第22話 恋人

 数日後、清水警部が署に戻ると刑事がたむろして帰りを待っていたようだった。

「警部、興備嵩子と道源綾乃のDNA鑑定の結果、親子と証明されました」

結果のペーパーが机に置いてあった。

「期待通りの結果やないか、ほしたら予想した通りの事件だったちゅうこってすな」

「えぇそれで確認が必要だと思うんですが……」大門山刑事は何か思うところがあるように話す。

「なんのや?」

「綾乃の謄本には泰子が産んだことになってるんですよ。養女とかではないので……」大門山刑事の喋ってる途中で清水は「医者が……」と口を挟んだ。

「医者が出生証明書を書いたのは何故か?」

「はい、あの村の医師と聞いてるので確認してきます」

大門山刑事は清水の返事も待たずに飛び出して行った。

 

「で、由利はんの部屋で見つかった白い粉は覚せい剤やった?」清水は誰にともなく言った。

興備宅で大門山刑事が飛び込んできて、清水に「由利の部屋から白い粉が発見され、見た目覚せい剤に見えたんで鑑識に回しました」と言ったのだった。

「はい、鑑識で調べたら覚せい剤だったと」中橋刑事が答えた。

「本人はなんと言っとるんや?」

「すすきので声を掛けられて買ったと」

「じゃ、所持は認めるんやな。使用痕はあったんかいな?」

「いや、それがないんですよ。ですから……」中橋刑事が言いかけてるのを遮って「売る側の人間。ちゅうこっちゃな?」清水が言った。

「興備の娘はんもとんでもない相手と付き合ってたんやな……可愛そうに」清水が呟く。

「それでどうします?」中橋刑事が問う。

「どうって? ほかの関係者に覚せい剤に絡む輩はいなかったのとちゃう?」

「えぇそうなんですが……」

「中橋はん、何気になっとんの?」

「自分は奴が信じられんのですよ。売人がなんの情報も無しに通りすがりの人間に声を掛けるでしょうか? 自分はバックがいるんじゃないかと……」

「せやなぁ、あんさんの言う事にも一理やな。ほな、泳がせて尾行しまっか?」

「はい、それが良いかと……」

「よっしゃ、中橋はんあんさんリーダーで交代で尾けよし、メンバーは任せるよってな」

 

 昼過ぎて大門山刑事が戻って来た。

「どやった?」清水が訊いた。

「えぇ思った通り、DNA鑑定の結果を見せて迫ったら出生証明書を偽造したとゲロしました」

「ほー良く吐いたな。医師免許どないかなるんちゃうの?」

「えぇ、覚悟してるって言ってます。当時、道源廣輔に五百万で頼まれたそうです。狭い村なんで日頃から交流があって、それで断り切れず受けてしまったらしいんですが、ずーっと後悔してたと言ってます」

「ほーなんでや?」

「生まれたとされた子は他に戸籍がある訳ですから、将来発覚して元の名前に戻った時、その子は学校へも行ったことにならないし、あらゆる資格も免許もないことになって生活が成り立たなくなるかも知れないし、本人が自分は何者なのかと悩むんじゃないかと心配してのことのようです」

「ふーん、ほならやらんといたら良かったのにな」

「えぇ、それで医師会へ報告を上げて処分を待つと言ってます」

「ほーかぁ、でもなぁあんな田舎で辞め言われたら無医村になってまうがな、こっちも知った以上対応せなあかんのやろ?」

「はい、私文書偽造ですから、医師が刑法百六十条に、道源は百六十一条に該当すれば三年以下の禁固または三十万円以下の罰金かな? ですが、十六年も経ってるんで時効です」大門山刑事が答えた。

「そうかぁ、それより紗世ちゃんは小学校から短大まで行ってるのに、行かはってないことになるちゅうのんが可哀そうやわぁ。これから家族でいる時はえぇけど、同級生とかとおうても姓名とも違ってるんやから古い名前で付き合わなきゃあかんのかいなぁ……」

「そうでしょうねぇ、可愛そうですがどうしようもありません……」大門山刑事は眉を曇らせる。

「ほしたら、誘拐事件はあてらが推理した通りに物証も証言も得られたちゅうことでんな。で、由利だけは逮捕を待って覚せい剤の絡みを捜査するちゅうこってすな?」

清水は一応の決着を見たと思いホッとしていた。

 

 道源と山脇の取調べは既に始まっていた。

清水が取調室の隣室に入ってマジックミーラ越しに道源の様子を窺う。

「どうどす、喋っとりますか?」

そこにいた刑事に訊いた。

「押入ったことは認めてます。現行犯ですから当然なんですが、殺害意志については認めてません」

「妻を刺しはったことについては?」

「刺したことは認めましたが、綾乃を刺そうとしたら間に飛び込んできたから止めようがなかったと言ってます」

「動機は?」

「たまたま、金がありそうな家だったから、だそうです」

「はっ、なんやその動機?」

「えぇ、出鱈目もいいとこなので、そこを追求してるとこです」

清水は自分が取調べしたいと強く思ったが、今追及している刑事の心情を考え我慢して「ほな、頼むで、後でまた来るよって」

 

 

 そう言って山脇を取調べている部屋の隣に入った。

「どうどす、喋っとりますか?」

「道源に無理やり連れて行かれて強盗なんて嫌だって言ったけど、世話になってるので仕方なく、と言ってます」

「ほー、どっちもどっちやな。あっちはたまたま金有りそうな家だったからやそうやわ。ふふふ」

清水の腹は煮えくり返りそうだが、ここも我慢した。

「で、ほかに何か言わはった?」

「えぇ、自分は道源について行っただけで、金寄越せとかも言ってないし、殺すぞとかもいってない、あの家に不法に入っただけだと主張してます」

そう言った刑事の目が怒りに燃えている。

 

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