第7話 東屋 憂華
「ういちゃん!あそびにいこ!」
「うん!いいよ!」
同じ病院で生まれ、家が近所ということもあり、小さい頃は毎日のように遊んでいた。
その関係性は友人とかではなく、姉弟という感じが近かった。
それが
その日もいつものようにお互いの母と憂華の4人で公園に遊びに来ていた。
「ねぇー、すなあそびーしよー。あおいー」
「いいよー」
そうして、小さな山を作っていると「自販機に飲み物買いに行ってくるけど何がいい?」と、俺の母が俺たちに質問する。
「うん?うーん。えっとねー...おれんじゅーす」
「オレンジね。憂華ちゃんは?」
「ういかはねー、うーん。あおいとおなじやつ!」
「わかったよー」
そうして、俺の母が少し目を離す。
そのタイミングで近所のお母さんがやってきて、憂華のお母さんがこちらに背を向けて話していた。
すると、そこに1人のおじさんがやってくる。
「何やってるの?」
「やまつくってんのー」「やまー!」
「そっかそっか。お菓子いる?」
「おかしすきー!」「おかしほしー!」
「じゃあ、おじさんの車まで来てくれる?」
そうして、俺たちはそのままおじさんに着いて行く。
公園のそばに止めていた黒いバン。
すると、助手席から袋に大量に入ったお菓子を取り出して俺に手渡す。
「男の子にはこれね。女の子の用のお菓子は後ろに積んでるから取っていいよ?」
そう言いながら、扉を開ける。
この時俺はもらった大量のお菓子に夢中になっていた。
そうして、目の端で憂華が車になった瞬間のことだった。
中には別のおじさんがいて、憂華が乗った状態で勢いよく扉が閉まる。
優しかったはずのおじさんは不敵で気味の悪い引き攣った笑顔を浮かべながら運転席に乗り込む。
「え?」
次の瞬間、車がふかしながら走り去る。
理解できずに立ち尽くしていると、憂華のお母さんと俺の母さんがキョロキョロとしていた。
俺が泣きながら母さんたちの方に向かって走っていき、拙い言葉で何とか事情を説明する。
すると、顔を真っ青にする2人のお母さん。
その後警察に連絡すると、どんな車だったか、おじさんはどんな顔だったか、身長は?体格は?夜遅くまでそんな質問を繰り返された。
警察の人や憂華のお母さんにも俺のせいではないと言われたものの、小さいながら責任を感じ、その夜は泣き続けた。
なぜあんな男について行ったのか、何で目を離してしまったのか、何で手を繋いであげなかったのか...。
結局、それから憂華が見つかったという話を聞くこともなく、小学校に上がってすぐに憂華の家族は引っ越してしまうのだった。
活発で元気一杯だった憂華のお母さんは、やつれてしまいあまり外に出ることもなくなっていた。
最後の挨拶の時も無理して笑っているのが子供の俺でも分かった。
「じゃあね...宗也くん。...憂華の分も元気でね」
多分、悪意を持って放った言葉ではなく、心の底からそう思っていたのだろう。
だけど、俺にとってのその言葉は呪いでしかなかった。
◇
「ふーん。あの人ってお兄ちゃんの幼馴染だったんだ」
「まぁな。ずっと昔に居なくなった...はずだったんだけどな」
「気になるなら聞いてみればいいじゃん」
「いや、連絡先とか知らんし」
「じゃあ、もう一回レンタルするとか?」
「...」
多分、それしか方法がないことはわかっていた。
けど、それが出来ずにいたのは会うのが少し怖かったからだ。
今、憂華が俺のことをどう思っているのか...
それを知るのが怖い。
けど、憂華が俺に何かを望んでいるなら一生を捧げてもそれを全うするつもりだ。
だから、拒否でも命令でも懺悔でも愚痴でも...それを知らないとダメだ。
「...そうだな。レンタルするよ。ありがと」
「お礼とか要らないから。キモいしw」
「...相変わらずひどいな」と、俺も笑う。
◇
割りがいいから始めたレンカノ。
その最初のお客さんが...宗也なんてね。本当...笑っちゃうよね。と、天井に手を伸ばす。
「...私のこと覚えててくれたのは嬉しかったな」
そう呟いていると、一通のメールを受信する。
【デートのお誘いです】
今更、他の男と会うことなんて無理。
今も昔も私の心の中心にいたのは宗也だった。
けど、宗也の目には私は家族であり、お姉ちゃんでしかなかった。
でも、再開した時の宗也の私を見る目は...女を見る目だった気がした。
そう...それは...あの時の男と同じ目のような気がした。
色々考えたってもう私には連絡する方法はない。忘れよう。何もなかったことにしよう。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093077713394093
そうして、届いたメールからレンカノの退会手続きをしようとして...手が止まる。
【リクエストです】
それは宗也からのリクエストだった。
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