第9話:(3/3)静寂の潜入(決戦)
悠人の戦闘スタイルは精密な計算と確かな技術に基づいている。どんなに力強い敵の攻撃も、彼はその力を利用して反転攻撃を仕掛ける。一度低くしゃがんで攻撃をかわし、次の瞬間、体全体を回転させながら反撃する。「審判」のタロットカードを用いたその攻撃は、敵の不意を突き、致命的な打撃を与える。
打撃が決まると同時に、悠人はさらに距離を取り次の動きを準備する。全てが瞬時に行われるため、敵には反応する余裕がない。この攻撃で敵は背中が爆裂し、臓物を撒き散らしながら地に落ちる。悠人の背後からはアイラの魔法が敵を闇へと引き込み、無音で消え去る。その姿は戦いの中での一コマに過ぎない。
悠人たちは一つの戦いを終え、次の目標に向かって動き出す。反応石に誘導されたまま進むと、突き当たりに扉が見えた。この先に何が待ち構えているのか――思考を巡らせながら、リリスとアイラにアイコンタクトを送り、悠人は静かに扉を開けた。
人の背丈の数倍もある扉が静かに開き、その先には大広間が広がっていた。中央に紅いカーペットが敷かれ、その先端には貴族風の男が玉座に座っていた。彼の左右には屈強な一つ目の人型魔獣が立っている。
悠人たちが入室すると、貴族は大袈裟に拍手を送りながら、不適な笑みを浮かべた。彼はオールバックの髪を持ち、細身で鋭い目つきの二十代後半の風貌だった。「遅かったね。待っていたよ」と貴族は軽く言い放ち、悠人は静かに「今きたところだ」と応じた。
「何をまたご冗談を」と貴族は黒い笑みを浮かべながら言い、「ここへ辿り着いた記念に、一杯飲まないか? 互いに紳士として祝おうじゃないか」と提案するが、「いや、今はいらない」と悠人は冷静に断った。
貴族は少し残念そうに「そうか、残念だ」と言い、その瞬間、氷の槍を悠人に向けて投げた。悠人はその攻撃を最小限の動きで躱し、平然とした表情を崩さない。しかし、貴族はそれ以上何もせず、再び話を続けた。「なあ、凄腕なんだろ? 俺と契約しないか?」と貴族は再び口を開き、悠人は「相手を信用できたら契約するさ」と冷たく返した。
「どうやって?」と貴族が問うと、「俺ができるのは、お前らを見逃さないし、生かしておかないということだ」と悠人が静かに言い放った。「なるほど、元同郷としてもう少し教えてくれ。誰かの依頼で他人の人生を奪いに来たと思うが、君と私は直接的には何の関係もない。なのにやってきた。つまり、君は対価をすでにもらってしまって断りきれない。違うか?」
「問答は無用だ」と悠人が答えると、貴族は「それなら、最後に教えてくれ。俺を選ばないんだな?」と尋ねた。悠人は「俺が選ぶのは、お前を殺すか、目の前の奴を殺すかだ」と冷静に応じた。「はいとYESの二択だけというわけか」と貴族が続けた。
「ああ、終わらせるだけだ」と悠人が返答すると同時に、一つ目の巨人が手斧を振り下ろす。しかし、悠人は「隠者の影拳!」と唱えると同時に幻影のように消え去り、斧は空を切って床を打ち砕いた。
破片が四散する中、悠人は動きを止めずに巨人の側面を素早く回り込み、背後から猛烈な速度で掌底を左脇腹に叩き込んだ。致命的な一撃で巨人は内臓を撒き散らし、倒れ込む。一体目を倒した悠人は瞬時に次の巨人に向かい、低く身を沈めながら鳩尾に精密な一撃を加えた。その衝撃で巨人は仰向けに崩れ落ちた。この一連の動作は練習されたダンスのように滑らかだった。
しかし、戦いはまだ終わらなかった。貴族が指を鳴らすと、四方八方から黒装束の者たちが現れ、悠人に襲い掛かった。アイラが貴族に向けて放った閃光が結界に阻まれる中、リリスの魔法で強化されたアイラの暗黒卿が切れ味鋭く左右から接近する敵を次々と切り裂いていった。
