第2話 ツロさんがいないのでなにもできません。留守番してます


 ツロさんが街にお仕事に行っている間、私は留守番です。

 とりあえず掃除でもしようかと思っています。

 両親も私を捨てるのは外聞が悪いとのことで言葉は通じるけれど戻るには苦労し、かつ交流の薄い国を選んだそうです。生活費二、三年分✖️三がなければただただ見捨てられた感が酷いことになったと思います。

 少なくとも成人できるまで生きていけるようにと手は差し出してくれたんですよね。私の不注意で失くしましたが。

 私の国では人は誰しも神からの恩恵を授けられているとされています。神からの贈り物。つまりギフトです。

 兄の一人は『嘘の色が見える』というギフトを持ち、王室に召されることが決定していました。希少ではありますが類似のギフトは他にもあるそうです。基本的に家族仲のいい家でした。王室に勤めるということは自動的に家人は人質でもあるそうですが、元々が国の民がよく暮らしていけるための努力は積むべき事というのが我が家の家訓でしたから問題はありません。


 むしろその家訓を持って私は追放されたワケですね。


 兄の『嘘の色が見える』という能力はあくまで見えるだけなのでそれに応じた対応をこなすには非常に多い知識と人脈、その他能力が必要になるとのことです。

 兄に与えられたギフトの特異なものは確かに『嘘の色が見える』でしょうが、他の能力も関連ギフトを持たないなりにきちんと伸びたんですよ。兄は。

 言い訳をするように兄は私に言ってました。

『知識が増え、武術や舞踏、芸ごとに触れて『嘘の色が見える』というこのギフトは洗練されていく』

 すべてがつながっていると言いたいのかと感心しかけたんですが。

『身についていくと、ある時に急に世界がひらけるんだ。その瞬間、すべての疲労が溶け消えて理解に一歩足りなかった事柄がすべて関連付いて世界が広がり、無知に気がつくんだ! 快感だよ!』

 と続いたのでただの階位上げ中毒者でした。

 経験を積むと一定で一気にできることが増える瞬間があり、その経験を積んだことを神が祝福してくださるとかで疲弊していても元気になれます。

 これをもって『レベルアップジャンキー』と言われています。いつ、なにが上がるのかは不明ですが時に病すら癒す階位上げです。病人や怪我人が積める経験というものがなにかはわかりませんが欠損以外は治せなくはないそうです。

 私もそう物心ついて数回は経験してはいます。

 手習が増えるたびに見てきました。

『わぁ、階位が上がるってたのしー』

『はじめは上がりやすいんだってー』

 同じように習いはじめた子達が初日で階位の上がりを数回経験する様子を。

 私は、早ければ三日目くらいで最初の階位が上がります。

 初歩の初歩を覚えられたくらいの階位の上がりで、師になる人たちがそっと憐れむ眼差しをむけてくるんですよね。ほぼ毎回。

 一対一ならちゃんと段取りを教えてもらえるのですが、一対複数の場合九割私の存在は忘れられます。

 まぁ、それでも家としては私の教育に資金は間違いなく投入しているわけで。

 領の役に立つ。国の役に立つ。婚姻や就職で有用な縁を繋ぐことが求められます。

 私のギフトは手に持った飲み物を持った時の温度のまま維持するという絶妙に役に立たないものです。

 だから、両親は私がすこしでも伸ばせる才能を間違いなく探してくれたんです。

 適性はなかったんで、放逐が決定したんですけどね。

 私のいた国はギフトを有用に扱える人は認められて伸びていくんですが、ギフト及び才能がイマイチな私のような人間には居心地が悪い国なのは確かでしょう。


 ギフトで特にできる人ほど『できないからって努力しないからだろ』って言うんですよ。私だって期待に応えたかったのに。


 この国ではギフトはどう扱われているんでしょう?

 私でもできることがあればいいんですが。

 ああ、まずは食事に使った食器を洗うべきですよね。

 テーブルに置きっぱなしの食器を確認し、私はぴたりと動きをとめました。


「洗い場、どこ?」


 川まで洗いにいく?

 近場に井戸がある?

 というか、しまう場所どこ?

 ツロさんの住居は確か森の中で(だから外に出るなとは言われた)食卓のテーブル以外には置き場を競うように雑多なもので溢れています。不必要に触るべきではないでしょう。

 鉱石や魔鉱石の詰まった籠や渡された紐に吊るされた薬草や玉葱。糸を紡ぐ紡ぎ車や機織り台、隙間に見えるのは金床に幾本かの棒やすり。無造作に壁に立て掛けられた槍と盾。魔物と思われるものの骨化した頭骨。

 カッコいいんですが、私はお片付けをできませんね。

 ツロさんが戻ってこられたらいろいろ聞かなければいけないと思いました。

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