第11話 氷の女王

「...私のこと覚えてる?」と、少し不安そう顔で瀬崎先輩はそう言った。


「もちろん覚えてますよ。お久ぶりですね...」


 黒髪ロングだった瀬崎先輩は、茶髪のややショートヘアになっていた。


「久しぶり...」と、どこか照れくさそうに笑う。


 そのまま、少し離れた場所にあるカフェに到着すると、先輩のおすすめであるカフェラテを頼む。


「...元気そうで安心しました」


「うん...。とりあえず、元気かな」


「...先輩は...「もう先輩じゃないよ?私のことは瀬崎って呼んでほしい。もう...あの学校のことは思い出したくないからさ」


「...瀬崎...さん」


「うん。何?川上くん」


「...今は何されてるんですか?」


「大学に行くために勉強してるんだ。高校中退でも、高卒認定試験ってやつ受ければ大学には行けるから」


「...そうですか」


 その後は特に何を話したかは覚えていない。

瀬崎さんの元気な姿を見れただけでよかった。


 それから瀬崎さんと会うこともなく、月日は流れるのだった。


 ◇


「お待たせ!」と、学食で待っていた俺たちのところに瀬崎さんがやってくる。


「おっ、川上くんはカレーかー。うんうん。男の子だねー...と、ごめんなさい。自己紹介がまだだったよね。私は瀬崎雛乃。よろしくね!」と、凪に手を差し出す。


「...よろしくです。小日向凪です」と、仕方なくその手を握る凪。


 そんな様子を少し微笑ましく見ていると、コツンと凪に足を蹴られる。


「何ニヤニヤしてんのさ」


「いや、別に?」


 まさか、凪と瀬崎さんがこうして仲良くしてるなんて、数日前まで想像すらしていなかったのだが。


「...もしかして、川上くんは百合とか好きなタイプ?」と、クスクスと笑う瀬崎さん。


「うわー。流石に引くわー」


「そういうのじゃないから。マジで」


 そんなことを言いながら3人で楽しくご飯を食べていると、話題は当然あの日のことになり...。


「まさか、川上くんにレンタルされるなんてねー。ちょっと予想外だったねー」


「本当そう。マジでびっくりした。てか、4人もレンタルするとか飢えすぎ」


「もうその話はいいって...あれはその...気の迷いというか、男の願望というか...」


「女子にチヤホヤされたいもんねー。仕方ないよねー」


「そそそ。男子なんてエロいことばっか考えてる生き物だから」


「...」


 少し前の自分を殴ってあげたい。

この2人は妙に気が合うらしく、すぐに打ち解けると標的を俺にして弄りまくるのであった。


「てか、確か妹って言ってたけど、川上くんって兄妹とかいたんだっけ?」


「あれは義妹です。再婚相手の連れ子ですし、再婚したのも最近ですから」


「ふーん?義妹ってなんかエロいよね」


「ちょっと、全部そっちの方向に持っていくのやめてもらえます?」


 ◇


「ただいまー」


 あれからなんだかんだ3人でカラオケに行ったり、ボーリングをしたりと遊びに遊びまくって、家に帰ってきたのは終電ギリギリくらいの時間だった。


「...」


 しかし、おかえりの声が返ってこない。


 よく見ると荷物がまとめられている。

流石にお母さんに帰ってこいと言われたのか。

まぁ、買い物でも行ってるのだろうと思いながら、手を洗いに行こうと洗面台に行くと...。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093077939700932


「「あっ」」


 そこに立っていたのはタオル姿の萌ちゃんだった。


 ...最悪のシチュエーションだ。

このあとはお決まりの展開が...と思っていたのだが、「...キモいんですけど。早く出て行ってよ」と、いつものように冷たく言い放たれる。


「...すみませんでした」


 そうして、ゆっくりと扉を閉める。


 ◇


 ...見られた!?見られたんですけど!//いや、大事な部分は隠れてたけどさ//...こういう姿を誰かに見られたことないし...!!


 高校で氷の女王と呼ばれていたあの私がこんなに動揺してるなんて...ね。


 なんとか咄嗟に平静を保もつことが出来ていたけど...。

...胸ないなとか思われたかな...。

あの瀬崎さん?って人はすっごい大きかったし...。

やっぱああいう人がタイプだったりするのかな?


 てか、卒業式に告白した人ってどんな人なんだろ。気になるなー。あっ、卒アルに居たりするのかな?でも、どうやって名前を聞き出そうかな...。

でもでも、もうお母さんには帰ってこいって言われちゃったし...。


 そんなことを考えていると、何やら人の声がしていた。

どうやらお兄ちゃんが誰かと話しているようだった。


 急いで服を着て、こっそりドアから覗くとそこには1人の女の子が立っていた。

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