第24話 覚せい剤
勝負の朝が来た。
清水が出署すると、すでに全員揃っていて「おはようございます」元気よく言われてたじたじとする。
「なんや、みんな気合入ってるようやなぁ」
清水の机上に山積みのペーパーが乗っていた。
「なんやのこれ?」
見ると、昨日話した覚せい剤の保管場所を探す場所だった。
「こないにぎょうさん探してなかったちゅうこってすか?」
清水は驚きもしたが腹も立った。
「なんでこないに有るのにはよ言わはらへんのや!」
怒っては見たものの、確かに探していない場所だった。
中には興備真世の部屋というのまである。
同じ場所も書かれていた。多かったのは山脇の家(道源邸)と言うものだった。
「なるほどな。よっしゃ道源邸ちゅうのんを採用やわ。みんな支度して行で。ご褒美は後や」
……
道源邸に着いても家主は警察署にいるから家政婦の天塩さんと言う女性に令状を見せて捜索を始める。
一階と二階の部屋を確認したが何も出なかった。
ひと部屋だけ鍵が掛けられていた。『事務室』と言う札がドアに貼ってあった。
家政婦を呼んで開けてと頼むが鍵を預かっていないと言う。
署に電話を入れて道源に訊いてもらった。
部屋の鍵は車などの鍵と一緒に持ち歩いているらしい、持って行くので一時間待ってて欲しいと言われた。
「一時間かかるんやて、その間に物置とか外回り見よぅかぁ」
清水が外へ出て邸をひと回りしようと山側へ行くと一棟アパート風の建物がある。
「あれなんやろ?」
「あぁ昔使用人が住んでたらしいんですけど今は使ってないということでした」大門山刑事が答えた。
「ほーかー、……」そう言いながら傍まで行くと何やら甘い臭いがする。
「大門山、甘い匂いせーへんか?」
「あぁしますね。何の匂いだろう?」
「ここの鍵は?」
大門山刑事が走って母屋に戻ってちょっと時間が経って戻って来た。
「ここも道源が持ち歩いているようなので一緒に持って来てもらうよう頼みました」
「ふーん、太陽光パネルまであるで、母屋から電線も入ってる。なぁメーター動いてないかいな?」
大門山刑事が建物の陰へ入って行った。
「警部、回ってます。空き家とは思えないほどのスピードで……」
「なぁこの匂い大麻やおまへんか?」
清水に自信は無かったがそんな気がした。
「確かに、自分、現物の匂い嗅いだことは無いんですが教わった甘いマンゴーのような強い匂いですね」
「そんなのがここに有ったらえらいこっちゃや」
……
鍵が届けられて、先ず母屋の事務室を開けた。
普通の書斎のような感じがする。ただ、本棚はあるが本は少ししかなく、段ボール箱が大量に置かれていた。監視カメラが三カ所についている。
「あの監視カメラはどこで見るんやろ?」清水が訊いてもだれも答えられない。
また署に確認の電話を入れさせた。
……
「机にあるパソコンだそうです」
「じゃパソコン押収しておくれやす」
「警部、ヤクです」段ボール箱を開けて中をチェックしていた刑事が叫んだ。
「大当たりです。焼肉です」
すべて蓋を開けさせ中身を確認させると、二十五箱全部覚せい剤だった。
「ここにあったんや、荒岩鬼成会の覚せい剤。すぐな、まる暴の富田課長に連絡してすぐ来はってってな」
清水は組事務所で会長に会った時、『別荘』と言う言葉にだけ会長の目が動いた理由はこういう事だったのかと腑に落ちた。
「ほな裏行こか」清水は大門山刑事に言った。
五人ほどの刑事がついてきた。
鍵を開けドアを開くと、甘い匂いが一層強くなった。
「こりゃ間違いのう大麻やわ」
一階に六室ある。半数は二階へ行くよう指示する。
部屋のドアを開ける。
煌々と照明がともされていた。温度も二十度はあるだろう高い感じだ。冬コートを着ていると暑い。
プランターで植物を育てている。
清水はその葉を見て「大麻だ。課長来たらこっちも見てゆうてな」
「ちょっと誰かどんだけあるんかわからんかいな?」
「全部抜いてから測らないと分かんないですねぇ」
「覚せい剤の方は?」
「あっちは測りがあって二百五十キロありました」
……
一時間半ほどで富田課長が到着した。
「課長ありましたで、覚せい剤」清水が言いながら事務室へ案内する。
「二十五箱全部覚せい剤ですわ」
課長は段ボールを開け小袋をひとつ破って確認する。
