第9話 使役人間の条件
「えいやっ!これで仕上げ!」
青鬼は諭吉くんの術式で岩に封印されていった。因みにこう言う封印石、岩は収監される妖怪たちが互いに近づきすぎない場所にいくつか備え付けられている。今回は事前にここへと退魔師協会から指示があったらしいので、諭吉くんがここに封印してくれたらしい。
「やっぱり兄さんがいると違うや。楽チン楽チン」
「そう?諭吉くんの役に立てたなら、お兄ちゃん嬉しいな。うっふふふっ」
やっぱり、兄弟だものね。お兄ちゃんだもんね。頼りにされるのは嬉しいなぁ。異母兄弟ができたことに戦慄した在りし日の記憶が懐かしい……。異世界ファンタジーの定番テンプレを恐れたが、異母兄弟でもこうして仲良くなることができたのだから。
「んもぅ、兄さんのバカっ!」
はぅんっ!諭吉くんの『おバカ』……あざまぁーっすっ!
「でも、俺が退魔師のお仕事に参加できるなんて。思ってもみなかったな!しかも諭吉くんと一緒かぁ~~。お兄ちゃん嬉しいっ!」
「んもぅ……っ、兄さんのバカっ!そんな風に言われたら……っ」
ん?何か嫌だった?
「やっぱ、兄さんのバカおバカっ!」
あぁんっ!!諭吉くん、超御満悦~~っ!ふぃ~~。安心、安心っ!
「でもま……兄さんの参加については……まぁそれが兄さんの今の処遇の条件だったからね」
「俺の……処遇の条件?」
つまりは真冬のパートナー兼使役人間になって首輪とリードつけられ、もふもふちび蜘蛛たちにもふまれながら夜のおトイレの心配されてる……処遇かな……?
「ふふ、私たちが退魔師の仕事に妖怪側から参加することへの条件だったからですよ」
すると真冬がそう教えてくれた。
え、初耳なんだけど!?最初に教えたいてよーっ!?教えられたところで真冬のペット化からは逃れられなかったんだろうけどね!?
「あ、でも。妖怪側から?いいの……?退魔師に協力擦るんだよ?」
本来は敵同士……なんだもんな。コンちーたちは諭吉くんたち退魔師と契約しているが、当然ながら退魔師に味方することになるので、他の妖怪たちからは敵と認識されてしまうのだ。
時には契約してなくとも人間の味方になってくれる妖怪はあれど、そう言う妖怪はうんと少ないはずだ。やはりみな、同胞が恋しいから。
「それもそうですが……人間だって、人間の犯罪を取り締まっているでしょう?」
「うん、まぁそうだね」
和風ファンタジーなのに交番もあるもの。もちろんお巡りさんもいるよ。
悪いことをする人を取り締まるのはもちろんお巡りさんのお仕事。
悪いことをする妖怪や退魔師を取り締まるのが退魔師たちが所属する退魔師協会である。
「だから妖怪側も、そうやって悪い妖怪を取り締まることがあるのですよ」
「でももっと、同胞意識が強いのかと思ってた」
そう座学でも習ったけれど。現場とは状況が異なっているのか……?
「どうでしょうねぇ。そこまでではないかもしれませんね。特に人間の側で暮らす妖怪たちにとっては、人間の生活あっての暮らしですから。人間にいなくなられると困るのです。蜘蛛も、蛇もそうですね」
まぁアオダイショウもお家の守り神だし、蜘蛛も益虫である。蛇妖怪や蜘蛛妖怪だと害虫に相当する害のある妖怪を追い払ってくれる。
こちらの世界ではお家に蜘蛛妖怪やアオダイショウの蛇妖怪などが来たらありがたいと言う考え方がある。
だからむげに追い出さない。もし不安があれば退魔師に相談と言うのがこの世界の常識である。
「でも、ただで……と言うのは面白くないんですよね」
面白いかどうかなのか?まぁ、妖怪って悪戯好きだったり、茶目っけがあったりするからなぁ。妖怪にとっては大事なところなのかも。
「だから、それならビャクが欲しいと望みました」
「俺?ほんとなんで俺。あ、俺が霊力がないから好き放題できると……っ!?」
お前、わりと黒いのか!?真っ白なのにぃっ!
「兄さん、さっき鬼の自尊心以外もバッキボキにしといてそれはないのでは……。まぁそれはそれで兄さんに沼るポイントなんだけと」
そうなの?諭吉くん。お兄ちゃんが諭吉くんからのおバカコールに沼ってるのと同じ現象かな?
「あらあらビャクくんを好き放題なの……?それはそれで精神を貪られそうだわ。ちょっとゾクゾクするけどねっ」
そう可愛らしく続けてくれる桜姐さん。だけど精神をってどゆこと桜姐さん!?
「鈍感と言うか、何と言うか。そこがいいのだったか?」
コンちーが様子を窺うように真冬を見やる。
真冬は含んだようにふふふっと微笑むだけだが。
「あのねぇ、兄さん。バカなの兄さん。いやバカなんだけどさ」
ぎゃふっ、ごほっ、諭吉くんのバカバカかっわぅぃーうぃっ!
でもどうしてかな?諭吉くんのそれはお兄ちゃんの精神も捥ぎってね?いや、お兄ちゃん、諭吉くんに言われるんなら爽快な気分に浸れるから好きだけどね!?
――――あ、言っとくけど他のひとはダメだよ!?ノーセンキュッ!
同年代退魔師連中からのなじりとか、年下退魔師からのバカにしてるおバカはやだっ!お兄ちゃんは諭吉くんだからこそいーのっ!諭吉くんのおバカコールが心地いいのっ!
「兄さん、真冬さんは相当妖力高いよ。ぼくやコンちーが思わず萎縮しちゃうくらい」
「え、でもその割にはへーきそうにしてんじゃん?」
「あ――……、兄さんが一緒だと……ましかな?」
「まさか霊力0でもそんな効果をもたらせるなんて、私でもまだまだ知らないことがあるなんて思わなかった」
よく分からないが、コンちーから褒められたらしい。よっしゃっ!
「だって楽しいですからね!こう言うのは楽しいのが一番ですよ」
「楽しいのが……一番?」
「パートナーなんですから」
「ん、そうだな」
一緒にいて気が合うのが、一番かな。霊力と妖力の釣り合いが取れなくても、通じ合うものはある。
ボロ゛ン゛ボロ゛ン゛リ゛ン゛ッ
ボロ゛ン゛ボロ゛ン゛ギイ゛ン゛ッ
俺はお琴を奏でた。
「やっぱり好きですよ、ビャクのお琴」
「悪趣味だけどなぁ」
不協和音だらけの俺のお琴を好きだなんて言うなんて、真冬くらいじゃないか?
あれ?前にも何かどこかで……。
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