50 夏休みってやつは(4)
学校に行くために、制服に着替える。
ただ、図書室に行くためだけに制服を着るのは面倒極まりないけれど、まあ、読書感想文は書かないといけないわけで。だったら、れおくんに助言をもらった方がいいに決まっているのだ。
その方がきっと、読書感想文も進むんじゃないかと思えた。
委員会の仕事でとはいえ、あれだけ図書室に篭っている奴だしな。
電車で二駅。
学校は、もっと人気が無いものかと思っていたけれど、部活や勉強に来る奴らも多く、意外と人を見かけた。
まばらだけれど、カフェテリアや自習室などにも人がいるようだ。
確かに、下手にカフェなんかに入るより、静かだし勉強しやすいよな。
図書室のガラスの扉を押すと、大きなカウンターが見えた。
ふいっと礼央が顔を上げる。
あ。
………………え。
隣にいるのは、例の佐々木さん、だよな。
佐々木さんは、ちらりとこちらを見て、また目を伏せた。
何か、本を読んでいるみたいだった。
なんで………………。
二人の耳には、イヤホンがはまっていた。
有線のイヤホンを、片耳ずつ。
…………え、何これ。
眼鏡越しに、礼央の瞳が見えた。
顔がいいだけに、視線を上げただけで絵になるんだ。
礼央は、静かにイヤホンを外して、テーブルの上に置いた。
佐々木さんには何も言わなかったし、佐々木さんも気にも止めていないみたいだった。
…………え、なんかお邪魔だった?
そう思ってから、その考えを否定する。
いや、学校の図書館で“お邪魔”ってなんだよ。そもそも、他にも人居るし。
けど、この感じ、いっつもイヤホン半分こしてるってこと、なのかな。
「おはよう」
カウンターから出てきた礼央が、いつも通り穏やかに挨拶する。
「……おはよ」
いつも通りなんだよなぁ。
見られて困る事してたって雰囲気でもないし。
え、何?そういう関係???どういう関係???
「課題図書のコーナーはあっち」
と早速案内してくれる。
課題図書と、それ以外の感想文にお薦めの本が何冊か並んでいる。
一緒に置いてある冊子は、1冊に1ページかけて書かれたあらすじやポイントが載っている。書く時にどう自分の経験と絡めればいいのかまで載っていた。
本なんて読まなくても書けそうだ。
それはともかく。
やはり亮太は礼央と佐々木さんとの事が気になって仕方がなかった。
聞いても、いいかな。
そうだよな。
もし、俺の事が勘違いなんだとしたら、これ以上変な苦労する事も、無くなるわけだし。
「あのさ、」
コソコソと、内緒話をするように、口元に手を当ててコソコソと喋った。
実際、内緒話なのだ。佐々木さんに聞かれるわけにはいかないんだから。
「れおくん、って、佐々木さんと……付き合ってたりするの?」
「…………」
耳を寄せて来た礼央が、苦い顔をした。
「………………なんで?」
「…………え」
怒ってるみたいだった。
「あ、さっき、一緒にイヤホン着けてたから……」
「…………そんなの、ただ仲がいいだけで、絶対違うから」
「そっかぁ」
ちょっと勘違いしただけで、そこまで怒ることなくない?
そりゃあ、れおくんはけっこう仲良い女子居るみたいだし、女子との距離感が俺と違うのかもしれないけど。そんなに、恋愛関連の話、NGだったのかな。
礼央の様子を窺う。
礼央は、まだ怒ったまま、目も合わせようともしなかった。
むしろ、何かちょっと、泣きそうな顔を見ると……。
あ……。
もしかして。
俺が、そういう話、したから、だったりして。
「…………」
それは、ちょっと……自惚れが過ぎる……かな…………。
◇◇◇◇◇
そんなわけはないか〜って思いつつ、つい照れちゃったりして。
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