第7話 蜘蛛屋敷の朝


ボロ゛ン゛ボロ゛ン゛リ゛ン゛ッ


ボロ゛ン゛ボロ゛ン゛ギイ゛ン゛ッ


不協和音が響く。


いつもちゃんと弾いてるはずなのに、どうしてだろう。


「おれ、へたくそだ」


「……そうでしょうか」

その柔らかな声色に、俺は顔を上げた。


「私は、好きですよ」

そう言って微笑んだのは、誰であっただろうか。


※※※


「ビャク、ご存知ですか?」

「んん、んにゅぅ~~。何だよ、朝っぱらから」

朝起きたら、枕元にいた真冬。ほんと、自由すぎる。でもおじいもいつの間にかいて、朝になったらどこか別の場所に行ってしまったし……ここの妖怪たちは自由だ。

――――――――蜘蛛だからかも知れないが。


しかし……蛇もかもしれない。だって……。


掛け布団の上でカラスヘビさんが腹出してくーすか寝てたんだもの。自由だ。自由すぎる。


そんな寝室で起き上がって、カラスヘビさんを起こさないようにそっと横によけて、腹にタオルケットを掛けてやる。

そうしていればちび蜘蛛たちも起き出した。もふもふですごいいい寝心地だったのに、朝から何だよ、真冬ったら全く。


「このサンボンより南の国に、このくらい大きな蜘蛛がいるのですよ」

真冬がヒト型の腕でこんくらいと見せてくれる。大人の顔よりもでかい。


「ちび蜘蛛じゃなくて?」

「えぇ、妖怪ではありません」


「ふぅん……でか」

実際の野生生物ってことか。

でも地球でも……東南アジアにそれくらいでかい蜘蛛がいると聞いたことがある。

こちらの世界にいたとしても別に不思議ではないかも。


「その蜘蛛なのですが……」

「ん?」

何だよ、もったいぶっちゃって。


「こうやって後ろ足を掻き掻きしていることがあります」

見ればツチグモちゃんが蜘蛛脚で身体を掻き掻きしていた。見る分にはとてもかわいらしい。


「へー、かわいいじゃん」

頭なでなでしてあげちゃう。そして喜ぶ様子もかわいいなぁ。


「でしょう?でもこうしている時は、チクチク痒~くなる毛を熱心に飛ばしている合図なのですよ」

「あぎゃ――――――っ!?」

思わずツチグモちゃんの頭から手を離して跳びはねそうになったのだが。


「ぷっ、ククッ」

「ふぇ?」

真冬が吹き出した。


「ちび蜘蛛にそう言った能力があったら、一晩同じお布団の中で寝ただけで、麻痺して動けなくなっていることでしょうね。それも、3匹だなんて……ふふふふふっ」

あれまーと言う表情を向けてくる真冬。


「いや、3匹差し向けたのお前だろーがっ!」


「いえ、ビャクの妖怪に対する危機管理能力がどのくらいなのかを試してみたのですが……全く皆無じゃないですか。天井にはおじいまでいたのでしょう?」

何故そこまで知ってる。声でも聞こえていたのだろうか。それとも何か、蜘蛛同士通じるものがあったのだろうか。


「でもま、夜のトイレの心配もあると思いますし?」

「ギクッ」

完全に見透かされてるぅー。


「良いセラピーだったでしょう」

「あー、うん、まぁ。てか騙したなっ!?」

ちび蜘蛛たちにそんな恐ろしい能力なかったじゃんっ!!ただもふもふに癒されただけじゃんっ!あと、夜中のトイレに着いてきてくれるぅっ!


「ですが、知らない妖怪を寝室にホイホイ招くとか普通あり得ないですね~」

「うぐっ」

確かにそうだけど!


「ちび蜘蛛たちは真冬が紹介してくれた子たちだし、おじいもいい蜘蛛っぽかった。いや確実に蜘蛛だったし。ちび蜘蛛たちも懐いてるみたいだったからいいかなって」

天井から吊り下がってたのにはビビったけど。


「まぁ、そうですねぇ。私のこと信頼してくれてるんですねぇ」

真冬が穏やかに笑む。


「そ、そりゃぁ、その。パートナー、なんだろ?」

諭吉くんとコンちーも、パピーとわふちゃんだって、マミーとウサウサも、互いを信頼し合うバディである。


「俺たちも、パートナーなんだから信頼しあったっていいじゃん?」

主従関係は真逆だけども。

俺の方が使役されてる。ご主人さまが蜘蛛妖怪真冬さんの方。……ぐすん。


「ん――――……それもそうかもしれませんね」

クスリと微笑む真冬。何だか妙に嬉しそうな……?


「さて、今日はお仕事に行きますよ」

「お仕事?何の?」


「決まっているじゃないですか。妖怪関係のお仕事です。今日は諭吉くんとコンちーも一緒です。待ち合わせ場所や時間はこちらで調整しましたので。はい、着替え」


「え、それって退魔師のお仕事?俺行っていいの?あー、でも着替えはもらう」

普段なら霊力まるでない俺は、危険だから同行は絶対不可とされるのに。


「えぇ、どうぞ。しかし……ビャクが同行するのは構いませんよ。だからこそ私がいるのですし」

何て頼もしいバディ名言っ!!……でも、

「真冬……。俺、何もできないよ?」


「マスコットです」

「はい?」

いきなり何の話ぃっ!?


「たいしたことはできないですけど、退魔師少女の隣でぴーちくぱーちくしゃべるマスコット使役妖怪も、相棒ですよ。あなたは使役人間ですけど」

あぁ俺そう言う立ち位置ね!?うん、よぉくワカッタタタタッ!退魔師少女……地球風に言えば魔法少女!俺は魔法少女のだいたい隣にいるけど大した戦闘力ないマスコットぉっ!うん、よぉく、ワカッタアァぁッ!!


……。


……あの、


…えーっとね、泣いていいですか。今だけ。


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