95 ごめん
「み、みかみ……くんっ」
バン!と開けられた教室の扉から、礼央が飛び込んで来た。
もう随分前に思える礼央の誕生日のようだったけれど、あの日よりも礼央の息は切れていた。
「おかえり」
「………た、ただい、ま……っ」
ここまで騒がれると、逆に亮太の方が落ち着いてしまう。
礼央をじっと見る。
改めて見ると、随分と整った顔をしているよな。
ごめん。
心の中で謝る。
ごめん。
勘違いしちゃってごめん。
わがままでごめん。
「へへ」と笑う。
心配そうに近付いてきた礼央に、申し訳なさでいっぱいになりながら、けど、どうしても結局、言わずにはいられないみたいだ。
汚くて、ごめん。
「あのさ」
こんな話、笑い話にしたいのに。
思った以上に真剣なトーンになってしまって、内心焦る。
ちょっと笑い話にしたら、こんな気持ちにケリをつけれるんじゃないかって。
ああ、でもそんなの言い訳だ。
「俺、勘違い、しちゃってたんだ。もしかしたら……、れおくんが、俺の事好きなんじゃないかって」
声は、思ったよりも震えた。
「え…………?」
礼央の表情が固まる。
そっか。
やっぱ、引くよな。
礼央の顔が、見れなくなる。
けど思ってしまう。
この気持ちを押し付けて、君を独り占めできたらいい。
「その……恋愛として?」
笑おうとしたけれど、ただ、顔を歪めただけになってしまう。
どうしたらいい?
「それで俺……、嬉しくなっちゃって……。俺……いつの間にか……、」
どうしたらそばにいてくれる?
なんて言ったらいい?
心臓がバクバクする。
思ったより……、口に出すのってキツイな……。
やば、ちょっと泣きそう。
「れお……く…………」
泣くのを堪えるのに、言葉を切った。
その時だった。
「…………きだよ……」
礼央が呟く。
「…………」
なんて言われたのか聞き取れずに、ただ、押し黙る。
俯いたまま、動けなくなる。
沈黙だけに包まれる。
空を雲が流れる。
眼の前に、礼央の足が見える。
「好きだよ」
今度の礼央の言葉は聞き取れて、亮太は背をビクリと震わせた。
「一生言うつもりなかったけど…………。その……、恋愛的に。みかみくんのことが」
恐る恐る、顔を上げる。
すると、顔を真っ赤にした礼央と目が合った。
亮太も、半分泣き顔のまま顔を熱くさせる。
「………………」
何を聞いたのか。
何を信じたらいいのか。
どう動けばいいのか。
よく考える事もできずに、二人は言葉をなくした。
窓の向こうから、わっと何処かの部活のメンバーらしき大勢の声が聞こえた。
既に卒業したはずの3年生が部活に顔を出したとかなんとかで、それぞれが声を掛け合っているようだ。
その声を合図に、二人して弾けるように声を上げる。
「あっ……え……っと……」
亮太が飛び上がるように立ち上がった。
「あ………………っと……………………」
手汗をシャツで拭う。
「か、帰ろっか」
持ち直そうとして、亮太がそれだけを言うと、礼央は、
「…………うん」
とだけ呟いた。
それから、何の会話も無く、二人はただ歩いた。
何かを考える事も出来なかった。
交わす言葉は無かった。
ただ、駅のホームで、礼央の方の電車が来て、
「じゃあ」
「ああ」
とだけを交わした。
電車に乗ると、礼央が振り返る。
扉が閉まり、ガラス越しになってやっと、亮太は礼央の顔を見た。
あ…………。
ぎゅっとこちらを見るその視線から、目を離す事が出来なくなった。
胸が、締め付けられる。
発車する。電車が動き出す。
二人は視線をそのままに、見えなくなるまでお互いを見ていた。
その顔を、頭から追い出す事が出来ないまま、亮太はその日の夜を過ごした。
◇◇◇◇◇
みかみくんの方がけっこう衝動的だったりしますね。
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