一方、悠人は背後から迫る黒装束の戦士たちと対峙していた。彼らは曲がったグルカナイフを携え、数において圧倒的な優位を保っていた。悠人は意に介さず「幻影隠者の影拳」を発動し、幻影のように敵の間を縫って移動を始める。彼の動きは流れるように連続し、一人目の敵に対しては背後から掌底で致命的な一撃を加え、そのまま右側の敵に同様の技を繰り出す。
アイラの方でも敵は強襲してきており、敵は一人また一人と闇に飲み込まれていく。悠人が倒す二人目の敵は脳漿を床に撒き散らし倒れ、三人目も同様に迅速に仕留められる。悠人の身のこなしは止まることなく、次の瞬間には四人目を一本背負いで地面に叩きつけ、その勢いで首を踏み折る。彼の攻撃は計算され尽くしており、無駄な動作は一切ない。
攻撃の波は一瞬の間もなく五人目に移り、悠人は敵を柔術の巴投げで地に叩きつけ、立ち上がりながら手に持った五寸釘を相手の頭部に突き刺す。悠人の動きは連続しており、挑む敵を障害物のように扱い、その上を滑るように進んでいく。
続く六人目の攻撃を悠人は冷静に見極め、一瞬の隙をついて前屈みにさせながら強烈な掌底を顔面に叩き込む。敵の頭部はその場で破裂した。最後の七人目が飛び込んでくるところを、悠人は幻影で姿を消し、反転して五寸釘を眼窩に突き刺し、続けざまに掌底を顔に叩き込む。敵の頭部はその場で爆散し、戦いは終結する。
アイラとリリスも奮闘し、最後の敵を闇に消し去った。戦場は一瞬の静寂に包まれ、悠人たちの冷静かつ計算高い戦いが、大広間を支配する貴族に深い恐怖を植え付けた。
戦いが終わり、悠人は周囲の倒れた敵と破壊された周囲を見渡す。彼は汗一つかいていないかのように、次なるステージへの準備を静かに始めた。その時、追い詰められた貴族が「勇者様に栄光おおおお!」と突如叫び、黄金色のナイフを自ら胸に突き刺し自害した。不解な行動が後味の悪さを残すも、まだ息のある貴族は何か言おうとしていた。
死にゆく貴族は、不適な笑みを浮かべながらかすれた声で言葉を紡ぎ始める。「私の背後には、もっと強大な力が存在する。『十一人の勇者』と呼ばれる者たちだ。彼らはもはやかつての英雄ではない。力に飲まれ、異世界の均衡を破壊する存在となってしまった」と彼は告げた。この言葉は悠人に衝撃を与える。以前リリスから聞いた勇者たちがここに繋がるとは、想像もしていなかった。
貴族はさらに力を振り絞るようにして言葉を続けた。「これは……序章に過ぎ……ない。私の……死は……終わり……だが、始ま……り……なのだ。悠人よ、同郷の……よしみ……だ。紅い……女神に……気をつけろ。この……ことを……覚えて……おく……と……いい」と彼は力尽きた。その瞬間、高位貴族の魂と混ざり合った悪意と悪徳の元の世界の魂を反応石に吸収することに成功する。
悠人はこの時、『同郷のよしみ』と言った貴族の言動が不可解だった。さらに『紅い女神』とは何なのか。もしかすると死の間際には、元の世界の魂が全面に出てくるのだろうかと疑念が浮かぶ。だとしても今は答え合わせなどできるわけもなく、ただ反応石に吸収した結果だけを理解した。
新たな真実を前に、悠人は深く思索に耽る。敵が示した情報と彼自身の目的がどのように交差するのか、その謎を解き明かす必要があった。彼とリリス、アイラは、更なる困難な挑戦に立ち向かう準備を整え、次の目的地へと向かった。
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