「こんなとこに隠し持ってたんだな。良く見つけたなぁ。どうしてここだと?」
課長に訊かれちょっと困ったが「へぇ昨日、今朝までに探す場所考えよと言うて絞りだした結果どす」
「ほー大したもんだ。これであの会長の顔ぺしゃんこにしてやる」課長は満面の笑顔で言う。
「それがな、まだおますのや。裏の建物で大麻育てておったんや」
課長がふたたび驚きの顔をして「大麻か……それも荒岩鬼成会のもんなんだな?」
「そや思います」
建物に近づくと「おぉ大麻の匂いだ」
中に入って、「一階と二階も六室ずつ全部大麻ですわ」
課長が一部屋覗いて「おぉ見事だ。この量が十二部屋でだと……そうだなぁ末端四、五千万円くらいかな」
「覚せい剤は幾らくらいになるんでっしゃろ?」清水が訊いた。
「ひと箱十キロくらいいだろう。二十五だったな。グラム六万二千円くらいだから、おい、そこの若いの幾らになる?」
課長に訊かれた大門山刑事が指を折って考えてる。
「おまえ指で計算できるんか? スマホ使えんのか?」課長に指摘されて慌ててスマホを取り出してピピピッとやる。「えーっと、いち、じゅう、ひゃく、……、あっ分かりました。百五十五億円です」やっと計算ができてホッとした顔をする大門山刑事。
「おまえ、刑事で良かったな」課長に冷やかされる。
そこへパソコンを開いていた刑事が飛び込んできた。
「警部、密輸の情報が書かれていました」そう言いながら書き写したのだろうメモ紙を見ながら
「四月二十五日の午後四時半、北緯四十五度三十一分東経百四十一度五十九分三十二秒。宗谷岬の東五キロ海上で覚せい剤の取引があるようです。相手はロシアマフィアで五十キロ(キロ単価八百五十万円)合計四千二百五十万円となっています」
課長がカレンダーを見る。
「明日だ。海上保安庁と協力してとっ捕まえるわ」
そう言って何処かに電話を入れ、「今、うちのが来るからここはそいつらに任せてくれ、俺は至急戻って明日の対応を検討する。それとパソコンのデータをうちの課のパソコンに送っておいてくれ。頼むな。この礼は落ち着いたらきっちりとさせてもらうな。警部ありがとうよ」
課長を送ってから、「もう一度、荒岩鬼成会の会長さんにおうて来るさかいあと頼むで、大門山来て」
……
夕方の六時過ぎにすすきののビルに着いた。
「会長はんに会わせてもらうで」清水が睨むと組員は道を開ける。
四階の自宅のインターホンを鳴らす。
出てきたのは奥さんだろう女性だった。
会いたいと言うと案内され応接ソファに掛ける。
「なんだ、一日に何度も、しつこいなぁ」荒岩会長が清水を睨みつけている。
「ひとつだけ訊きたいんや。会長はんは、薬の販売ルートを全国に広げたいと思うとりまっか?」
「だから、薬なんて扱って無いって」
「ふふふ、仮にで結構でおます。どやろ?」
「あんた何が訊きたいんだ?」
「へぇ、薬の全国展開を会長はんに提言しはったお方がおるんちゃうかなと思うてな……」
「ははーん、そう言う事か。なら言ったる。由利大樹って若い奴が販売ルートを全国展開出来たら自分を若頭にしてくれとバカな事言ってきよった。見るからにそんな力ないくせに偉くなりたい気持だけは一人前の半端もんがな。これで良いか?」
「ヤクのでっか」清水が突っ込む。
会長は笑って「バカな事いうな、通販事業のだ。これでもうちは真っ当な商売してるんだよ。知らんかったのか」
「そうでっか。おぉきに、これであてが扱ってる事件の全容が分かりました。お礼にひとことお伝えしときます」
「なんか良い情報か?」
「へぇ、これ以上ないえぇ情報どす。奈犬振村に隠してたお薬、全部見つけさせてもろうたんでな、ふふふ、えぇ情報でっしゃろ」
清水は深く頭を下げて立ち上がった。
「な、なにっ! ……」会長はそれだけ言って顔色を失って絶句した。
清水は玄関を出る時「おぉきに、おやかまっさんどした」奥の部屋まで聞こえるように大きな声で言った。
階段を下りながら「警部、おかまや……なんとかって、どういう意味です?」大門山刑事が言う。
「そないなことも知らんのかいな。おかまやのうて、おやかまっさんどしたと言うのはな、お邪魔しましたと言う事どすがな、覚えときぃ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます