90 夕陽の中で
春が始まる頃になれば、礼央の誕生日がやって来る。
亮太は、礼央への誕生日プレゼントを買う為に、街を歩いていた。
誕生日、もらっちゃったし、何かお返し……。
ふむ……と悩む。
いつもならCDにするんだけど。れおくん、CDプレーヤーとか持ってなさそうだからなぁ。
そんな事を考えながら、結局CDショップを覗く。
れおくんに合う音楽ってどんなのだろう……。
ゲームセンターは似合うけど、騒がしい音楽が似合うってタイプじゃないよな。
ノリのいい曲よりは、静かに聴ける曲……。
洋楽は好きかな?
英語なんかの曲で、勉強しながらでも聴けるような……。
あ、これなんかどうかな。
1枚似合いそうなのがあれば、また1枚、更に1枚と聴いて欲しいCDや自分が気に入っているCDまで出てきて、結局、何枚ものCDから1枚を選ぶ事になった。
……うん、CDプレーヤーなら貸せばいいし。
最終的に、CDを1枚選ぶ。
あまり重いものにしたくはないので、ギフト用の包みは無しで、そのまま鞄に放り込んだ。
そして、礼央の誕生日の放課後。
図書委員の仕事があるというので、亮太は教室で待つことにした。
一人の教室。
窓に近い場所に席があるので、ゆるゆると夕陽が差す。
机の上に置いたCDに、光が反射した。
れおくんは、喜んでくれるかな。
どんな顔するだろう。
誕生日は普通に聞いてしまったので、もしかしたら期待してたりして。
喜んでくれるといいけど。
眼鏡の奥のあの瞳が、輝くところが見たいと思う。
1時間ほど待って、ガラ、と教室の扉が開く。
「あ」
振り返ると、礼央が息を弾ませてこちらを見ていた。
「ほんとに……っ、待っててくれるなんて……っ」
亮太がそれを見て、「ははっ」と笑う。
「いいって。俺が待つって言ったんだから」
「そうだけど……」
そんな風に言っている割には、礼央の顔はなんだか嬉しそうだ。
そんな顔が見れるなら、少し待つくらい、なんて事ないんだけど。
「大丈夫だよ。宿題して待ってたから」
そう言うと、礼央が改めてほっとしたように笑顔を見せる。
「ありがとう」
礼央が、席に近づいて来るのを、じっと見つめた。
「あのさ、」
「え……?」
「これ」
と言って、CDを渡す。
なんだろ、改めて渡すのって、なんか緊張する。
CDを受け取った礼央は、キョトンとしていた。
「誕生日、プレゼント」
「あ……」
……なんだ、これ。思ったより、顔見れないな……。
そんな事を思いながら、恐る恐る見上げた礼央は、思いの外ぼんやりとしていた。
「…………れおくん?」
「あ、あの……」
声をかけると、戸惑いながらも礼央が返事をする。
腕で、顔を隠そうとする。
変わらない、照れた時の仕草。
「ありがとう…………。嬉しくて」
火照った頬に。
こちらを見ない瞳。
そんな顔されたら、こっちまで照れてしまう。
「おおげさ」
笑おうとしたけれど、なんでか思ったより、笑い飛ばす事が出来なかった。
◇◇◇◇◇
あと10話くらいでこの物語を終わりにしたいと思います。
最後まで応援よろしくね!
次回、ここから続きます。
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