96 陽の当たる遊歩道
波に揺られるような感覚のまま朝を迎え、亮太はベッドから起き上がった。
次第に、顔がかあぁっと熱くなる。
何だって?
何て言われた?
れおくんは、俺に、何て???
どういう事なのか分からず。
どう行動すればいいのかも分からず。
礼央と教室で会った朝、結局、「おはよう」という当たり障りのない言葉だけを交わし、その日は過ぎて行った。
既に部活も委員会もない3月の終わり。
ケントとサクの賑わいに隠れて、それ以上言葉を交わす事もないまま、2週間という春休みを迎えた。
そのまま4月が来て、クラス替えが行われ、一人クラスが離れてしまったケントの事を笑いながら、日常が過ぎて行った。
「れおくんは今年も図書委員?だけ?」
「うん。図書委員、意外と面白くてさ」
「俺も、今年も変わらずかな。放送にはもう少し行く事になるかもしれないんだけど」
ぎこちないながらも、気付けば普通に会話が出来るようになっていた。
このまま、元の二人に、戻るような気がした。
そんな4月の半ばごろ。
ケントとサクが部活に行き、久々に亮太と礼央の二人で、帰る事になった。
晴れるばかりの空の下。
通り過ぎる公園には、黄色やらピンクやらの花があちらこちらに咲いている。
分け合ったアイスを口に咥え、遠く子供達が騒ぐ声を聞く。
ふと隣を見ると、すぐ隣に、礼央の横顔が見えた。
無造作に分けた同じアイスを咥え、なんだか花を眺めて嬉しそうにしている。
眼鏡の横顔。
アイスを冷たそうに齧る。
ああ、そうか。
ふと気づく。
俺……、この時間が、思った以上に大事なんだ。
失くしたくないんだ。
きゅっと、礼央の腕を掴み、立ち止まる。
礼央がくるりと振り向くと、その黒髪が風になびき、ふわふわと揺らいだ。
「俺……、俺たちってさ、両想いって事でいいのかな」
面食らった礼央が、その言葉を理解すると、一瞬、泣きそうな顔になった。
「僕は、みかみくんが好きだよ」
揺らぐことのない気持ち。
「俺も……、す、…………き、だから…………。あの」
顔が、熱くなる。
これじゃ、照れてるって、バレバレじゃんか。
「俺達……、付き合ったりとか……」
礼央は礼央で、空いている方の手で顔を隠そうとする。
「うん……」
「あ、じゃあ。よ、ろしく」
「よろしく、みかみくん」
え、と。
これで、いいのか。
なんだこれ。
くすぐったい。
全身で、笑い出してしまいそうだ。
「あーーーーーー!もう!緊張した!!」
「みかみくん……」
礼央がちょっと嬉しそうな、困ったような顔をする。
「ゲーセン行こ!」
亮太が勢いのままそんな提案をする。
「今から?」
「うん。こんな気持ちでちょっと……、まだ帰りたくないし」
「うん」
礼央が、笑う。
ふと見ると、礼央と目が合う。
ちょっと照れた視線。
くすぐったい。
「………………」
口を真一文字に結んで、笑い出しそうなのを堪える。
「みかみくん」
「……ん?」
呼んでおいて、「へへっ」と礼央が笑う。
その顔に、照れて横を向いた。
触れそうな肘に気を取られる。
今まで通りだけれど、今までとはちょっと違う気分で。
晴れた空の下を、隣同士で歩いた。
◇◇◇◇◇
いつもならここで最終話なんですが、今作は次回を最終話にしたいと思います。
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