86 夜更かしは向いてない(2)
深夜、家を出る。
とはいえ、元旦の外は、普段の深夜とは違う。
誰もいない悲しい場所ではない。
暗い中を沢山の人が往来する、少し異世界を感じるような場所だ。
沢山の話し声が聞こえる。
知り合いの顔も見える。
みんなが眠そうだったり、逆に異様に元気だったり、このまま何処か、少しズレた世界へ誘われても、誰も気がつかないんじゃないかと思えた。
ケントとサクは相変わらず元気で、先にキャッキャと歩いて行く。
それを力無く追うように、亮太と礼央は二人で歩いた。
寒いのは嫌なので、亮太はモコモコのダウンジャケットに、マフラーといった格好だ。
礼央は、相変わらずの黒のコートに、これでもかとマフラーを巻いて、埋もれてしまっている。マフラーから眼鏡が生えていて、その上にふわふわの黒髪が乗っているという状況だ。
かろうじて見える礼央の顔はまだ眠そうで、こんな時間に起きていたことなんて無いんじゃないかと思わせた。
「れおくん、まだ眠そー」
「こんな時間に出掛けること自体、間違ってるんだよ」
まさにそう言いそうだと思っていた顔からそのまんまの台詞。
余りにも予想通り過ぎて、「ふふっ」と笑う。
「けど、俺はちょっとたのしいな。夜中友達と出掛けるなんて、初めてだし」
「ああ」
礼央が、今初めて気付いたとでもいうような返事をした。
「確かに。そうかも」
相変わらず、眠そうな顔。
ちょっと、かわいいと思う。
道は、次第に人で溢れてくる。
もうすぐ神社なのだ。
時間が時間なので、既に帰る人も多い。
赤い提灯の灯りで、辺りは明るく照らされていた。
「あの二人と友達でよかったな」
「本当だね」
二人が顔を上げる。
ケントは小さくて人混みの中では既に見えないのだけれど、サクは周りよりも頭ひとつ大きい分、目立つのだ。
それほど大きくはない神社の入り口で、どうやら配ってもらった甘酒を啜っているようだった。
「俺らも行こ」
真っ白な甘酒は、口に含むとほのかな甘味が広がる。
「あったかい」
礼央が、そう呟く。
思ったより、自分が冷えていた事に気付く。
温まりながら、目の前の階段を見上げた。
「けっこう混んでんな」
サクの声が、頭の上から降ってくる。
こういう時は、サクが思った以上に頼りになる。
人混みでここまで目印になってくれるとありがたい。それに、ケントの面倒も見てくれるし。
今度は、はぐれないように、4人揃って階段を登る。
目の前には、ちゃんとケントとサクがいる。
れおくんは、大丈夫かな。
あの寝ぼけた顔で、人混みなんて。
チラチラと見ながら、人混みの中、階段をゆっくりと登る。
ああ、ほら、やっぱり。
少し、フラついてるじゃん。
いくらなんでも、流石に落ちないとは思うけど。
そこで、二人の間を押し退けようとした誰かに押され、礼央がバランスを崩した。
あっ。
それは、条件反射、みたいなものだった。
咄嗟に、亮太が礼央の左手を掴む。
「え……っ」
礼央が、小さく動揺した声が聞こえた。
はぐれないようにだから。
はぐれないようにする為に、仕方なくだから。
礼央のマフラーに隠れた顔は、わかりやすく、嬉しそうに照れた。
違うから。
そんなんじゃないから。
そんな反応されたら、こっちだって意識し過ぎちゃうじゃんか。
◇◇◇◇◇
だんだんイチャイチャするようになってきましたね〜。
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