87 夜更かしは向いてない(3)
右手が熱い。
ぎゅっと掴んだ礼央の手は、されるがままに繋がれていた。
これは、はぐれない為だから。
階段を登り切るまでのことだから。
だって、危なかったから。
寒い外を歩いていたにしては、温かな手のひらの感触。
いや、俺の手が冷たいのかな。
熱い。
なんか、顔が熱くて。
マフラーが熱くて。
汗をかきそうだ。
けど、どれだけ熱いからといって、この手を離すつもりにはなれない。
なんか、おかしい。
俺、ちょっと変かも。
腕を引いて歩くのは初めてじゃない。
あの雨の日だって、礼央を引いて歩いた。
でも、これはあれとは違う。
あの時は、こんなに熱くなかった。
あと、5段。
4段。
3段。
人の波と共に、ゆるゆると、階段を登る。
2段。
まだ明け方前で空は真っ暗なのに、提灯の灯りで周りは思ったよりも明るかった。
1段。
手を離そうとしたところで、ぐっと、礼央が手に力を入れた。
もっと、手を繋いでいたいみたいに。
その手のひらに。
指の感触に。
ビクリとする。
右腕の後ろ辺りに、礼央の居る感触がある。
人の波はまだ遠く続いている。
まだ繋いでたって、きっと……。
そこでケントがくるりと後ろを振り返ったものだから。
二人して、申し合わせたように、パッとその手を離した。
「あれ?れおくんは?」
見られてない見られてない見られてない見られてない!!
「大丈夫…………。俺の後ろにいるよ」
そう言うと、ひょっこりと礼央が亮太の後ろから顔を出した。
「おう。思ったより混んでるからさ。はぐれてもそのまま階段降りた先の、向こうの自販機のとこで待ち合わせな」
「あ、うん」
離れた手。
これ以上わざわざ繋ぐわけもなくて、なんだか手持ち無沙汰になった。
隣を歩く礼央と、
「何お願いすんの」
とか、
「去年は受験ばっかだったからな」
とか、ちょっとした雑談をして。
そんな人混みの中で。
ふと、亮太の右手に礼央の指がぶつかる。
「……っ」
二人して一瞬黙り、沈黙が降りる。
けど、また何もなかったみたいにちょっとした雑談なんかしてみて。
だって、変な意味で繋いだんじゃないから。
もう、手を繋ぐわけなんてないから。
そのまま、亮太と礼央は、隣同士でお参りをした。
お、落ち着きますように。俺が。
なんて、結局、動揺が露わになったままのお願いなんだかなんなんだかわからない事を神様にお願いして。
そのあと、なんとか『今年も健康に』なんていう雑だけれど、まあ鉄板なお願い事もして、その場を離れた。
それからは、サクが目印になったため、結局、探す必要も待ち合わせする必要もなく、4人で合流した。
「なんかめちゃ混んでたな」
「俺、すっげぇ沢山願い事したし。来年くらいには、俺が世界征服してるかも」
「はっはー、言ったら叶わないんだぞ」
サクとケントの、漫才みたいな会話を聞きながら、ジュースを飲みつつ、また亮太の家へ向かって歩いた。
朝日が照らし始めた明け方。
礼央の横顔を盗み見る。
……こいつは何お願いしたのかな。
俺のこと……?
いやいや、それは流石にちょっと自惚れすぎかも。
右手のあの感触を、確認するように思い出す。
家や電柱や標識や人が、段々とオレンジ色に輝き始めた。
◇◇◇◇◇
みかみくんもなんだかんだでイチャイチャしたいのでは……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます