第10話:(3/4):高位貴族の陰謀(迷宮とヴィルライベルの秘密)
アイラの言葉にリリスが反応し、「まだ、それが存在していたのね……」と彼女は感慨深げに言った。悠人はリリスに向かって尋ねた。「名前から何となく予測はつくが、どんな物なんだ?」
アイラは「あっ、ごめんなさい。つい話しすぎちゃったわね。これは未来を見通せる魔道具で、将来起きる可能性のあることを知ることができるの。関連する者たちの足取りも多少はわかるのよ」と説明した。
「なるほど。それならこの反応石が指し示すのは、その貴族かもしれないな」と悠人は推測しながら、石から放たれる光を追った。彼の声には冒険への期待と警戒が同居していた。
アイラは「もし相手が襲来を予見していたなら、第二、第三の手段も考えているだろうから油断はできないわ」と言った。彼女の表情には緊張が浮かんでいた。声には未知の危険への慎重さがにじみ出ている。
「たしかに、そこまで慎重な者なら、そう考えても不思議じゃないな」と悠人は同意し、二人の視線が交錯した。その瞬間、彼らの間の信頼と連帯感が強まった。
リリスが間に割って入り、「まずは十四層の迷路を攻略しましょ。悠人とアイラの疲れが取れたらね」と提案した。彼女の声には母性的な優しさがあり、チーム全体の安全を考慮する思いやりが込められていた。
「アイラ、大丈夫か?」悠人が心配そうに尋ねると、「ええ、おかげさまでね。それより連戦の悠人の方こそ大丈夫なの?」アイラの声には彼への深い配慮が感じられた。彼女の眼差しは悠人の顔を細かく観察していた。
「ああ、俺の方はまだ大丈夫だ」と悠人は力強く応え、微笑みを浮かべた。内心では、いざという時のための神水があることを考え、その心強さが彼を支えていた。彼はいざという時の備えがあると心の持ちようが変わると感じていた。
静寂を破るように、悠人たちは迷宮を進んでいた。不思議なことに魔獣の姿が一切現れず、それが逆に彼らを不安にさせていた。「まったく現れないとはな……」と悠人が呟くと、アイラが少し気まずそうに言った。「暗黒卿でかなり飲み込んだからかもしれないわ。数にして五百は飲み込んだみたいよ」
「数がわかるのか?」悠人が純粋な好奇心から質問すると、アイラは「ええ、飲み込んでいるうちは数値が視界に現れるの。その時見たのは五百を優に超えていたわ」と説明した。
「それなら問題ないだろう。何かまずいことがあるのか?」と悠人が問うと、アイラは少し申し訳なさそうに「うん、銀色の粒子を独り占めしちゃったから……」と告げた。
「まったく問題ないさ、気にする必要はない」と悠人は明るく言った。リリスも彼女を励ますように言葉を続けた。「誰かが強くなるのはいいことよ。仲間が強くなるのは歓迎よ?」その言葉にアイラはほっとした表情を見せ、「ありがとう。精一杯支援するね」と満面の笑みで応えた。
やがて次の階層へと続く階段が見えてきた。迷宮は終わりを告げ、彼らは無事に出口にたどり着いた。
次の十五層に向けて降りると、目の前に広がるのは石造りの町と賑やかな人々の声。空には雲が流れ、風が吹いていた。
「どういうことだ?」悠人は見回して言った。アイラは「あっそっか。悠人初めてだもんね。説明するわ」と言った。リリスは「なんだか、普通の町みたいになっているのね」と言った。
アイラは「ここは安全地帯と呼ばれていて、魔獣が湧き出ない階層なの。魔獣が階段を使うこともないから、石造りの町が作られているわけ。空もあり雲も流れ、風も吹く。昼もあれば夜もあるわ。広さはそれなりにあって、町は拡張を続けているの」と簡単に説明してくれた。
「これは他の階層にもあるのか?」と悠人が問うと、アイラは「残念ながら、ここだけね」と答えた。それでも十分だと悠人は思った。どうしたって疲労は重なるものだから、ここを拠点にしばらくダンジョンに籠るのも良いだろう。
「ここね、実は転移魔法が使えるのよ。ここまでたどり着いた人だけが使えるから、転移ギルドに登録した方がいいわ。そうすれば次回は、地上からここへ転移できるわ」とアイラが続けると、「それは良いな」と悠人が言う。そこでアイラは軽快に言った。「ヴィルライベル(自由な町)へようこそ。ここからが始まりよ?」彼らは新たな冒険の扉を開いた。
悠人は、物資の搬送もさほど大変ではないから、多少割高でも問題ないと考えた。リリスは悠人にこっそりと耳打ちした。「悠人、ここの階層は異世界よ?」彼女の声には秘密を共有するかのような軽やかさがあった。
悠人は眉をひそめ、不可解なことばに首を傾げた。「どういうことだ?」彼の声には純粋な疑問が滲み出ていた。
リリスは優雅に手を振りながら説明した。「一見魔法で構築されたように見えるけれど、実は十四層から下った階段は異世界に繋がっているの」彼女の目は知識の深淵を覗き込むかのように輝いていた。
悠人はその情報を消化しきれずに立ち尽くした。もしこれが真実なら、他の女神や勇者が存在するのではないか、そして魔法の法則が変わるのではないかという疑問が彼の頭を駆け巡る。「その場合、女神は? 勇者は? 魔法の法則は?」彼の問いは矢継ぎに飛び出した。
リリスは深いため息をついて、落ち着いた様子で応えた。「まず、魔法は今までと変わらないわ。なぜかと問われても答えるのが難しいけれど、近い世界が繋がっているからかもしれない。女神や勇者に関しては、恐らく別の存在がいるでしょう」
「もしかして、俺のタロットカードは世界を超えたものなのか?」悠人の声にはわずかな希望と多大な困惑が混在していた。
リリスは頷き、「それは間違いないわ。私自身が異なる世界で存在していたから。だから異世界に繋がる階段だと感じたの。それにタロットカードは、本来の力を発揮すると金色に輝くのよ? 素敵でしょ?」リリスの目が輝き、彼女の言葉には不思議な確信が込められていた。
「そうなのか……。そしたら今は力が抑えられているのか?」悠人が気になることを尋ねた。
リリスは微笑みながら、「ええ、そうよ。でも、これからはその力を解放するためにさらに強くなる必要があるわ。私たちが進むべき道はまだまだ長いのよ」と軽やかに答えた。
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