第3話 初屋台飯。今日から馴染みの味予定です。
昼の標が天の中央に至る前にツロさんは街から帰ってらっしゃいました。昼食にと屋台飯を携えて。
ざっくり説明されたところ、食器の類は裏に井戸な水場があるのでそこで行うとのことです。狩った獲物の解体用の水場では口に運ぶものは絶対に洗うなと注意も受けました。
どちらかと言えば解体用の水場には近づくなということだそうです。
日常使いの井戸の方は雨が降っていてもなんとかなりそうな屋根も備えているようでした。
「この辺は冬は雪が積もるんだ。魔法で水は出せるが井戸水の方が俺は好きでね」
聞いていると雪が積もるといってもそれほど深くはならないらしく、井戸まわりには屋根と柱が備えられているくらいですね。
夏にはざっくり蔓を編んで日避けで囲むそうです。春には雪や水で傷んでしまうので燃やすとのこと。……つまり、冬を越した日除けを燃やした後なので壁はないようです。
薪の保存庫が片側の壁がわりになっていて見ていると妙に胸が高鳴ります。無造作に置かれた鉈と切り株の組み合わせもいい感じだと感じます。
なんというか、そう『薪割り』って感じです。
とりあえず、しばらく置いてくれるというツロさんには感謝しかありません。
「いや、放置したら寝覚めの悪いことに速攻なりそうだからよ。あとで街に登録に行くぞ。なにかあった時の対策はいるからな」
「はい!」
ツロさんは頼りになるいい人です。
「ツロさんは優しいから利用されないように森に住んでるんですか?」
「は?」
凄まれました。
優しくされているので優しい方だと知っているんですがちょっぴりビクッとしてしまいますね。カッコいいですが。
「あー、いい。いい。昨日は蹴り踏んじまったからな。体ぁイケるか?」
質問は聞かなかったことにされました。
痛み……。
脇腹はすこし痛みますが武術系のお稽古で受けた打撲と近くこのくらいなら問題なく動けると判断できます。
それに。
「ツロさんが蹴ったのは背嚢でしたから、起きれたんですよ。ありがとうございます。あのまま意識のないままだったらちょっとこわいです」
野犬とか城壁内で飼ってる野豚に味見される私が想像に難しくないです。
「あー、抱え込んでたのか。……なんでゴミみたいに地面にぶっ倒れてたんだ?」
もっともな事をツロさんは問います。
そこは私も疑問なんですよね。
この国の国境までは爺やが同行してくれましたし、爺やが雇ってくれた冒険者の人がいたんですが、あの路地で待ってるように言われたんですよ。あれ?
「私、冒険者さんを置き去りにしてしまった!?」
「あほか。護衛依頼放棄したのはその冒険者だろ」
そうなんですか?
護衛の人に忘れられることなんてよくあることだったのではぐれた私が悪いものだと思っていましたよ。
「あ!? なにぼやっとしてるんだ?」
「えっと、その、私の存在を忘れられることはよくあることでして、ちゃんと気が付かれない私が悪いものだと思ってました」
「いや待て。よくあっちゃいかんだろ」
だってよくあることなんですよ。
イライラした兄によく叱られてましたから。
「あー、あー。なるほどな」
いきなりツロさんに額をわしづかみされて視線を合わせられました。ツロさんのまつ毛は意外と長くキツめの目の形を強調しています。
星が瞬く夜空の紫まじりの濃紺な眼球はとても綺麗で見惚れてしまいます。
「なるほど?」
「存在値がうっすいわ。お前のせいじゃねぇな」
ふっと離れてひとり納得しているツロさんですよ。
存在値ってなんですか?
「まぁ、いい」
いいんですか。はい。
「冒険者に出していた依頼内容は把握しているか?」
え?
確か、爺やはなんと言っていたか。
「大きすぎない町で当座の生活が可能な環境への案内と警護だったと思います」
「はい。依頼不履行! 冒険者ギルド通していたか?」
「わかりません」
屋台飯での昼食を終えてからジョートの街に向かうことになりました。
あの街ジョートっていうんですね。
納得する私にツロさんはため息をついてから。
国名のエンジョーとこの森がソーラという名前だと教えてくれました。
エンジョーという国名は国際史の本で見た覚えがありましたが、どんな国風かはすみませんがぜんぜん不勉強ですね。
ツロさんは「いい、いい」と軽く手を振ってくれました。
優しい。
「美味かったか?」
……考えながら食べていたので味を気にしていませんでした。
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