第6話:(3/4)新たな力と運命(ギルドでの評価)

 リリスは「ね? 階層主さえ倒せば帰りは簡単でしょ?」と言うと、悠人は「ああ、拍子抜けするぐらいだ」と答え、二人は安堵の笑みを交わした。リリスは尻尾を立て、誇らしげに歩き出した。


 ギルドに到着すると、すぐに買取窓口に向かった。今日は人出が多く、賑わいを見せている。ギルドの大広間は冒険者たちの笑い声や武器の音で賑わっていた。


 リリスは「ねね、そこのお姉さん。買取手続きお願いね」と受付の女性に呼びかけると、受付の女性は「はい、かしこまりました。今回そちらの品と言うことでよろしいですか?」と確認した。


 悠人は「ああ、先ほど討伐してきたんだ。ここに置けばいいのか?」と尋ねると、受付の女性は「ええ、お願いします」と答えた。


 ギルドの大広間は冒険者たちの笑い声や武器の音で賑わっていた。悠人が魔石をテーブルに置くと、その光輝く有様が周囲の人々を一瞬で黙らせた。さらに、その重みで木のテーブルが軋む音を立てた。


 受付の女性は「こっ! これは!」と思わず声を上げた。その驚きの声に、周囲の冒険者たちも関心を示し、ざわつき始めた。


 受付の女性は「恐れ入りますが、これはどちらで?」と尋ねると、悠人は「十層の階層主だ」と答えた。受付の女性は続けて「お一人で?」とさらに聞いてくると、悠人は「ああ、そうだ」と冷静に答えた。


 その時、悠人は鋭い視線を感じ、視線の主を見つけると、そこには長い金髪に碧眼、白衣を纏った清楚な外見の女性がいた。彼女の姿勢や表情からは、戦士としての訓練を受けていることが伺えた。


 悠人はアイラの碧眼に知性と冷静さを見た。彼女が何を求めているのか、どんな過去を持っているのかが気になったが、今はそれを問いただす時ではなかった。



 受付の女性は「少々お待ちを」と言った後、奥に向かって魔石を持って行った。その間、ギルド内の他の冒険者たちが彼らの方を見て、その大きな魔石と悠人たちの成果について小声で話し合っているのが聞こえた。


 悠人はその長髪の女性に再び目を向けた。彼女は戦士の訓練を受けた雰囲気を漂わせながらも、その碧眼は知性と冷静さを物語っていた。悠人は彼女がどのような人物か、その目的が何かを探ろうとしたが、彼女はただ静かに彼を見つめ返していた。


 やがて、受付の女性が数人のスタッフとともに台車を押しながら戻ってきた。彼らは魔石を丁寧に台車に載せ、さらに別の計測器具でその魔石を詳しく測り始めた。機器がピープと音を立てると、受付の女性は「こちらの魔石の価値は金貨二百枚となります」と告げた。


 リリスは少し不満そうに「あれ? これだけかな? 結構良質なんだけど」と言い、価格に異議を唱えた。受付の女性は少し戸惑いながら「二百枚が適正価格ですが……」と言葉を濁した。


 その時、先ほどから悠人に視線を送っていた女性が近づいてきて、彼女が言った。「恐れ入ります。私、階位伯爵のアイラと申します。突然の口出しをお許しください。相場より安価な買取なので、金貨二百四十枚で私が買い取りますがよろしいでしょうか?」彼女の声は落ち着いており、その提案には自信が感じられた。


 リリスはそれを聞いて目を輝かせ、「それなら、このアイラさんに売るけど、ギルドはどうするつもり?」とギルド側の反応を確認した。


 受付の女性は「それでしたら、我々にとっては非常に貴重な品のため、本来はここまでの金額を提示しませんが、金貨二百五十枚ではいかがでしょうか?」と受付の女性は提案し、その言葉に間髪を入れずにアイラはわずかに微笑みながら、落ち着いた声で「金貨二百六十ではどうですか?」と提案した。受付の女性は一瞬考え込み、額に薄い汗が浮かんでいた。



 しかし、受付の女性は決断を下す。「金貨三百枚で買取ります」と宣言した。これは予想を超えた金額だった。アイラは一瞬考え込むが、やがて小さく頭を振りながら、「そこまでは私には出せませんので、この交渉からは手を引きます」と申し訳なさそうにお辞儀をして身を引いた。


 リリスがその状況を見て、「それなら三百枚で即決ね?」と軽く笑いながら言うと、受付の女性は少し安堵した様子で、「はい、それで取引成立ということでお代をお渡しします。少々お待ちを」と席を離れた。戻ってきた彼女は、金貨の詰まった重そうな袋を悠人に渡す。受付の女性は「中身を確認しますか?」と確認を求められるが、悠人はその提案を静かに否定する。


 悠人は「いや、信用しています。万が一裏切れば、その時は違う対応をします」と冷静に答え、その言葉には冷酷な決意がにじむ。


 悠人は胸の中で緊張を抑えながら、タロットカードの力を呼び覚ました。冷たい光が彼の周りに漂い始めると、彼はその未知の力が自分の体を満たしていくのを感じた。


 彼が発動させたタロットカードが空中に静かに浮かび上がり、場の空気を一変させた。その光景にアイラを含む周囲の者たちが息を呑み、厳かな静寂が訪れた。


 この時、悠人の内に秘められた、魔法でも神力でもない、得体の知れぬ強大な力が垣間見える。金貨袋を受け取り、悠人はすぐにそれを収納し、静かにその場を後にする。


 リリスは「遂にその力を見せたわね。これで彼に絡む者はいないでしょう」と半ば感心するように呟く。しかし悠人は混乱していた。悠人は「タロットカードの発動準備が、なぜ恐れられるのだ?」と素朴な疑問を投げかける。


 リリスは優しく説明する。「悠人、この世界の力の感覚をまだ把握していないのね。ここでは、魔力や神力は誰もが感じることができるけれど、悠人のように未知の波動を持つ者は稀なの。それが、恐怖の対象となるのよ」。


 悠人は「つまり、過去に未知の力を持つ存在が恐れられたというわけか?」と問い返すと、リリスは頷き、「ええ、かつてこの世界を震撼させた者たちも、今はその評判が地に落ちてしまった十一人の勇者たちだったのよ」とリリスは続ける。「そうした伝説のような存在が過去にはいた。そのせいで未知の力への恐れが根強いのね」と語る。


 悠人は「なるほど、それで彼らのような者たちがいたから、未知の力には不安が付きまとうわけか」と納得したように言うと、リリスはうなずいて返答する。「そうよ。だからこそ、悠人がその力を示したときに場が静まり返ったのよ。その力がどれほどのものか、皆が計り知れないからね」。


 その時、彼らの会話を遮るように、女性の「待って!」という声が響く。振り返ると、先ほどの取引で名乗ったアイラが息を切らして駆け寄ってきた。悠人たちは立ち止まり、彼女の次の言葉を待つ。


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