第14話 待ち合わせ

「あっ二手に分かれたらどうでしょう?」綾乃が思い付きを言った。

「ふーん、そうだな、綾乃の言うように、俺は歩いて行く。少し遠回りでも検問所を通らないように行く。お母さんが運転して綾乃は助手席。名前は真世と答えてくれ」

「真世ですね」

「女二人で誘拐とは思わないだろう……どうだ?」

「分かったわ。それで行きましょう」

お父さんは車を降り、お母さんが運転席、綾乃は助手席に移動した。

「じゃ、検問所の先の食堂とかカフェとか何か食べれる場所で待ち合わせしましょう。道路から見える所に車停めるからね」

お父さんが手を振って横道に入って行った。

「じゃ行くわよ」

お母さんがバッグの免許証を確認してから走り出す。

検問所には十台ほどの車が並んでた。

……

 順番が来るとお巡りさんが「免許証を見せてください」

言われるままに差し出す。

「どちらへ」

「札幌の自宅です」

「そちらは」綾乃の方を見てお巡りさんが行った。

「娘の真世です」と綾乃が答える。

「どこかへ行った帰りですか?」

「えぇ、ここのスパ気に入って時々来るんですよ。でも、今日来たんだけど家の車がガス欠になっちゃって、いえ、それはレッカ―頼んでもう運んでもらったんで良いんだけど、自分らどうすんのか考えて無くって、ほほほ、可笑しいでしょう、それ娘に言われて慌ててレンタカーかタクシーか迷ったんですけどね、値段調べたら……」

その後もお母さんの口から出るわ出るわ何処から言葉が湧き出て来るのか綾乃には分からないが喋り続ける。その内お巡りさんが「あっ、はいはい分かりましたもう結構です」と止めた。

「あら、もう良いんですか?」お母さんはなんか残念そうな顔をし、お巡りさんの顔をチラッと見て「ところで……」と続けた。

「ところでお巡りさんはお若いから独身なんでしょう?」

お母さんはお巡りさんが困った顔してるのに「どう、家の娘、結構可愛いでしょう。どうです? お嫁さんに、ふふふ」

「えーっ! お母さん、止めてよーっ、こんなところで恥ずかしい。済みません」綾乃は真っ赤な顔をして頭を下げた。

――本当に恥ずかしいわ。いくら誤魔化そうとしているとは言っても、やりすぎよっ! ……

「お気をつけて、行ってください」お巡りさんはちらりと綾乃に視線を向けてにこりとして言った。

綾乃は一瞬どきりとした。

――まさかこのお巡りさん、本気になった訳じゃ無いでしょうね……まさかね、ははは。……

「ありがとう。でも、こんなとこで検問だなんて何かあったんですか?」

お母さんが余計なことを聞いてしまった。

「えぇ、奈犬振村の誘拐事件の犯人がこっちの方へ逃げてるって登山客から通報があったんですよ。それで……」

「あぁそうなんですか。怖いわねぇ、頑張って下さいね」

お巡りさんは何も答えずにこにこしながら通してくれた。

――良かったぁ、何も訊かれなかった。……

「お母さん、大丈夫だったね」

「えぇ、心臓が停まるんじゃないかと思うほどどきどきしたけどね」

「へぇお母さん全然そんな風には見えなかった。あんなに沢山しゃべるんだもん」

「ふふふ、熟女パワーかな? それとも、やっぱり女二人だからあっさり通してくれたんじゃないかしら、あなたのいう通りにして大正解ね」そう言うお母さんをよく見るとおでこに汗が一杯浮かんでいた。

――それなりに一生懸命だったのね。ありがとう、お母さん。……

「うん、良かった。ほっとした」綾乃はなんか嬉しくなった。

「綾乃、周りをよく見ててね、食べ物屋さん見逃さないでね」

……

ほどなくファミレスの大きな看板が現れた。

「ここにしましょう」

道に沿った駐車スペースに車を置いて中へ。

コーヒーを頼んだ。

啜りながら専らお化粧とかお肌の話しになった。

使ってる化粧品も当然ながら全然違うけど、お母さんはやっぱり女、綾乃の肌を羨ましがる。

「何使ったらそんなしっとりとした艶の良い肌になるのかしら?」

「お母さん、若いだけです。赤ちゃんの方がもっとすべすべもちもちして柔らかでしょう」

「そりゃそうだけど、私も綾乃に負けないようにお肌は綺麗にすべすべにしたいのよ」

「メーカーどこ? ……」

……

そんな話をしていてふと時計を見るともう四十分ほど経っていた。

「お父さん遅くないです? 車で走ったの一分も無かったですよね」

「そうねぇ、お父さんの足短いからかしら」真面目な顔をして言うので綾乃は思わず吹き出すとこだった。

「お母さん、止めてください、危うくコーヒー吹き出すとこだった」

「えっ何か可笑しい事言った?」

お母さんは真面目に言ったようだ。

「お父さんの足短いなんて、全然長いですから……」

「ふふふ、そうだったかしら、しばらく足見てないから忘れちゃった」お母さんがまた可笑しなことを。

お腹一杯笑ってから「ちょっと私お父さん探しに行ってきます。三十分探して見つからなかったら一旦帰ってきますね」

そう言って店を出た。

 

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