五刀目 歪み

鬼は咲を数秒ほど見つめると少し驚いた表情を浮かべにやりと笑った。


「お主、名はなんという」

「私は、緋月あかつき さき

「ふむふむ」


まじまじと見られる不愉快感が全身に襲いかかってきた。

鬼はまた黙り込みながらぶつぶつと何語か分からない言葉で独り言を言っている。


「繧ゅ@縺九@縺ヲ縺ゅ?笆ェ?鞘蓑?鞘蓑?上?...縺?d,縺セ縺?遒コ險シ縺後↑縺」

「ん?それ何語?」

「あ、あぁあぁ、すまんすまん考え事をしていた」

「咲よ、お主の親は誰じゃ」

「...知らない......親も生まれた場所も...」


うつむきながら自分の過去の話をしている咲を見ているとしかめて話始めた。


「お主のその記憶は無いのではなく奥深くに厳重に封印されている」

「え、どういう事?なんでそんな事をするの?!」

「知らん、だがこの儂ですら知らない呪文で守られている...よほど高名な者が仕掛けたのだろう...例えば、お主の親とかな」

「.......私の親...」

「それとお主、得物に何も妖力が感じなかったが何故だ」

「それは...試そうにも毎回、「拒絶」されるんだ」

「その原因は、お主にある」

「何があるんだ私に!!何か呪いでも犯されているのか!」

「そうではない、お主の源は霊力ではなく妖力じゃ」

「え...それって」


目が限りなく見開き驚きを隠せなかった。

それは霊力と妖力の違いによるものだった。

霊力とは、一般人でも微量だが流れている自然エネルギーの事を指している。霊力の容量が多いほど怪などを対処することができる。

一方、妖力とは怪などの人ならざる物から発せられる負のエネルギーが蓄積した塊の事をいう。

そして、一般的に霊力と妖力は交わらず、人間が妖力を宿すと低確率で人外となる、失敗すると堕転し怪になる現在、陰陽局では禁忌とされて厳格に守られている。また、霊力と妖力を同時に持つことは決してあり得ないとされている。


「私...人間じゃ...ないの...?」


衝撃的な事を打ち明けられ平常心が保てなくなり弱々しい言葉が出てきた


「正確には、混じっているといった方がいい」

「混じって...いる?私の中に?でも...なんで」

「それはまだ分からん、まぁ自ずと分かるだろう」


一息ついて平常心を取り戻した


「それで「拒絶」されるのとなんの関係があるの?」

「お主の中にあるその妖力の影響で相似することで

歪みが生じ反発し「拒絶」される。

時に咲、お主の妖力の容量ではそこらの物は扱うことはできん」

「それは、少なくてできないってこと?」

「否、多すぎるということだ、ほれ以前にないか?やたら強力な妖に遭遇することは」


そう言われると以前に見覚えのある任務が多くあることに気がついた。


「それは、お主の妖力が漏れて近くの妖が寄ってきてきたんじゃ」

「知らなかった...私の中に妖力が...でも今まで感じてこなかったのはなんで」

「封印されていたのじゃ、この刀を抜いたことで封印が解けたのだなんせあのクソ餓鬼の呪詛じゃからな」


高らかに笑うその声に同調して大気が揺れた


「あんた、安倍晴明の事をクソ餓鬼呼ばわりしてるんだ何者なんだ」

「儂は、あの餓鬼と共に過ごしてきた「式神」じゃ」

「式神?!でも式神って当事者が死ぬと消えるんじゃ」

「そうだが、あの餓鬼は式神を刀に「降ろす」儀式を完成させ実行させたのじゃ」


式神は元より当事者との間に「誓約」を交わし使役することができるが、それは何かに「降ろす」ことは「誓約」という縛りとはまた別のカテゴリに属することで相対する。がだ安倍晴明はそのカテゴリの境界を破壊し秩序を塗り替えた。


「御伽話みたいな話が...現に目の前にいる...」

「あのクソ餓鬼は変な事しかしてなかったからのう」

「それとじゃ、この刀を常に持っておれ、さもなくば恐ろしいことが起きるからの」

「えぇぇ...嫌なんだけど」

「そうしないと、この地上で百鬼夜行が起きるでな」

「拒否権なしかよ」

「それとじゃ主が交代すると”名付け”をするのじゃ」

「”名付け”...か」


ふと辺りを見ると火が燃え盛りそれがゆらゆらと

散っていく様が桜に見えた気がした


「桜火...お前は桜火だ」





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