　高位貴族が倒れてから、祇園、リリス、アイラは次なる挑戦へと進む道が険しさを増していた。貴族の死が波紋を呼び、その地域の秩序が崩れ始めていた。悠人の行動は新たな高位貴族の注意を引くことになった。

　月明かりが差し込む書斎で、ある高位貴族が不適な笑みを浮かべていた。この貴族は他の者と比べて慎重であり、常に先手を打つ策士だった。そして今も、既に次の手を打ち終えていた。彼は「予言の瞳」という魔道具を持っており、未来の危機を先読みし、悠人たちの暗殺を企てていた。危険な要素は早期に除去するのが彼のポリシーだった。その魔道具を見つめながら、彼は呟いた。「未来に対する最高の予言者は、現在であるな……」と。暗殺された高位貴族のことを考え、迅速に自らの危機に対応しようと試みていた。

　悠人、リリス、アイラはその事情を知る由もなく、再びダンジョンの深部へと足を踏み入れていた。彼らの前には強力な魔獣が待ち受けていた。階位を上げ、新たなタロットカードを求めて戦いを繰り返していた。これらのカードは彼らの力となり、さらなる危機を乗り越える手助けとなるはずだった。また、「神眼の泉」から得られる神聖水は、あらゆる傷を癒し、ほとんどの事象を完治させる貴重な資源であった。これがあれば、どんな困難も乗り越えられる。

　その強力な力が知られれば、間違いなく狙われる。リリスは特に警戒を強めていた。悠人もその価値を理解しており、現代医学を超越するその力を、うまく秘密裏に活かすべきだと感じていた。

　アイラがこの情報を知った場合の反応が悠人を悩ませていた。彼女は回復魔法の習得者であり、回復に関しては専門家だった。そのため、あまり回復薬に依存することなく魔法で対応してきた。しかし、この「神眼の泉」のことをどう説明すべきか、タロットカードを手に入れた後の対話が重要になると考えていた。

　一見順調に見えるダンジョン内の探索だったが、不穏な足音が彼らに近づいていた。悠人、リリス、アイラがダンジョンの奥深くへと進む中で、密かに彼らを追う暗殺者たちの存在があった。これらの暗殺者は、先の高位貴族の命により送り込まれたもので、異常なまでに強大な魔力を持っていた。彼らの目的は一つ、悠人たちの追跡と消去であった。

　前回、悠人たちは十二層での試練を乗り越え、一度地上へ戻るために十層の階層主を討伐し、その後、地上へ戻るための石柱に触れていた。今回は、十三層に挑むために再びダンジョンに足を踏み入れている。森林と遺跡が交錯するゴーレムが守る十一層、大蛇が巣くう砂漠の十二層を経て辿り着いた場所だ。既知の階層を素早く通過し、新たな挑戦へと進んだ。

　廃墟と化したこの層では、石造りの遺跡が並び、霊的な存在がうごめいていた。通常の物理攻撃が効かないため、アイラは普段以上に神聖魔法を駆使し、霊たちを射抜く。「ちょっと、ここって……」彼女の声には緊張が感じられた。霊的な存在に対しては、彼女の得意とする生命ある敵との戦い方が通用しないため、不安が顔に出ていた。

　悠人は霊的な存在に対抗できる聖属性の攻撃、「神罰裁断」を発動させる。彼の手からはワンドペイジと審判のカードが組み合わさり、その組み合わせから神聖なる光が放たれた。悠人の攻撃は神聖なる裁きとして霊的存在の敵を一瞬で粉砕する。ワンドペイジの速度と審判の断罪の力を身に纏い、神聖なる一撃を放つ。この技は敵を直撃すると、審判の力が敵を貫き、その罪を裁き、一瞬で打ち倒す。さらに、この技の威力は対象に留まらず、周囲の悪を清める効果も持っており、その場に神聖なる光が満ちる。

　周囲の浄化と神聖なる光が直接的な攻撃にもなり、周囲を神聖なる光で満たしていくと敵はその場で光と化し、消滅した。

「十三層は、他の層よりも短時間で突破できたな」と悠人は呟く。彼らは次の十四層へと進む準備を整える。下り階段を降りた先に広がるのは広大な空間で、一瞬地上に出たかのような錯覚に陥るほどだった。

　しかし、彼らが到着したのは巨大な迷路だった。五メートルもの高さの壁に囲まれ、悠人が投げた石が見えない壁に当たり、跳ね返された。この迷路は上から見下ろす攻略が難しい構造になっている。

　アイラが突然、「私が知る反応石の導きの言葉として、光の進む方向へ行けば自ずと道は開かれると聞いたことがあるわ」と言い出す。悠人はその言葉に従い、反応石を取り出すと、光が迷路の壁に沿って線を描き始めた。「これは凄いな。アイラ、ありがとう。助かるよ」と悠人は感謝の意を表した。そこでリリスが疑問を投げかける。「なぜアイラがその言葉を知っているの？」と問いかけた。

　アイラは少し躊躇いながら、「これはかつて書物で見たの……」と言葉を濁す。リリスはさらに掘り下げて、「もしかして、その、禁書や禁忌の書の類？」と追及する。

　アイラは観念したように「実は禁書……なのよね」と白状する。その告白にリリスは納得がいかない様子だが、悠人はその事実に動じることなく、「『禁書ぐらい』でなんでそんなに言いづらいんだ？」と彼女に問い返した。アイラは目を見開き、口を半開きにして唖然とした様子で、「え？……禁書よ？　回復を習得する神聖な立場の者が読むのはまずいわ」と焦りを隠せなかった。