53 秋が来る予告(1)
久しぶりの学校は、かなりのざわつきを見せていた。
みんな、久しぶりに会う高揚感でいっぱいだった。
女子を中心に、そこここを、お土産の小さなお菓子が飛び交う。
「みかみくん」
顔を上げると、クラスの女子、森さんだった。
「あ、おはよう」
「おはよう。何人かで遊園地行ったのね。で、クラスのみんなにお土産」
そう言って、森さんは手に小さなキャラクターのついた小袋入りのクッキーを置いていく。
「……あ、ありがと」
……うん。みんな楽しそうだな。
コロコロとしたクッキーは、口に入れるとサクサクと音を立てた。
いつもの教室。けど、まだどこかフワフワとした、妙な感じだ。
けれど、そんな感慨に耽る時間もあっという間に過ぎ去る。
「さて、では早速、文化祭の出し物を決めたいと思います」
文化祭、かぁ。
「はーい!喫茶店は?」
「お化け屋敷!」
突然の話し合いだっていうのに、みんなやる気あるなぁ。
亮太は少しだけ他人事のようにその話し合いを聞いていた。
正直、これといってやりたいことなどない。何に決まっても、それなりに楽しめそうな気もするし。
「はい」
そこで、手を挙げたのが森さんだった。
「私は、演劇がやりたいです」
「あー、ひなた、演劇部だもんね」
「演劇は準備大変だけど、当日空いてる日は1日何もないんでしょ?」
当日1日何もない。
その言葉は、クラスメイト達の興味を引き立てたらしい。
「演劇、いいじゃん」
「何やる?」
と言うことで、多数決の結果、演劇にあっさりと決まった。
けど、そこからが大変だ。
演目を決めるのに、かなりの時間を要した。
「紫式部は!?」
「かっこいいかも」
「十二単大変すぎじゃない!?」
「はーい!私、不思議の国のアリスで舞台美術やりたいです!」
「英語劇にしない!?」
「ねえ、それって猫イケメンにしても大丈夫!?」
「劇っていったら、白雪姫だろ!?」
「もううちら高校生なんだから、ロミジュリはどうかな」
事態は平行線になった。
そして、段々と混迷を極めていった。
「じゃあさ、主役決めてから、似合うやつ選ぼっか」
「男女一人ずつ」
司会をやっている学級委員二人も、なんだか収拾の付け方が分からないようだった。
「やりたい人、挙手」
みんなが沈黙した中で、一人、森さんが手を挙げた。
「私、やります」
「いいじゃん演劇部」
「男子は?演劇部誰だっけ?」
「あ、俺。けど、俺、演出とか裏方に興味あって、役者じゃないから。違うやつにお願いしてくれる?裏方は俺が纏めるからさ」
「あー、そっかぁ」
男子の立候補は居ない。
学級委員が頭を抱え始めたところで、耳を疑うようなセリフが聞こえてきた。
「1学期の球技大会の放送部メンバーは?かなり良かったじゃん、あれ」
「ああ。みかみくんと……ケントか」
「でもさ、ケントだと森ちゃんのが背高くない?」
「いや、そんなわけ……」
とケントが言いかけたけれど、実際ケントはそれほど背が高くはない。
「じゃあ、みかみくんはどう?」
空耳だった。聞き間違いだった。
…………そうであって欲しかった。
周りのざわめきと共に、クラスみんなが、亮太に注目した。
◇◇◇◇◇
久しぶりの学校ですね!
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