第8話 そうして、タイムスリップ
◇駅前 AM11:30
「おっひさ〜!まさかまた宗ちゃんからお誘い受けるなんてねー!びっくりびっくりびっくりドンキー!ウホウホ」
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093077774663231
「相変わらず元気だな。憂華」
「ちょっと〜。今日は2人きりなんだし、昔みたいに憂ちゃんって呼んでいいんだよ〜?」
「...今日呼んだのはさ...。謝りたくて...」
「あぁー、そういう話はもう少し後にしない?今は純粋にデートを楽しみたいっていうか〜、ほら!私レンタル彼女だし?」
「...おう」
そうして、俺の手を引く。
それは恋人というよりも昔のように無邪気なあの頃を彷彿とさせるのだった。
「今日は私がデートプランを考えてきたから!まずは公園でのんびりと噴水でも見ながら昔話に花を咲かせよう」
「...おう」
そのまま、駅の近くにある大きな公園に向かう。
小さい頃からあるここら辺では有名な公園。
そこのベンチに2人で座り、噴水を眺める。
「覚えてる?私が噴水の水を飲みまくって怒られてさw」
「あー、そんなことあったな。べちゃべちゃになったせいで帰りもめっちゃ怒られたもんね。車の中もべちゃべちゃで」
「そうそうwあの時のことは今でも思い出すもんねー」
「そうだな...。すげー懐かしい」
本当に懐かしい。
そんなことがあったことも今のいままで忘れていた。
多分...それは思い出も何もかも憂華に関するすべての記憶を、パンドラの箱に詰め込んでしまったからだ。
そうして、近くのカフェで買った紅茶を嗜みながら語り合う。
「それじゃあ、次の場所にいこっか」
「次?」
次に向かったのは俺たちが通っていた幼稚園だった。
今でも幼稚園があったが、当然中に入れるわけではないので、外からグラウンドを眺める。
「あ、あの遊具懐かしい!まだあったんだ!あれに思いっきりおでこぶつけて泣いたなー」
「あー、あったな。確かに。ここらへんにくるのも久々だな。大分変わったな。あぁ、あそこの駄菓子屋潰れたんだ」
「だねー」
そうして、手を繋ぎながら元の家があった場所に向かう。
近づいていくとその光景がどんどん見えてくる。そこにあったのは目を疑いたくなる事実だった。
俺の家は【後藤】見知らぬという表札が飾られていた。
その少し離れた場所にあるはずの...憂華の実家。
そこにあったのは...ただの更地の駐車場だった。
その事実に愕然としている俺に向かって、ポツリと呟く。
「...変わっちゃったね」
「...」
「いやー、ある程度覚悟はしてたんだけど...やっぱちょっと悲しいよね」と、苦笑いをする。
「...ここにはたくさんの楽しい思い出があったのになー」
「...俺もだよ」
そうして、最後の場所に向かう。
それはある程度覚悟をしていたが、実際そこに行くのは...十年以上ぶりのことである。
あまり大きくなく、遊具が多いわけでもない。
しかし、俺たちが何度も、何十度も遊んだあの公園であった。
そこだけ何も変わらない...。
まるであの瞬間から時が止まっているかのようでもある。
「私はここで誘拐された」と、まるで他人事のように呟く。
「...」
そのままベンチに座ると、ぽつりぽつりと話始める。
「...全ての始まりで私が終わった日。正直、誘拐されたあの瞬間...私は死ぬかと思った。というか、実際一歩違えば死んでたと思う」
「...ごめん。俺が目を離したから」
「小さな宗ちゃんには何も出来なかったよ」と、真顔で冷たく言い放った。
「けど!あの瞬間に大声をあげてたら...何か変わってたかもしれないだろ!」
「変わらないよ。お母さんたちが車を目撃してたとしても、あの未来は変わらない。何度も、何十度も、何百度も夢を見た。あの瞬間、私が助かる夢を。けど、最後にはいつもあいつに捕まるの。...そして、私が壊される」
「...何があったんだよ」
「話してもいいよ。何があったか。全部。けど、覚悟はできてる?中途半端な覚悟で踏み込む気ならやめた方がいいよ」
目の奥が真っ暗になっていた。
それは...希望とは全く逆の目だった。
思わず、「...ゴクン」と生唾を飲み込む。
「...聞かせて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。