52 夏休みが終わるって?(2)
「れおくん」
「ん?」
座っていた亮太が立ち上がると、礼央が亮太を見上げた。
礼央は細い脚を投げ出して、ケント達の方を眺めていた。
「買い物行こ」
「うん」
パッと明るい顔になる。
その顔を見て、亮太は「ふっ」と笑った。
「俺らちょっとコンビニ行って来るわー」
声を掛けると、「お〜」というケントのすでに疲れの見える声が聞こえた。
体育館の外に出る。
もう8月も終わりだけれど、まだまだ太陽はジリジリと照りつけ、死ぬほど暑いのに変わりはない。
「暑いねー」
礼央が顔に手をかざす。
アスファルトの上を歩く。
ささやかな木陰さえも、なんだか恋しく思えるほどの暑さだ。
歩いて数分のコンビニに入る。
ぶわっと冷たい冷房の空気が覆いかぶさった。
「俺、アイス」
誰に言うともなく言うと、アイスの物色を始めた。
礼央も隣でアイスの冷凍庫の中を覗いている。
「あの二人には?」
「アイスでいいんじゃん?」
それぞれ棒アイスを1本ずつ選び、ついでにチョコのアイスとあずきのアイスを1本ずつ買った。
コンビニの前で、バリッと大きな音を立てて、アイスの袋を破る。
口に突っ込むと、チョコレートコーティングしてあるパリパリのチョコが口の中で溶けた。
礼央がソーダ味のアイスに齧り付く。
礼央の横顔を見る。
何か言う代わりに、
「冷たー」
と呟く。
体育館に戻ると、ケントの大きな声が響いた。
「さあ来い!」
「うおっしゃー!」
サクもこういうノリには喜んでついていく。
「カセドラルスパイラルショーット!!」
ケントの勢いのいい声とは裏腹に、ヒョロヒョロとシャトルが落ちていく。相手のコートに入るだけよく出来たというものだ。
「ファンタジスタディフュージョン……」
サクがラケットをかまえる。
「アターック!」
こっちもまた、その勢いのいい声とは裏腹に、拾い上げたシャトルはポーンと綺麗な弧を描いてケントのコートに落ちた。
「何してんの。アイス買って来た」
亮太が呆れた声を出すと、
「サンキュー」
とサクが笑った。
「じゃあ、そのアイスを賭けて勝負だ!」
ケントは勢いよくラケットを振り上げたけれど、
「溶けるぞ」
という亮太の声によって、アイスの元に飛んできた。
「うあー、生き返る」
座り込んでアイスを頬張るのはサクだった。
ちゃっちゃとアイスを食べ切ってしまったケントは、既にまたバドをやるつもりのようだ。
「じゃあ、僕と勝負しよう」
ラケットを握った礼央が、ケントに勝負を申し込む。異様に気合の入った宣戦布告だ。
「よっしゃあ、来い!」
そして、真剣勝負が始まった。
片やバド歴1週間。片やバド歴1時間の強者揃いだ。
「いくよ!」
立ち姿だけは強そうな礼央が叫ぶ。
「受けて立つ」
表情だけは強気なケントがニヤリと笑った。
ポーン、と礼央のサーブが弧を描いた。1週間練習しただけあって、コントロールはなかなか悪くない。
けれど、スマッシュが打てる程上手くもない。
結果的に、ちょっと下手な温泉卓球レベルのラリーが続き、最終的にケントがコートより外に飛ばして終わるような試合になった。
サクはサクで、自分の弟子達が試合をしているのを満足そうに応援した。
「いっけぇ!そこだー!今、必殺のー!」
サクの声を引き継いで、礼央がラケットを振りかぶる。
「音速スマーッシュ!」
「なんのー!」
ケントが威勢だけはよく、シャトルに向かって滑り込み、コートに落ちるシャトルを見送った。
最終的に、疲れたのか、ケントが床でゴロゴロする横で、亮太と礼央がバドで遊んで終わった。
サクはやっぱり、最後まで満足そうな顔をしていた。
◇◇◇◇◇
みかみくんはけっこう甘いもの好きですね。いつもコーヒー牛乳だし。チョコなんかも好き。
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