第6話:(2/4)新たな力と運命(階層主を討て:悠人の戦い)
リリスは「悠人、ここでは初っ端からいきなり全力でやってみて」と提案した。その言葉には、彼女なりの彼への信頼と、彼の能力の試練が含まれているようだった。
悠人は扉の前で立ち止まり、過去の自分を思い返していた。最初は不安と恐怖でいっぱいだったが、今ではリリスと共に冒険することで自信がついてきたことを感じていた。リリスとの出会いが、彼にとって大きな転機となったのだ。
「やってみるさ」と心を決めた悠人は、前に立ちはだかる扉を見つめ、その眼差しには決意が満ちていた。リリスに一瞥をくれると、彼女も微笑み返した。「リリス、開けるぞ」
「うん。やっちゃおう!」
悠人が冷たい扉を押し開けると、目の前には巨大な円柱形の闘技場が広がっていた。青白い光が闘技場全体に降り注ぎ、中央には白熊を彷彿とさせる巨大な魔獣が吠え立てている。その叫び声は空間全体に響き渡り、足元からは地響きが起こるかのような振動が伝わってきた。
悠人はその迫力に一瞬心が揺さぶられたが、すぐに集中を取り戻した。リリスからの励ましの微笑みを受け取り、闘技場の中央へと歩き出す。闘技場の地面は彼の足音でわずかに響き、それがこの戦いの開始を告げているようだった。
目の前の巨大な敵に向かって、悠人は身構える。今までの戦いとは異なる、真の試練がここにはある。彼は深く息を吸い込み、全ての感覚を研ぎ澄ませ、戦いに臨んだ。
「『ワンドペイジ』、『審判』!」
悠人の前には銀色の粒子から形成された二枚のタロットカードが浮かび上がり、彼が心を集中すると、それらは霧のように消え去り、彼の体内に吸収された。その瞬間、悠人の筋肉がさらに膨張し、その眼差しには前例のない力が宿る。彼の身体能力は飛躍的に向上していた。
白熊魔獣が轟音を立てて襲い掛かる中、悠人は静かにその巨大な体を見据える。魔獣が重い一歩を踏み出すや否や、悠人はその巨体を機敏に横切り、攻撃の機会を窺った。魔獣の振り下ろす巨大な腕をかわし、短い距離を猛スピードで駆け抜け、白熊の脇腹に猛烈な掌底を打ち込む。
「神罰裁断!」
悠人の叫びが空間を震わせ、彼の掌が魔獣の脇腹を貫くと同時に、背後からは血と臓物が噴出する音が轟いた。致命的な一撃を受けた魔獣は力なく倒れ込む。悠人はその勢いを保ちながら、地に倒れた魔獣の上に飛び乗り、もう一度力を込めて「神罰裁断!」と高らかに叫んだ。彼の拳が魔獣の頭部に突き刺さり、頭蓋が粉砕される音が鳴り響いた。魔獣はもはや動けず、その巨体が力を失いながら床に横たわった。
一時の静寂が闘技場を包む中、倒れた魔獣からはもはや生命の気配が感じられなかった。闘技場の地面は血と残骸で満たされていた。
その戦いは、始まってからわずか数秒で終わりを告げた。悠人は深呼吸をしながら、自分の身体に異変が起きていないかを確認し、周囲を見渡した。全てが終わった瞬間、彼は一人で静かにその力を実感した。
「まだ、何も起きないな……」
悠人が心の中でつぶやいたその時、銀色の粒子が悠人の胸に吸い込まれると、今回は変化が起きた。彼は「何っ! 熱っ!」と叫び、身体中の血管に熱湯が流れるかのような熱さを感じた。両腕で体を抱きしめ、苦しみのあまり床で蠢く。彼の体内で何かが爆発するような感覚に襲われていた。
どれくらいの時間が経過したのかわからないが、やがて激痛は薄れていった。気が付くと、彼の前には不思議な壺が置かれていた。
「こっ……これは」
悠人が呟くと、リリスが彼の横で微笑んで「それが神眼の泉よ。タロットカードが一枚引けるわ。手を突っ込んでみて」と言った。
悠人は多少よろめきながらも、壺に手を入れた。壺は外見からは想像もつかないほど深く、彼の手は冷たい水のようなものを感じた。何か手応えがあると、悠人はそれを掴んで引き抜いた。手には一枚のカードがあり、その上には老人の絵柄が描かれていた。
「この絵柄は『隠者』か……」
