第10話:(2/4):高位貴族の陰謀(禁書の知識と闇の迷宮)
悠人は平然として、「禁書や禁忌の類なら、どうってことないさ。知識は武器だからな?」とアイラを安心させようとした。アイラはその言葉を聞いて少し肩の荷が降りたように見え、「――はあ。なんだか心配して損した気分」と緩んだ笑顔を見せた。
アイラによれば、特別な書物に反応石の詳細な描写が記されていたという。悠人たちはその反応石が示す壁に導かれるように流れる光の線を追って進んでいた。道は広く、大人五人が並んで歩いてもまだ余裕があるほどだ。
「まだ何もいないか……」と先頭を歩く悠人が口にすると、リリスは「遠いけれど、奇妙な何かが感じられるわ」と答えた。アイラが「敵かしら?」と問うと、リリスは「ここで出会うのは十中八九敵よね?どのような種類であれ、恐らくは古代の動物でしょう」と推測した。
道はやがて一本道となり、遠目には突き当たりで曲がるように見えた。その先から、頭が鶏で体が筋骨隆々の棍棒を持つ獣人が一目散にこちらへと駆けてくるのが見えた。その数は多数に及んだ。
アイラは「任せて!こういう時のための『暗黒卿』よ」と力強く言い、悠人は「頼んだ」と一言で彼女を信じる。アイラは短い杖を掲げると、一瞬で周囲の壁や地面が黒く塗りつぶされ、次から次へと迫り来る魔獣たちは闇に飲み込まれていった。
「改めて見ると、アイラのこの魔法はある意味、最強だな。俺では手も足も出ないぞ」と悠人が思わず声に漏らすと、アイラは「そう見えたのなら良かったわ。これ実は大きな弱点があってね……。大半は飲み込んだけど、あとはお願い」と言い、しゃがみ込んでしまう。
魔法の使用中、アイラは動けなくなるのがその弱点だった。悠人は「わかった、まかせろ」と応じ、タロットカードを浮き上がらせる。
ワンドペイジと隠者の力を組み合わせた悠人の身体は高速で移動する幻影に変わり、敵の視覚を欺きながら強力な打撃を繰り出す。「幻影隠者の影拳」を発動すると、速度を増して敵の周囲を幻のように舞い、相手の警戒を乱す。彼の体は影から実体へと変わり、防御の隙をついて繰り出される掌底は、どこから攻撃がくるか見えないほどだ。
一体を倒した後、悠人は動きを止めることなく次の目標に移る。彼の体は滑らかで、次々と攻撃が繋がる。足元は確かで、地面を蹴るごとに爆発的なスピードで加速する。次の魔獣には回し蹴りを放ち、その勢いはさらに増し、蹴りが命中すると、力強い一撃で首を根本から断ち切る。
背後から接近してきた別の獣を背負い投げで投げ飛ばすと、その頭が地面に強く打ち付けられ、脳髄が地に撒き散らされる。その一連の動作はほぼ同時に行われ、低い位置から回転し、敵の足を巧みに掬い上げて転倒させる。その隙に掌底を腹部に叩き込み、背中を爆散させる。
この連続技は、まるで計画された振り付けのように完璧で、悠人の動き一つ一つが敵にとって避けがたい宿命となる。周囲は戦いで荒れ狂い、血の海が広がる中、悠人はこれ以上ないほどの集中力を保ちながら戦闘を続ける。
遂に最後の魔獣を地に伏せたとき、悠人は緊張の糸が解け、疲労が彼の表情に現れる。大きく息を吸い込みながら、「やっとか……」と呟く。
すべての魔獣を倒し終えたその場には、散乱する遺体と暗い血の色が地面を染めていた。
戦いの後の静寂が、ただならぬ重圧と共に悠人の肩にのしかかる。彼は迷路の壁に囲まれた密林の中で息を潜めていた。周囲の木々は風にそっと揺れ、彼の静かな呼吸が唯一の音として響く。この突然の平穏が破られる瞬間、アイラが敵の奇襲に遭う。
「幻影隠者の影拳!」悠人の声が森を突き抜ける。彼は影から姿を現し、瞬く間に襲撃者の脇腹に接近、その掌底が敵を爆発させる。砂塵が舞い上がり、木々がその衝撃で軽く震えた。緊張感が一層高まる中、アイラは防護結界を展開し、次々と迫る敵を抑える。
「悠人! 長くは持たないわ!」アイラの声が苦しげに響く。彼女の背後で結界がほこりを巻き上げながらひび割れていく。しかし、悠人の動きは稲光のごとく迅速で、次の瞬間にはすでに二人目の敵も同じ運命をたどっていた。
彼は周囲の環境を巧みに利用する。低い姿勢からの突然の高速移動で敵に接近し、滑るように石畳を駆け抜ける。彼の動きは敵に予測させる隙を与えない。
三人目の敵には、強烈な回し蹴りが炸裂し、襲撃者は首と頭が一瞬で切り離されて地面に叩きつけられた。四人目は背後から接近を試みたが、悠人は素早く背負い投げを決め、敵の頭部が地面に激突すると同時に衝撃で脳漿が飛び散る。
正面から攻撃してきた五人目に対して、悠人は低く構えた姿勢から瞬間的に力を解放し、下からの掌底で敵の腹部を破壊した。攻撃の連続は止まらず、六人目と七人目が挟み撃ちに来るも、悠人は一瞬で六人目の背後を取り、掌底で腹部を破裂させた。七人目は幻影を攻撃する間に、悠人の回し蹴りが首を切り離した。
八人目の敵が魔法で炎を纏って攻撃してくるが、悠人はそれを幻影でかわし、背後からの掌底で背中を叩き、同じく腹を破裂させる。九人目が素早く攻撃をしかけるものの、悠人の動きはそれ以上に速く、側頭部に深く五寸釘を突き刺し、即座に敵を倒した。
最後の敵、十人目が氷の槍魔法を放つが、悠人はすでにその攻撃を回避し、至近距離からの五寸釘で敵の眼窩を深く貫いた。
この一連の戦いはわずか数分で終わり、悠人は周囲を巧みに利用しながら、敵を次々と無力化し、計算高く戦いを制した。彼の戦闘スタイルは、自然体で流れるように敵を制圧し、その場の空気さえも支配していた。
「終わったな……。誰だ? こいつらは」と悠人は問う。彼の表情は戦いの余韻を帯びながらも、疑問が渦巻く目で周囲を見回していた。アイラは魔法の残滓を手にしながら静かに答える。「『氷結の谷』にいる『氷の伯爵』の手の者に似ているわ」と。続けて「氷結魔法を全員が、なんらかしらの形で使っているのが最大の特徴ね」と言った。
「なぜ俺たちなんだ? あの高位貴族を倒したのと何か関係あるのか?」と悠人は疑問を投げると、アイラは首を傾げ、「恐らく、噂の通りかもしれないわね……」と言う。
悠人の眉がひそまる。「何か思い当たる節があるのか?」と彼が尋ねると、アイラは少しの間をおいて、「ええ、魔道具『予言の瞳』を持っている可能性があるのよね」と静かに答えた。
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