第2話 ハーレム万歳

 4月10日 AM9:00


 いつもより早く目を覚まして、いつもより早く準備をし、いつもは着ない服に腕を通して、いつもはつけない香水を纏う。


 人生初めてのデート。

それも4人も連れるとなると、より一層気合いが入ってしまう。


 流石に...緊張するな。

全員苦笑いすることは間違いないだろうが、仕事は仕事。そこはちゃんと割り切ってくれることを祈っている。


 そうして、襟のない服の襟を正しながら俺は待ち合わせ場所の駅に向かうのだった。


 ◇9:30 駅の北口


 デートに遅刻は厳禁。とはいえ、早く着き過ぎてしまったな。

時間まで適当に駅の中をぐるぐる...。と、考えていると1組のカップルが目の前を通る。


 それは...あの卒業式に俺が告白した女の子、世上せじょう凛奈りんなと見知らぬ男であった。


「今日は楽しみだね」


「うん!楽しみすぎて私ちょっと寝不足なんだからw」


 楽しそうに手を繋ぎながら俺とすれ違う。

彼女は俺の存在に気づくこともなく、まるでそこまで2人しかいないような、或いは俺が透明人間になったかのように...。


 何とも自分惨めになる。


 お金を払って楽しそうに笑ってもらって、お金を払って手を繋いでもらって、お金を払って彼女のフリをしてもらって...。

 今更、馬鹿なことをしてるなと自分を見下す。


「...だって、しゃーねーじゃん」


 そう呟きながらベンチに腰をかける。


 政経や科学や数学や古文を学ぶなら、同様に恋愛の仕方を教えてもらいたいものだ。


 攻撃対象が義務教育に向けながら時計を見ると、AM9:40を指していた。


 お金はすでに払っている。

このままブッチしたとしても、彼女たちにとってはむしろプラスかもしれない。


「...馬鹿馬鹿しいな。何が疑似ハーレムだよ」


 すると、反対側である南口付近に人だかりができていることに気づく。


 なんだ?と、立ち上がり野次馬気分でそちらに歩くとやや遠目からその人だかりの意味を知る。


 待ち合わせの名所である南口の白いオブジェに4人の美少女が立っていた。


 それは...俺のレンタル彼女たちであった。


 いいよ。キモくたって、笑われたって、馬鹿にされたって。

それでも、今日だけは、この時間だけは俺の彼女達なのだから。


 そうして、ふらっと近づいて「お待たせ」とその4人に声をかけると全員が驚いた顔をする。


「...宗也そうや」「川上かわかみくん?」「お兄さん?」「...そうちゃん」


 その返答に今度は俺が驚いた顔をする。

いや、苦笑いと言ってもいい。


 そして同時に、彼女は彼女たちで顔を見合わせて困惑し始める。


「...誰?」「あんた達何?」「え?何?どういうこと?」「...」


 そんな彼女たちに向かって、「行こっか。俺の彼女達」


 ◇


 あらゆる人たちの視線を浴び続ける。

「あの子達可愛くね?」「あの子おっぱいでか!」「可愛い...」「あの男何?彼氏?」


「...まさか宗也だとは思わなかった」

「...いや、俺と本当になぎだと思わなかった。似てるとは思ったけど」


「川上くん...。私がレンカノやってるのは誰にも言わないでね?」

「はい。大丈夫です。瀬崎せざきさんのことは誰にも言わないですから」


義妹いもうとをレンタルするとかお兄さん人として終わってますよね。しかも4人同時にレンタルとか...飢えすぎでは?本当キモい」

「...今日はお兄さんではなく、大好きな彼氏として扱ってくれ。もえちゃん」


「宗ちゃん、元気にしてたんだ!良かった良かった!」

「それはこっちのセリフだっての。憂華ういか


 そうして、レンタルした彼女が全員俺の知り合いだったことに驚きつつ、ひとまずファミレスに入るのだった。


「いらっしゃいませ!何名様ですか?」


「5名で」


「かしこまりました!こちらの席どうぞ!」


 ひとまず、俺は謝罪をした。


「すみませんでした。まさか全員知り合いだって思わなくて...」


 義妹が俺を睨みつけながら呟く。


「そもそもこれって契約上アリなんですか?他の女の子と一緒とか...。意味わかんないし」(義妹)


「契約上は問題ないんじゃないかな?と言っても私もレンカノやっていて初めての経験だけど...」(美人先輩)


「擬似ハーレムってやつ?男の理想だもんね」(初恋の子)


「あはは、流石の私もびっくりだったねー。けど、これもお仕事だからきっちりこなすよ!」(幼馴染)


「...まぁ、でもほら...お互いに面識はないわけだし?その...一応お金を払ってるわけなので...俺的にはちゃんと彼女のフリをして欲しいというか...」


 それから何とか説得し、ようやく皆んなを納得させて全員仕事としてきちんと請け負ってくれることになった。


 そうして、出された料理を一口分取ると全員があ〜んをしてくる。


「はい、食べて」「...早く口開けなさいよ。ゴミムシが」「あ、あーん//」「もう少しお口を開けて!」


 すると、定番の私が最初論争が始まるのだった。


「私が先にあげようとしてたんだけど」「いや、お兄ちゃんはカルボナーラが好きだから」「私のが1番食べやすいと思うよ?」「今の隙にえい!」


 そうして、幼馴染の憂華がくれたウインナーを食べると更に加速する言い争い。


「...宗也は私のことを1番好きなんだから。昨日だってあんなに激しく求めて...」

「いやいや、お兄ちゃんは私の胸が1番可愛いって言ってたから」

「でも、川上くんはお姉さんが好きなんだよ?この前だってお姉さんもののAVを...」

「いやー?結局私が1番に思ってくれてると思うけどなー?」


「「「「誰が1番なの?」」」」と、迫られる。


 これ!!!これだよこれ!!!

この美少女に迫られる感じ...!

これこそ俺が求めていたハーレムそのものだ!


「...it's fantastic...」


 ハーレム万歳。

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