悠人がつぶやくと、リリスが説明を付け加えた。「そうよ。『隠者』のカードは使用者の体力と精神力を一時的に高めてくれるわ。これを使えば、瞬間的に姿を隠し、相手の攻撃をかわしながら、速くかつ鋭い打撃ができるわ」
カードの背景を見ると異世界の荒野や森の中、厳しい自然環境の中で孤独に生きる隠者の小屋が描かれていた。背景には草木や岩、そして遠くには不気味な霧や光の粒子が漂っている。この荒涼とした背景は、隠者が自然と一体化し、その力を借りて技を繰り出すイメージを表現しているようだ。カードに描かれた人物を見ると、孤独な隠者が描かれていた。彼は森の中で立ち止まり、両手で「気」を集めるようなポーズを取っている。その表情は静かで集中しており、内に秘めた力を引き出そうとしている様子が感じられた。
その隠者の周りには、自然の力を象徴するシンボルやアイテムが描かれていた。彼の側には大木がそびえ立ち、その根元には古代の石碑や薬草が配置されている。足元には小さな炎が点滅し、魔法の力を示唆しているようだ。カード全体の色合いは、静寂と秘密を感じさせる深い青色と暗い緑色が主体だ。これは異世界の不思議な森や秘密の洞窟を連想させ、隠者の孤独な旅路と彼の内に秘めた力を表現している。また、カード全体には微かな光が灯り、魔法の存在感を感じさせた。
「悠人、おめでとう! 階位も上がってカードも得られたね」とリリスは喜びの声を上げ、彼の腹を指さした。確かにへその上あたりに親指の爪幅程度の横線が一本引かれていた。これで彼の階位は「騎士」に昇格したのだ。
「ああ、ありがとう。リリスのおかげで助かったよ」と悠人は感謝の言葉を返した。
リリスは張り切って「さあ、神眼の泉にこの銀色の水筒を沈めておいて。栓を開けるだけで全て勝手に吸い込んでくれるから。終わったら取り出すといいわ。その水筒には先ほどの戦いで得たポーションよりもずっと効果が高い回復薬が入るのよ」と助言した。
悠人は彼女の言葉に従い、銀色の水筒の栓を開けて壺に沈めた。すると、瞬く間に壺の水が水筒に吸い込まれ、やがて水筒は満たされた。
「なんだか、見た目よりもずっと多く入るな」と悠人が呟くと、リリスはにっこりと笑いながら答えた。「ええ、その水筒は少し特殊で、神聖なものだけを収める時に使うの。容量は宿一軒分くらいの水が入るわよ?」
「それはすごいな……。そうなれば、階位が上がるたびにこの神眼の泉を汲んでおけば、いざというときのポーション代わりになるな」と悠人は言い考え込んでいると、リリスはさらに付け加えた。「ええ、その通りよ。ただ、持っていることはあまり言いふらさない方がいいわ。余計なトラブルを避けるためにね」
「ああ、わかった。気をつけるよ」と悠人はリリスに感謝しながら応えた。彼の新たな階位と力を手に入れたことで、次なる挑戦に向けての準備が整っていた。
「もう少しすると、白熊の遺体は粒子に帰って、魔石だけが残るわ。それを持ち帰ってギルドで売りましょう」とリリスは提案した。彼女の声には冒険の終わりに訪れる安堵の色が滲んでいた。
「そうだな。いくらで売れるかな、楽しみだ。今日はこれで帰還か?」と悠人は問いかけた。その声には冒険の疲れと期待が混ざり合っていた。
「そうね、今日はまずは手応えを確認した感じね。明日からはもっとガンガン行きましょう!」とリリスは元気いっぱいに返事をし、次の冒険に対する意気込みが感じられた。
悠人は「わかった」と頷き、そうして二人は初めての十層制覇を成し遂げた。戦利品である魔石は、その大きさが大人の頭よりもやや大きめで、見た目以上の重さが感じられるものだった。
魔石に加えて、悠人とリリスはいくつかの珍しい薬草や魔法の巻物も手に入れていた。それらはギルドで高値で取引されることが期待された。
帰路では転移魔法陣が現れ、それに乗ることで無事に地上に戻ることができた。
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