第15話 ハイレグ成分に飢える

 11月、就労支援通いは続いていた。


 毎朝6時30分を目標にアラームをつけて7時ごろ目覚めると、朝餉を食べ身支度をして、NHKの朝ドラを見終えると8時15分。朝のNHKの情報番組が始まってしばらくして8時20分にトイレに入る。年を取ったせいなのかなんなのか、着替えなど外出の支度がすべてそろってから便意がようやく来たりするので、こう習慣化した。


 8時35分、マンションを出る。管理人さんとあいさつしてバス停でバスを待つ。遠くの駅を出たバスはだいたい7分ほどいつも遅れてくるのでそれに乗って就労支援の施設近くのバス停を目指す。途中眠気がひどくなって困ったことがあったが今日はそれほどではなかった。30年間続けてきた朝寝夜更かし生活を改めるには時間がかかるのを覚悟したが、1か月でかなり慣れることができた。


 施設前のバス停には9時25分ごろ。施設の開始が9時50分。そこまで時間をつぶす。以前は近くのコンビニの店内でだらだらしていたのだが施設の非常階段に入れるのを知って、非常階段の一番上でケータイをいじって過ごすことにした。暖房はそれほどきかないが外着にはちょうどよい。


 9時45分、施設の扉の前に移動、50分に扉を開けて「おはようございます」とあいさつ、自分の席を決めてそこにレンタルのノートPCと出席管理表を受け取ってセットし、管理表にハンコと時刻を入れ、ノートPCの電源を入れる。


 ノートPCが立ち上がったらブラウザで自分のアカウントに入り、いつもの通所ログファイルに朝のチェック項目を記入、翌日の記入準備をして10時、訓練開始時間になり、朝礼が行われる。


 連絡事項をきき、ラジオ体操をして、通所の心得を読んで10時15分ごろそれが終わって11時まで訓練を始める。


 その途中で朝の訓練チェック項目を支援員さんと確認する。心と体のコンディションの確認、不具合のある場合の対処の確認を項目ごとに行い、最後に今日の訓練計画を話して、ちょっと雑談をして訓練に入る。


 訓練は基本、就職に向けての資格の自習である。ここは専門学校ではないので自習形式なのだが、私にはそれが向いているようだ。

 自分のペースで納得いくまで反復学習できるのはありがたい。施設側も講義形式にしないで教材だけ用意すればいいのだからコスパが良いのだろう。互いによい形式ではあるが、資格についてまったく素養のない人間にはちょっとしんどいかもしれない。でもそういう人には支援員がつきっきりで教えるようで、それらしき様子の人々をちらりと見ることがある。


 幸い資格試験の学習はPCに模擬試験アプリがあり、それをゲームのようにやりこめば頭に入る。Excelの資格なのでPC実機でやるのが一番良い。試験もCBTという試験場のPCで受ける試験なのだから、まさに実戦形式である。実際に受けた試験ではアプリは試験本番のアプリとかなり似ていて、操作に困ることはまったくなかった。


 11時に休憩が10分ある。ここまでのピリオドは朝礼やチェックなどで時間が50分きっちり取れないので、雑用、施設に提出する計画フォームなどを記入したりして、それでも余ったら模擬試験アプリの個別問題をいくつか解いて過ごす。


 そして11時10分から12時までまた訓練のピリオドがある。ここは50分しっかり使えるので模擬試験アプリの試験をフルで行うこともできる。ただ試験はただやっただけではだめで、その後の成果分析が大事なのだ。早く模擬試験が終わればその分析もできるが、まだ私はそこまで練度がないので時間がかかる。50分を使い切るころ12時になり、昼休みになる。


 昼餉をいただく。私はお湯を借りてカップ麺とおにぎりにしている。お湯をもらってカップ麺に入れて待つ3分でおにぎりを2個食べる。ここまでコンビニで昆布と梅のおにぎりを買って食べていたが、最近のコンビニは何でも割高なので、節約を図って家で握ったおにぎりを持ち込むことにした。


 おにぎりを食べ終わるころ3〜4分経ってカップ麺が出来上がるので、それを頂いて昼餉が12時25分ごろ終わる。午後は13時からなのでそこまで時間を好きに使う。幸い眠気はここにきたことがないのだが、眠気が来た場合は親指と人差し指の間をつねって眠気を覚ます。ここは眠気のツボなのだ。


 13時、午後の訓練のピリオドが始まる。ここではほかの時間と違い、職員からいろいろなレクチャーを受ける。履歴書の書き方や様々な計画の立て方、さらにはコミュニケーションの学習としてちょっとかわったカードゲームをほかの訓練生とやったりする。

 またデザインの学習で講師さんから教わりながらデザインソフトを使うこともある。ただデザインソフトがはいっているノートPCはそこまでのExcel学習のPCとは別に借りるので掛け持ちは難しく、パスしてExcelの学習を続けるようにしている。どうしても興味深いデザインの学習の時は無理して借りたPCを変えて受けたが、どうもいろいろバタついてしまうのだ。


 そして13時50分から14時まで休憩。14時からはまた訓練を50分行い、そのあとは片付けと掃除をして、15時に夕礼に参加する。連絡事項を確認した後、心得を読み、その最後の「明日も頑張りましょう」を唱和して一日の訓練は終わる。


 15時30分のバスに乗って16時10分ごろマンションにつくと、そこからは自分の自由な時間である。小さいことだがやるべきことをやったことで自己肯定感が少し出るのでその分、その時間も密度高く過ごせる。

 模型をやったり絵を描いたり。前は欝々と自己否定しながらだったので、それよりはずっと楽である。早起きは早寝もしなくてはならないが、でもメリハリがきいたこの生活は楽なところも多い。


 自己否定が弱まっていることで以前のような切迫した創作をしなくて済むのだが、それでも創作をしないでいられないので、絵を描く。

 iPadとApplePencilはこういう時楽でよい。くだらない落書きをしてもそれが楽にできるし、さらにそれをコピーして差分絵を簡単に作ることができる。当然私はど変態なので、いかにも変態なエロ絵を描いてしまう。それを披露するのはさすがにはばかられるのだが、読者諸賢に絵の話だけして見せないのも失礼と思うので少しだけ披露する(カクヨム版では挿絵が使えないのでリンクのみ(要pixivアカウント))。


https://www.pixiv.net/artworks/123325070


 この子があんなことやこんなことになる絵を描いている。競泳水着成分だけでなく、こういうハイレグ成分やレースクイーン成分といったものを摂取しないと生きていけないのが私であるので、そこはあきらめてほしい。まさに情けないど変態である。


 とはいえこれでも生きている。10月にこの世そのものからログアウトしようと思っているぐらい思い詰めていたのに、こうして煩悩まみれの絵を描いて存在できるのも、まさにあの天使のおかげなのだと思う。


 23時ごろに風呂に入り、24時には寝床に入る。そして翌朝また6時30分からこの日々が始まる。


 そんななか、私は実際シャレにならない金銭負担を実家にかけている負い目を感じながらも、幸せを少し感じていた。

 負い目があってもそれで得た日々が台無しであればさらにもったいなく申し訳ないので、それなりに小さな幸せを謳歌することにしたのだ。


 あいかわらず先にまったく希望はないのだが、それでもリンゴの木に水をやらないで過ごすことはできない。

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