第6話 妖怪土蜘蛛


さてはて……前世でも有名だった妖怪土蜘蛛さんは……どないな感じ!?つか、でかいよね?アイツでかいよね?屋内に入るの!?ドキドキしながら待っていれば。


「ほぉ~ら、おいでおいで~!この人間のお兄ちゃんがですねぇ~」

真冬が手招きをして、わらわら集まってきた茶色い集団に語りかける。


「君たちに食べられたりしないかと怯えているんですよ~!うっふふふぅ~っ」

ニッコニコ真冬ご主人さまさまの傍らには、5歳児ほどの茶色い髪に黒い瞳、背中からもっこもこな蜘蛛脚を生やしたちび蜘蛛妖怪ちゃんたちがいた。

何か……かわいいんだけど!もっふもふだよもふいよちび蜘蛛ちゃんたちぃっ!!


「……ふぇ?」

「たべる?」

「おかち、おかちたべりゅ!」

なーんか超絶恥ずかしいんですけどぉ――――――――っ!?


「あぁ、紹介しますね、ビャク。このコたちが土蜘蛛。正確にはツチグモとエゾトタテグモ、ちょっと色の淡いコはワスレナグモ。みんな土蜘蛛仲間ですよ」

「がっはぁ――――――っ!」

その何事もなかったかのような解説~~っ!逆に心にぐっさりと突き刺さるぅ~~っ!ひえぇ、ドSぅ~~っ!!!

想像していたよりもずっと、いや遥かにかわいすぎるわっちゃわっちゃちび蜘蛛ちゃんたちだったのぉっ!!あ~んっ!


「……あの、えぐっ。そ、そのぅ、でっかい土蜘蛛は」

前世にテレビとかで見たでかい土蜘蛛は……い、いればまだ、恥ずかしさを紛らわせることができると……俺は信じたいっ!


「ふむ、そうですねぇ」

真冬にお菓子をもらってはむはむしているちび蜘蛛たちに手を振り、また違う部屋の前にやってきた。


「ほら、中にいますよ」

この中に、でかい土蜘蛛が……っ!?開けた瞬間襲われたらどうしよう。でも、真冬さんもいるし……。だい、じょぶだよね?ドキドキバクバクする心臓を鎮めるように唾を呑み込……


すとんっ


みきる前に開~け~ら~れ~たぁ――――――っ!?


「ひいぃぃっ!?食われるぅ――――――――っ!?」

つい絶叫してしまったのだが。


「あら、真冬ちゃん?どうしたの?」

「ようやっとビャクちゃんが来たのねぇ」

「かわいいわねぇ。食われるって、なぁに?」

その中なら響いてきた声はとてもかわいらしい女性のものだった。


彼女たちはさっきのちび蜘蛛ちゃんたちをそのままおっきくしたような、かわいらしいお姉さんたち……いわゆる蜘蛛女たちがいた。


「……」

俺、またスベったぁ――――。隣で笑い堪えるのやめてぇ真冬さぁ――――ん。


うん、そだね。

何か……何かチガウ――――――――っ!確かに大きいよっ!さっきのちび蜘蛛ちゃんたちに比べれば大きいよ!でもチガウ、そゆことやないぃっ!!


「オスは?」

オスならでかい?いやでも蜘蛛ってメスの方がでかいイメージがある。


「……いますけど、そんなに会いたいんですか?」

真冬が堪えていた笑いを呑み込み、こてんと首を傾げる。


「恐い土蜘蛛は!?恐い土蜘蛛はいないの!?」

もう、前世で見たテレビでのトラウマ土蜘蛛なんて知るかあぁい!!ここは、ここはもうおっかなビックリ土蜘蛛を見るまで終われない……!これは、俺のプライドを懸けたなんやかんやであるっ!


「口から糸をシャーッと吐くのは!?」


「あら、糸を?」

「シャーッて、蛇かしら」

「ヘビは糸を吐かないわよ?」

と、ぽかんとしているお姉さんたち。


「ビャクは土蜘蛛が糸を口から吐くと思っているようです」

「そうそう!そうでしょ!?」

前世テレビとかで見たもんんんっ!!


「え?土蜘蛛が口から?」

キョトンとするツチグモお姉さん。

「んまっ、最近の若い子ったらっ!!」

口に手を当てて驚愕するワスレナグモお姉さん。

「人間ってそう言う想像をするの?やぁねぇ」

と、エゾトタテグモのお姉さん。


がはっ。

何か相当見当違いなことを口走っていたらしい。はっずかしぃ~~っ!


「蜘蛛女は怒ると恐いですよ」

「……。ごめんなさい」

即、陥落っ!


「いいのよ~。あと、ユカヤマシログモなら口から糸を吐けるわね」

吐ける蜘蛛もいるんすか、ツチグモお姉さんっ!


「ツチグモでは……」

「ないですね」

そっすか――――――。前世の土蜘蛛ドリームは、ボロボロに崩れ落ちたぁ~~っ!


まぁでも妖怪は男妖怪より女妖怪が恐いってのも分かる。オネエ妖怪も強いよね。あと、どこの世界でもおかんは強い。母は強い。マミーも強いよ。パピーを術式でぶっ飛ばすくらいである。最強である。


「蜘蛛女は最強です。この屋敷では合言葉ですよ」

蜘蛛屋敷ならではの合言葉――――――っ!


