91 告白(1)
「嬉しいな、こんなに仲良くなれると思わなかったから」
礼央が静かに言う。
「え、そう?」
「うん……。もうすぐクラス替えじゃん。離れたら寂しいって、思ってたから」
「…………そだね」
礼央の言う通りだ。
もうすぐ高校1年の時間が終わる。
進級すれば、クラス替えだ。
「あのさ、僕……」
礼央が、こちらに視線を向けた。
真剣な目だった。
少し、どきりとする。
「入試の時に、一度みかみくんに会ってるんだよね」
「え?」
礼央が、亮太の隣の席に座る。
「入試の時にさ、ちょうど、ここに座ってたんだ」
隣……?
あの時の隣の席といえば。
入試の日は、晴れていた。
電車が止まることもなく、悪くない日だと思った。
ただ思ったよりも暖かくて、ちょっと試験中、眠くなってしまったけど。
試験は午前と午後で分かれていて、試験を受けた机で、昼食を食べる事になっていた。
弁当を持って来る者、コンビニで買ってきた者、ファーストフードを広げる者。
色々だった。
それぞれが一人で、緊張の面持ちを保ちつつ、食事をする。
亮太もその日は、母が作ったお弁当を広げていた。
弁当にトンカツがどーんと入っているのは、あまりにも母らしく、食べ応えはあったけれど、あまりにも豪快だった。
ガシャン!
と音がしたのは、そんな昼食時の事だ。
見ると、真横の生徒が、緊張からか、弁当をひっくり返し、床に落としてしまったところだった。
教室が、しんと静まり返る。
一瞬、迷惑そうな視線に晒される。
けれどそれも一瞬のことで、誰もがまた何事も無かったように参考書に視線を落とした。
慌てて拾い集めはじめたその生徒に、亮太は思わず声をかけたのだった。
「大丈夫?」
一緒に弁当を拾い上げ、異様に豪勢なトンカツ弁当はこの為に用意されたのだといわんばかりに、半分をその生徒に分けた。
顔は覚えていない。
というか、あまり正面を向いて話す機会も無かった。
「あ、あれ、れおくんだったのか」
「うん。あのときはご飯まで分けてもらっちゃって、ほんと、ありがとう」
「そんなのいいのに」
本当に、些細なことだった。
たまたま母さんが異様な弁当を作った、そんなことで。
「僕、さ」
礼央が、亮太の顔を真っ直ぐに見た。
夕日に照らされた顔。
びくり、とする。
え……これって。
もしかして…………。
……告白、とかなんじゃ……。
そんな日が来ることを、まったく考慮してなかったわけじゃない。
好きなら。
誰かの事を好きなら。
そんな日も、やっぱりあるのだ。
答えはもう決まっている。
断る。
それしかない。
だって、男同士だし。
男同士で付き合うなんて……。
けれど、この礼央の眼差しを見ていると、なんて言えばいいのか、わからなくなる。
心臓が、キュッとする。
「その時から、ずっとみかみくんを見てたんだ」
「俺の……ことを……?」
◇◇◇◇◇
トンカツ1枚とかそんなレベルじゃじゃなかったんだろうなと思います。
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