第5話 瀬崎 雛乃

「おうおう、これは一体どういうことだ?宗也。何で4つのサイト全部にポイントが入ってるわけ?しかも同じ日に。説明してもらおうか?」


「...別に。大吾が勧めてきたんだろ。レンタル彼女」


「まぁな!同じ日にいろんな女の子と会ったってことだよな?それで?どうだったよ!ぶっちゃけ!」


「...まぁ、大変だったけどいい思い出になったよ」


「お前もよーやくレンカノの良さが分かったか!」


「...別にそんなんじゃねーから。もう借りないし」


「なんで!?」


 そんなやり取りをしていると、いつも通り講義室でしていると「そこの後ろの席の男子2人。うるさい」と、先生に怒られる。


「...」「...」と、2人で黙り込む。


 数人の人が後ろを振り返りながら迷惑そうな顔をしていた。


 そんな中、左の方に目を向けると1人の女の子とばっちり目が合う。


 それは...あの瀬崎さんだった。


 すると、いつものように優しく上品な笑顔をこちらに向けてくる。


「おい!あれ瀬崎パイセンじゃね?マジ同じ大学だったんか!?」と、俺の体を揺すりながら聞いてくる大吾。


「...そっくりさんだろ」と、適当に流すも大吾の方にも気づいて手を振り始める瀬崎さん。

相変わらずの人の良さである。


 ◇すこしむかしのこと


 高校時代、俺は部活に所属するわけでもなく、バイトをするわけでもなく、生徒会に入るわけでもなく...ダラダラとした高校生活を送っていた。


 そんなある日、放課後暇なので校舎をうろうろしていると、校舎の端に普通の教室のような見た目の図書室があった。


 そういや、一度も入ったことがなかったな。


 そう思って特にノックをするわけでもなく扉を開けると、そこに居たのがうちの高校で2番目に可愛い先輩と言われていた瀬崎先輩だった。


「お客さんなんて珍しい。君、2年生?」と、突然の来訪にも驚くことなくそんな質問をしてきた。


「はい、そっすね」


「名前は?」


「川上です」


「川上くんか。うん。覚えた。多分」と、ニコッと笑う。


「ちなみに私のことは知ってる?」


「...瀬崎先輩ですよね」


「正解!すごいね!」


「有名人ですから」


「え?そうなの?私って有名なの?」


 どうやら本人にその自覚はないようだ。


 うちの学校で1番可愛い女子といえば、SNSのフォロワーが100万人を超えている一つ上の先輩である椿つばき百合ゆり先輩である。

 そして、その次に人気があるのがこの瀬崎せざき雛乃ひなの先輩である。


 派手でかっこよくカリスマ性のある椿先輩と、大人しくて優しく人望もあり性格の良い瀬崎先輩は性格は対照的に見えたが仲が良かった。


 そんな有名人と知り合いになれたことは少しだけ嬉しかった。


 それから少しずつ放課後に図書室で会うのが日課になっていた。


 ◇


「おっ、今日も来たんだ。偉いねー」


「どうせ家に帰ってもゲームするだけですしね」


「へー。川上くんは彼女とかいないの?」


「居ないっすね」


「ふーん。そうなんだ」


「...」


「私に彼氏はいないのかって聞いてこないの?」


「いや、知ってますよ。先輩の彼氏は古村こむら先輩ですよね」


「うーん。まぁー、うーん。そうだね」


 ...もしかして破局寸前とかなのだろうか?


「お似合いのカップルだと思いますよ」


「...あれ、嘘なんだよね」


「嘘?」


「うん。その...男避けのために付き合ってるってことにしてもらってるっていうか...。これは誰にも言っちゃダメだよ?」と、結構な特大ニュースを突然漏らされる。


「え?マジですか?」


「まー...マジだねー」


「...なるほど」


「そうなの。だから、本当の彼氏を募集中?みたいな」


「そうなんですね。見つかるといいですね」


「...そうだねー」


 そんな会話をしていた気がする。

別に仲が深まるわけでも、離れるわけでもなく、それから事件が起きるあの日までは仲良くしていたのだった。


 あの日までは。


 ◇現在


「へぇ、君も菅高すがこうなんだ!えっと、名前は?」


「西岡大吾です!よろしくお願いします!」と、敬礼をする大吾。


「あはは、元気だね!」と、手を叩いて笑う瀬崎さん。


 講義が終わったのちに瀬崎さんはまっすぐ俺たちのところにやってきて、一緒に学食でご飯を食べることになったのだった。


「瀬崎先輩はどういう方がタイプでしょうか!」


「え?タイプ?タイプかー。うーん。そうだなー...。年下...かな?」と、少し深みを持たせたような笑みを浮かべてそんなことを言う。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093077589406473


「年下!?てことは俺もワンチャン!?」


「うーん。なんだろう...あんまりがっつくタイプは好きじゃないかも?」


「...」


「急に無言になるのはあれかなw」


 そんな楽しげな会話をしていると、足でツンツンとしてくる。


 そうして、1枚の手紙を手渡される。


 そこにはRINEのIDとともに『今日の服の感想教えてね』と、書かれるのだった。

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