかのツンデレええぇぇぇ――――――っ!?お兄ちゃんへのツンデレ――――――っ!ヤバいヤバいヤバいヤバい弟萌っえええぇぇぇ~~っ!はっう~~んっ!かっわえぇよぉっ!


「お泊まりになる部屋を用意しておきますね」

「布団はひとつ?それともふたつ?」


「いやちょっと。まず部屋が一緒なの前提なのは何故ですか」

と、コンちー。


「え、一緒に寝るんじゃないの?しっぽもふもふしながら寝ないの?」

首を傾げれば……


「んもぅ、兄さんのバカっ!九尾のしっぽには霊験あらたかな力が籠ってるんだから、酔うよ。キツネ同士ならともかく」

「そう言うもん?」

真冬を見上げれば。


「ひとによります」

あぁ、パピーはわふちゃんと寝てるもんな。一緒に寝られるかどうかにも妖力と霊力の相性があるのか。


「俺は?」

「あるわけないじゃないですか。だって激にぶちんなビャクですよ?」

「それ、褒められてんの?貶されてんの?」

何の躊躇もなく吐き捨てるなんて酷いよぉ、真冬さーんっ!俺のことよく分かってる分かりみうれっすぃけどねぇ~~っ!?


でもそのお陰でかわいいちび妖怪たちがお布団に潜り込んでくれるのだから、ありがたいことである。


「でも一緒の部屋なのは別にいいよ。布団だけ別にして?」

「そうですね。一緒にいるのはむしろパートナーとして落ち着くので。アンタみたいにもふもふしまくられなければ大丈夫です」

諭吉くんとコンちーも分かり合ってる勘あっていいよね~。


「でも何となくディスられてない?」

「気のせいだよ兄さん」

諭吉くんがそう言うなら……。あれ、でも今、おバカコールがなかった?偶然かな、俺はおバカコールなくてちょっともの寂しいけど。


「では私は部屋の手配をしてきます」

そう言う真冬と別れ、俺は部屋が用意できるまで自室に諭吉くんとコンちーを案内した。


「ひあぁぁ――――――――っ!?きゅーびぃっ」

『わ゛――――――っ!!!』

ちび妖怪たちの反応に、そう言えばと思いだしてしまった。カラスヘビさんも飛び起き……ねぇ~~~~。相変わらず寝てる――――――っ。アオダイショウさんはハッとして飛び起きたけど!そして怯えるちび妖怪たち。


「あの……真冬は平気だよね?」


『あ、そーだっ!』

しかし、それで解決してしまうのもかわいらしい。


「コンちーは俺の弟の諭吉くんのパートナーだから大丈夫だよ」


「くちわるそう」

ちび竜。


「そうだね」


「くーる?」

ちび土蜘蛛。


「そうそう、氷点下すぎてたまに恐い」


「こわい……きゅうびしゃん、こわいの」

あ、こぎつねちゃんが脅えちゃった?


「アンタなんてことしてくれてんですかぁーっ!」

コンちー大激怒ぉっ!?


「いや、普段のコンちーの態度のせいじゃん」

諭吉くん、容赦のないひと言。


「うぐっ、覚えておきなさい」

「やだ。すぐ忘れる」

諭吉くんも容赦ねえぇぇ――――――。ある意味息合ってる~~。


「大丈夫だよ、こぎつねちゃん。コンちーは恐そうなヤンキーキツネだけど根は優しいんだ」

「やしゃしいの?」

俺の言葉に、ドキドキしながらコンちーを見上げるかわいいこぎつねちゃん。


「え……えぇと、まぁ」

照れながら頷いたコンちーに、こぎつねちゃんがぱぁぁっと顔を輝かせる。


「あのっ!その、」

「抱っこ、してあげましょうか?」

コンちー、こぎつねちゃんを前に渾身のデレえぇぇ~~っ!?あんな恋したてでなかなか意中の王子キャラに声かけられない乙女みたいなコンちー初めて見るよぉっ!コンちーオスだけどねっ!?



「……うんっ」


こくんと頷いたこぎつねちゃんがとことことコンちーに近づく。そしてこぎつねちゃんを抱き上げ、抱き締めるコンちー。


「……かわいい……」

コンちー、めっちゃ幸せそう。コンちーはこぎつねちゃんを愛でて幸せそうなので、俺は諭吉くんと時間を潰すことにした。


「本、何読んでるの?」

早速、諭吉くんが俺の机の上の本に気が付いたらしい。


「退魔師についての本、蜘蛛図鑑、爬虫類図鑑、あと妖怪一覧」

妖怪は割りと知ってるつもりだったのだけど、蜘蛛妖怪、種類が鬼すぎる。いや鬼以外もいるんだけど。皿蜘蛛とか蟹蜘蛛、手乗りサイズでかわいいのだけど、種類が豊富すぎてまるで見分けがつかないっ!よく遊びにくるコならアクセサリーや着物で何とか見分けてる。

オチバカニグモなら落ち葉を象ったヘアアクセサリーつけてるし、キハダカニグモは木に同化しそうな色の木の幹模様の衣を身に付けている。


でも花蜘蛛シスターズは難しすぎた。蟹蜘蛛の仲間なのだけど、花蜘蛛がそれぞれ似すぎてる。アクセサリーや衣も同じような花柄でオソロにしてるから。……もう聞かないとわからない。


今では自分でノートもつけてる。さすがに妖怪一覧にも載ってないコもいるからなぁ。


ほら、アレだよ。九尾は載ってるのに、1尾から8尾が載ってないのと同じぃっ!!


「そうだ、分かんないトコあったら、諭吉くん教えて?」

退魔師の本を掲げてお兄ちゃん、リクエストしてみる。


「な、あ……っ、もう、仕方がないな。兄さんはバカなんだからっ!」

やっぱり諭吉くん、ツンデレ?かわいいなぁ。


それはそうと、こぎつねちゃんはコンちーのもふしっぽに埋もれて夢の中。コンちーの顔が完全に蕩けてた。


※※※


さぁ、夕食である!今日は広めの宴会場での夕食。諭吉くんとコンちーがいるからね。あと、蜘蛛女の姐さんたち、鬼の桜姐さんや妖怪たちが騒ぎたいだけ。


でも大勢での夕食も楽しいもので。実家ではマナー的なアレでほぼ無言だった。


宴会だとわっきゃわっきゃやるのだけど。それは妖怪も変わらないらしく、今もジョロウグモの姐さんと桜姐さんが酒瓶を高々と掲げている。


「俺はまだ酒は飲めない。諭吉くんもだ」

「さすがに無理矢理飲ませたりはしませんよ。人間の酒癖悪い上司じゃないんですから」

真冬が酒を啜りながら告げる。

まぁ、どこの世界でもそう言うおっさんはいるわな。そうじゃない上司もいるけどね。

あと、ここでは多分、蜘蛛女たちや桜姐さんがしっかりしてるので予防されるのだろう。


むしろ、飲んだらメッときつく言われてしまった。それはそれでありがたい。


それはそうと……


「コンちー飲まないの?」

「いえ、飲んでもいいのですが」


「わたあめー」

「あまいねぇ」

ちびタヌキやちび竜、ちび蜘蛛たちと戯れているこぎつねちゃんを見やるコンちー。


……あぁ、そゆこと。

何だか微笑ましい。

なお、こぎつねちゃんたちが遊びに行っちゃったタイミングで出ようとしたコンちーは、ジョロウグモ姐さんたちに捕まって引っ張られていった。


コンちー、無念んんっ!!

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