第3話:転職?!
「さ、どうぞ。遠慮しないで」
(こ、これが事務所……?)
仁は、思わず入り口で立ちすくんでしまった。
超高級ホテルのロビーかと見間違うほどの豪華な内装。
おしゃれなシャンデリア。
建物の外観から全く想像できないオフィスがそこにあった。
「適当な椅子に掛けてください。コーヒーは飲まれますか? 味は?」
「あ、ああ……。ブラックで」
「了解」とでも言わんばかりに少しだけ微笑むと、クリスはこれまた高そうなコーヒーマシンを稼働させた。
目の前にいる天才少年は、若干12歳の子供だ。
一方、アラサーのおっさんは、こんな部屋に足を踏み入れたことさえない。
(なんて不条理な世の中なんだ……)
仁は、改めて自身の境遇を嘆き、どんよりとしたオーラを発した。
「コーヒーです。どうしました?」
「い、いや、何でも」
仁は、オーラを飲み込まんとするように、出来立てのコーヒーを飲む。
「改めまして、平良(たいら)クリスです。この事務所の所長をしています」
「え? 所長って、確かまだ……」
「ああ、学校ですか? もう行ってないですよ」
「不登校ってやつか? ダメだぞ、学校はいかないと」
「あはは、いえ、特別に国から承認をもらっただけですよ。もう最難関大学の問題だって満点取れますから、勉学の必要はないので」
「へいへい、さすがですね」
「薬師仁さん……ですよね? 勝手ながら、取り調べで書類が見えてしまったので」
「ああ、そうだ。その節は本当にありがとう。薬師仁だ。あのまま拘留されてたら、また仕事をクビに……」
薬師仁は、ハッとして立ち上がった。
「ああああ! そうだ、仕事に向かっていたんだ! 大変だ!」
仁は、慌ててスマホを見る。
たくさんの不在着信が入っており、何件ものショートメッセージも入っていた。
「こ、こうしちゃいられない。急いで……」
慌てて電話をかけようとする仁の手を、クリスが制止した。
「あはは、大丈夫ですよ。諸々手配しておきました」
「え?」
「書類が見えたって言ったでしょ? 職場には僕の方から連絡しておきました」
「いつの間に……。っていうか、何を勝手に」
「あ、そうそう。退職の事も一緒に伝えておきました。ちょうど良かったので」
「た、退職?! なんで勝手なことしたんだよ。せっかく就職できたのに……」
「大丈夫ですよ。今日からここがあなたの職場です。一緒に頑張りましょうね」
クリスは、満面の笑みで仁に握手を求めた。
「だ・か・ら! 何を勝手に」
「お・れ・い! 助けてあげましたよね?」
「ぐっ……」
仁は渋々、クリスの手を取った。
「はい、契約成立。ようこそ、平良神事事務所へ」
「神事事務所?」
「神事関連の問題を専門に扱う探偵事務所だとでも思ってください。いやー良かった。仁さんのような、いや仁さんを探していたのです。そして、今の握手で確信しました」
「確信って何を?」
「やっぱり、仁さんは『同神種』ですね」
「す、すまん。その『同神種』ってのは聞いたことはあるのだが、実際よく知らないんだ」
クリスは、おそらく自席と思われる大きな机を備えた椅子に座り、コーヒーを一口すすった。
「『同神種』とはその字の通り、神さまと同化した人間のことです。『神事』は、基本的に神々が持っている固有の能力を使用したときに起こります。そして、その固有スキルは、神々が宿ったモノ、すなわち『神具』と呼ばれるものによって具現化することが多い。ここまではいいですね?」
「ああ、よく聞いた話だ」
神々がこの世に降誕した時、神々は何かの物体に身を宿し、この世界に自身を定着させなければならなかった。
詳細な条件は不明だが、人間から一定の信仰を勝ち取った場合、再び天界へ召還されるという。
そこで、多くの神々は人間に近いモノへとその魂を宿した。
それが、『神具』である。
「基本的に神具はその名の通り、何かの物品であることが多いです。しかし、ごく稀にそれが人間に直接宿った神様もいた。それが『同神種』です」
「ふーん……。えっ?!」
仁は、驚愕した。
専属契約か何かだと思っていたのだが、同化だったとは……。
「という事は、俺は神様ってこと? 火とか出せるとか?」
「半分正解で、半分間違いですね。魂を定着化させる際、大多数の神は自我を残します。よって、人間の精神まで乗っ取ってしまう神もいますが、それは『神具』と定義されます。要するに、人間をモノにしているわけですからね。一方、『同神種』の場合は、神々は自我を残していません。仁さんの場合も、その力だけを授かっているのです」
「ち、ちなみに……どんな?」
クリスは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「試してみましょうか?」
クリスはコーヒーを置き、椅子から立ち上がる。
「今から、ある刑事がここにやってきます。僕がその刑事に殴りかかります。おそらく、その刑事は氷の刃で反撃してくるでしょう。それを受け止めてください」
仁は、ものすごく渋い表情をした。
「す、すまん。言っている意味が分からんのだが……」
「飛んでくる氷の刃を受け止めてください」
「いや、意味わからんよ。マジで」
その時、ピンポンとインターホンが部屋に鳴り響いた。
「来ましたね。さあ、お願いします」
「いやいやいや!!!」
「どうぞー♪」
クリスがそう応えると、勢いよくドアを開いた。
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