第10話 瀬崎先輩→瀬崎さん
講義が終わるとすぐに瀬崎さんがやってきた。
「お、おはよう...!川上くん...」
「おはようございます。瀬崎さん」
そして、横にいる凪をちらっと見る。
「...えっと...この前のレンタル彼女さん...だよね?もしかして...今日もレンタルしてるの?」
そうだった。2人は一応顔見知りだったのだ...。うわぁ...俺やばいやつだと思われてるじゃん。
実際、凪はここの大学の人じゃないし...。やばい。
「えっと...そのぉ...」
「今日はレンタルされてません。私もこの大学に通っていて、たまたま同じ講義を受けていただけです」と、堂々と嘘をつく。
「あっ、そうだったんだ...。そっかそっか...」と、少し元気なさそうに笑う瀬崎さん。
「大丈夫ですか?瀬崎さん。元気なさそうですけど...」
「え!?そ、そうかな...。私はいつでも元気だよ?」
「俺でよければ話聞きますよ?」というと、なぎにお腹の肉を摘まれる。
「いたっ!」
「ど、どうしたの...?大丈夫?」
「あっ、はい。大丈夫です...」と、凪の方を恐る恐る見るとそっぽ向いてしまっていた。
どうやら相当にオコのようである。
「えっと...よ、よかったら一緒にお昼ご飯でも...どうかな?」
「お昼の予約は既に私がしていたのですが」と、またしても割り込んでくる凪。
今日は嫌に突っかかってくるな。
そもそもお昼を食べる約束なんてしてないし。
「...じゃあ、3人で食べましょうか」
「...うん!」
「じゃあ、終わったら連絡しますね」と、連絡先の交換を行うとさらに機嫌が悪くなる凪であった。
そうして、瀬崎さんと別れて次の講義のため移動しているのだが、当たり前のようについてくる凪。
「...」
「何でそんなに怒ってるの?」
「別に。宗也が鼻の下伸ばしてんのがなんかむかついただけ」
「別に鼻の下は伸ばしてないと思うけど...」
「ふーん。そっ。男子は好きだもんね。巨乳」と、呟く。
「...瀬崎さんに対してそんなやましい感情は抱いてないから」
「...てか、学校の先輩なんでしょ?なんでさん付けなの?」
「...まぁ、色々あったんだよ。色々」
「...何?色々って」
「色々は色々だ」
そうやってはぐらかすとまたしてもお腹の肉を摘まれる。
「それ痛いからやめてくれ」
「嫌。嫌ならやり返せば?ほら、こことかつねったら?」と、自分の胸を指差す凪。
こういうこと下ネタとかいうやつだったか?と、少し困惑しながらも「捕まりたくないからそんなところは触らない」と言いながらお腹をつまむと「ひゃっ!?//」と、実に可愛らしい悲鳴をあげるのだった。
その後、ものすごい勢いで殴られる俺。
そんな中、俺がなぜ瀬崎先輩を瀬崎さんと呼ぶようになったのか...。
そんなことを思いますのであった。
◇2年前
いつものように昼ごはんを大吾と食べていると、ふと小声で俺に語りかけてくるのだった。
「...聞いた?あの噂」
「噂?」
「ほら、瀬崎先輩が別れてたって話だよ!」
「いやー聞いてないけど」
確か先輩はカモフラージュで付き合ってたんだよな?それで別れるって噂されるって...何かあったのか?
「話によるとなんか色々揉めたらしくてさー。噂じゃ、瀬崎先輩が二股してたらしいんだよねー」
「...ふーん」
「なんだよ!興味ねーのかよ!あの清楚で、可憐な瀬崎先輩が浮気してたんだぞ!浮気相手はどんなやつなのかなー?」
「そういう下世話な話好きだなー。大吾は」
「まぁな!」
この日を境に先輩は図書室に来ることはなくなってしまった。
それから、日が経つごとに先輩の噂はありとあらゆるところに伝染していき、更に悪質な噂も流れるようになっていた。
そうして、1ヶ月ほどだったタイミングで先輩が自主退学するという話が聞こえていたのだった。
先輩のことを知っている俺からすれば、そういう噂を聞き続けること自体不快でしかなかったが、いよいよ追い詰めるような噂まで出てきたのかと、呆れていた。
そうして、放課後いつも通り図書室に行き、1人でのんびりと過ごしていると、突然ノックオンが図書室に響き渡る。
「...はい」と、恐る恐る返事をすると、「私だけど...覚えてるかな...」という弱々しい声が聞こえてくる。
それは紛れもなく瀬崎先輩の声だった。
そうして、急いでドアの方に向かうと、「あけないでね!...顔を合わせるのは...怖いから。ドア越しに話そう?」と言われる。
「...お久しぶりです。先輩」
「...うん。久しぶりだね。...あれからずっと来てくれてたんだ」
「勿論ですよ。先輩がいなくて寂しかったです」
「...そっか。色々と...聞いてるよね?」
「噂程度には。けど、信じてないですから安心してください」
「...うん。嬉しい...。けどごめんね。私...学校辞めることにしたんだ」
1番信じたくなかった噂が本当になるなんて。
けど、辞めるななんて言えるはずもない。
恐らく、大変な日々を送っていることは想像に難くなかったから。
「...そう...ですか。...残念です」
「...今度...ゆっくり話したいな。少し時間経ったらさ」
「是非、お願いします」
それから先輩は本当に高校を辞めてしまうのだった。
月日は流れ1ヶ月ほど経った時のことだった。
いつも通り学校から帰ろうと校門を通り過ぎたタイミングで私服の女の子に声をかけられる。
「...あの!」
少し緊張したような、どこか不安なそうな声の主は...。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093077908310564
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