第4話 冒険者ギルドで登録です。

 ブラバルース・クリスティンさんに深く頭を下げられました。

 ブラバルースさんはこの街ジョートと王都シェーマスを拠点にしている優良冒険者の方だそうです。

 昨日の朝ジョートについてすぐに私からはなれたのは通りすがりの無頼漢に絡まれている人を救助にむかったからです。私は「ちょっとそこで待ってろ」としか言われてませんから知りませんでしたが。

 で、怪我をして事情聴取等もあり治療院から今日解放されたとのことです。

 護衛としての仕事はともかく慌てて私のことも探していたそうです。優しい。


「お怪我もう大丈夫なんですか?」


 治療院に一晩拘束されているって大怪我だったのでは?

 私の常識では治療院は教会に付随する施設で治療師たちがあっという間に治療してくれるものです。

 病や欠損は自身の階位上げか特性を持つ選ばれた治療師のみだったはずです。

 兄のひとりが姉のひとりに『欠損治療試したいからお兄様指でいいからちょっと落としてください』とせまられていました。……姉もレベルアップジャンキーでした。

 母国にはレベルアップジャンキーが多く治療師も多かったですね。

「怪我は大したことはなくて『眠り』の魔道具で、危険性はなく、寝てるだけだからと放置されて滞在費を請求されただけ。ほんとうに申し訳ない。その間にツロが助けてくれてほんとに良かった」

「ゴミと間違えて蹴ったしな」

「は!? 子供蹴ったのかよ! ひでぇな!」

「護衛対象放置したお前に言われたくねぇ」

 唐突にはじまったツロさんとブラバルースさんのやりとりに私はついていけず、ただただ発言者を視線で追うばかりです。

 ブラバルースさんもギルドを通して私の存在を探すつもりだったらしく、受付の前で鉢合わせました。

 ブラバルースさんに「生きてて良かった」と膝をつかれたのは正直びっくりしました。

 受付のお姉さんに怒鳴られて談話室に移動させられ今があります。


「とりあえず、無事でよかった。ありがとう、ツロ。ここからは引き継ぐよ」

「ふざけんな。依頼不履行引き起こしたお前がなんで継続できると思うんだよ。依頼金を返して賠償金まで払うのがスジだろうが。それはともかく、予定していた依頼を話せ」


 談話室のローテーブルをガンと蹴ったツロさんをブラバルースさんは悔しげに睨みます。


「……正論ではあるな。ギルドに登録して冒険者としての身分登録。一年間の生活補助。つまり宿の斡旋や生活費を稼ぐために身につけるべき常識技術を覚えられるようにサポートしていくことが基本的な依頼内容だったな」

 ブラバルースさんの説明内容を聞くに爺やの配慮が光ります。

 ありがとう爺や。

「いきなりポシャってんじゃねーか。まぁ、コイツの存在値の低さを考えれば難易度は高くなるな。安い依頼だったのか?」

「いや、なのは亭食事湯浴み付き一年間の宿代を払った上で冒険者装備一式を用立てるための資金と同額相当の貴石が報酬だ」

 どのくらいの価値かは私にはわかりかねますがツロさんの視線はより冷ややかさを増しましたよ。


「……おまえ、なにそれだけ支払われた依頼対象をゴミにしてんだよ。初心者冒険者装備一式って言わねぇあたりに胡散臭さが含まれてるぜ」

「ちなみにギルド登録等の手続きサポート費用は別途支払われ済みだ」


 ぎゃんぎゃんと白熱していく二人の会話に首が疲れてきた頃、受付のお姉さんが私の肩を叩いて書類を見せてきました。

「こっちにいらっしゃい。冒険者登録しましょうね」

「あ、はい」

 語り合う二人を置き去りにして受付のお姉さんと隣の部屋に移動です。すこし静かさにホッとしました。

 椅子を勧められて着席します。

 流れるような動きでテーブルに書類が置かれました。

「エンジョーでは冒険者は納税者として滞在を認められているの。魔物を倒したり、魔坑に立ち向かうだけがお仕事ではなくて、街の中の雑務や住人の困り事を解決したりすることを求められているの。一定の貢献が認められれば準市民権、市民権を得ることも可能よ」

 私は大人しく説明を聞きます。

 家を出された私は現在所属のない流民です。

 流民は人に非ずともされ、加害されても『流民だしな』と納得される存在です。私の国では流民といえば無能な落伍者というのが定説です。それよりマシな存在が雑役労務者でしょうか。レベルアップジャンキーの国では階位をあげられない人間は人扱いされないのです。

 適性が低いと階位は上がり難いものですし、大概同じ場所に階位をバンバン上げることができる適性者がいて比べられるもので、繰り返すことで自信を維持することが難しくなっていくんですよね。

 いっそ一切上がらなければ清々しく思えたかも知れません。


「まずは、ここに名前を記入してね。……文字は書ける?」


 問われて書類に目を落とせば、とりあえずは読み書きできる言語でした。エンジョーでの公用語が習った言語の中にあって幸いだと思います。難しいことは書けなくても名前と数字くらいなら書けます。

「はい。書けます」

 渡された筆記具は魔力を通して色を発色させる魔力ペンでした。

 家から出されたので家名はなしです。名乗れば罪に問われることになります。

 それともそれは故国の法でここでは縛られないものなのかも知れませんがわからないので名前だけを書き入れます。

「カシオンっていうのね。よろしく。私はニーナよ」

「はい。よろしくおねがいします。ニーナさん」

 にこりと微笑まれて気持ちが上がります。

 年上の素敵なお姉さんにはドキドキしてしまいます。

「次の項目は年齢ね」

 名前。年齢。性別。

 記入を要求されている情報はそれと特技でした。


 カシオン。

 十三歳。

 男。

 特技は……存在感が薄い?


「あら。いいわね。斥候とか狩人に向いているかも」

 存在感の薄さという技能(?)を褒められましたよ。すこし照れ臭く思います。

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