「そうよぉ」

「蜘蛛女は怒らせると恐いのよ」

「うふふふふ~っ」

ゾクッ。


何だか蜘蛛女土蜘蛛シスターズのお姉さんズの朗らかな笑みに、背筋がゾクッとなった。


「おや、ビャクも妖怪にゾクリと来るんですねぇ」

感心するように告げる真冬。そりゃぁね!?一般庶民ですら恐いと思う鬼にも俺はノーリアクションっ!ノーリアクションすぎて鬼がいじけちゃって、諭吉くんがその隙付いて叩きのめしてくれたことあるよ……!


いやー、諭吉くんは鬼も倒せるんだすごいなぁー。俺には真似できないよー。霊力0だしぃ。


鬼の自尊心バキバキに折ったことしかありませんっ!でも反省はしてませんっ!だって霊力0は自分でもどぉにもできないもんね――――。

んもう開き直りっ!イェイイェイイェイッ!


そんなこんなで俺は激にぶちんなのだ。でも、お姉さんズの笑みにはゾクリときた。多分これは、そう言うのじゃないんだ。妖怪うんぬんじゃなくて、男として、これは逆らっては行けないと本能が告げているんだぁ~~っ!!!



※※※


蜘蛛屋敷一日目は蜘蛛屋敷の探検で幕を閉じた。ご飯もお風呂も済ませて部屋に戻れば、ちゃんとお布団が敷いてあった。


「わぁ、ふかふかぁ」

枕は変わったが、これなら快適に寝られそうだ。


ぽふんと横になれば……


すすっ


すとんっ


寝室の襖が開いて、一瞬ビクンと来たのだが、そこにいたのは本日出会ったかわいらしいちび蜘蛛ちゃんたち。ツチグモ、ワスレナグモ、エゾトタテグモだったよね。


「どうしたの?」

丁寧に襖を閉めたあと、とたとたとこちらに歩いてきた3匹に上体を起こせば、俺のお布団の上にころんと転がる3匹。

なにこのもこもこ。かわいすぎないか。


「まふゆににがゆってた」

「真冬が……?何て?」


「びゃく、夜こわくてひとりで寝られないかもって」

「だからいっしょに寝てあげなさいって」

「おトイレもいっしょに行ってあげるね」

ぐぁっはぁ――――――っ!!!真冬ぅっ!真冬ご主人さまは俺をどないしたいん~~っ!?最後の最後までドSやんっ!俺、ひとりで寝られないキャラにしてくれるぅっ!


――――――いや、でも夜中のトイレは……ありがたいかも?なんと言うか、この世界に転生して18年なのだが、日本家屋の夜中のトイレは……恐い。廊下が底知れない闇を宿しているからねっ!


トイレまでの廊下が妙にひんやりとしていて、薄暗くて、遠い。その廊下を進まなくては行けない恐怖、心細さ。これだけは未だに慣れない。


そしてここは来たばかりの日本家屋っ!寝る前にトイレには行ったが、夜中突然おトイレに行きたくなった時、一緒に行ってくれるちび蜘蛛ちゃんたちがいるなら、まだ堪えられるっ!


いい歳した男が何言ってんだと言う感じかもだが、しかし日本家屋の夜の廊下はそう言うものなんだぁっ!


「ちょっと外のぞいていい?」

「覗く?」

「いこいこ」

試しに襖を開けて廊下に出る。すると闇が深いその先の見えない廊下に思わずぶるりとする。


しかしどこからか賑やかな声がする。振り返って見れば、真冬の部屋の更にその先の廊下が明るい?いや、部屋の明るさかな。


「あれは」

「くもおんなのうたげ」

例の女子会かぁ――――――っ!


「いく?」

え、行ってもいいの?


「もどれなくなる」

ひぃっ!引きずり込まれるんだぁっ!屋敷内の治安はいいけどあそこだけは魔境~~っ!


「あさまで」

いや、朝になったら戻れるのかぁ~。でも朝まで寝かせてもらえなさそう、絶対行かない、俺眠い。


「寝よっか」

「びゃく、びびり?」

ぐはっ。確かにそうだけど、ストレートに言われるとグサッとくる。ちび蜘蛛たちに言われると妙にグサッとくる。


襖を閉めて、お布団に横になれば、ちび蜘蛛たちも思い思いの場所に寝転がる。昼間は暑くても夜は涼しいこの国の夏。


掛け布団もないと寒いから、お布団の中で丸くなってくれるもふもふちび蜘蛛たちはありがたいかも。お布団にごろんと仰向けになれば。


「さぁ~て、寝よっか」

「びゃく、上」

へ……?上?ツチグモちゃんの言葉に天井を見上げれば。


「もう就寝かえ?人の子は早寝だのう?」

天井に、いた。逆さまに吊り下がった……


「あ゛ぁ゛――――――――っ!?」

蜘蛛脚を背中から出して、ばぁっと両手を広げた色素の薄い髪と瞳の蜘蛛と思われる青年の姿に絶叫した。


「だ、だだだだだっ、だれ」

「タイリクユウレイグモじゃ。じじいじゃ。よろしゅう」

えぇっと、その、彼も蜘蛛妖怪?そして、じじいて。


「おじい」

「おやしきすんでる」

「おじいおやすみー」

どうやらみんなのおじいポジらしい。

しゃべり方も少し古風だものなぁ。


「お、お休みなさい」

と、挨拶をすれば……


「うむ、良い夢を見るとよい。夜中トイレに行きたくなったら言うがよい。ちび蜘蛛たちが熟睡しているやも知れぬからのぅ」

いやまぁ、その可能性は確かにあるかも。



「……そ、その時は、よろしくお願いします」

ちび蜘蛛ちゃんたちが、起きなかった時のためにぃっ!!!


「うむ」

天井から吊り下がっているのはホラーだけども、ここはお言葉に甘えとこうと思う俺なのであった。


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