40 緊張なんて忘れてしまえ(3)

「シューーーーーーーート!」


 2組のシュートが決まる。


 ケントの声に合わせて、わっと勝利を祝う言葉が、観客席を飛び交う。


 なんだ、これ……。


 こんな……高揚感…………。


 そっか。


 みんなを楽しませられなかったらどうしようって、ずっと思ってたけど……そうじゃないな。

 みんなと楽しむんだ。

 俺が。


 礼央と二人、舞台でゲームをしたことを思い出す。


 あれも楽しかった。


 まず自分が楽しまないと、みんなが楽しめない。


 俺は、楽しんでいいんだ。

 そう、普通で。


「2年2組に2ポイントー!これは幸先いいゾロ目ですね」

「そうですね。1組には空気に呑まれず頑張ってほしいところです」


「さて、またボールを取ったのは、1組、パティシエ田中だー!」


 ケントが言うと、その声に合わせて「きゃー」という黄色い声援が上がった。

 田中先輩にはもうファンがついたらしい。


「またもや鋭いパス!的確にパスで繋いでいきますが、ここで!」

「また新田先輩ですね」

「巨体サックス!巨体サックスが来ました!」

「ちょ……っ、ケント、それもう名前入ってない」


 ツッコむと、観客席から笑いが起こった。


「新田先輩だから。俺らシメられる前に名前入れて、名前」

「おう!」

 いい返事だったにも関わらず、

「巨体サックス先輩!巨体サックス先輩が取っ……」

「先輩付ければいいってもんじゃないぞ」


 再度ツッコんで笑いが起こったところで。


「…………っ!」


 ケントが、息を呑む。


「!!」


 目の前で、新田先輩の巨体から、ボールを叩き落とす姿が見えた。


「1組、ボール取ったああああああ!あれは、名塚先輩だ!」

「バド部の名塚先輩です」


 そこからは、まるで時間が止まったみたいだった。


 コートの丁度真ん中の辺り。

 キュッとしゃがみ込んだ名塚先輩は、そのままその場で飛び上がって、ボールを投げた。


 ザンッ!


 まるでそれ以外の軌道なんて無いというように、弧を描いたボールは、ゴールの中へ落ちた。


「きゃああああああああああ」


 周りの歓声でハッとしたケントが、観客と一緒になって叫ぶ。


「すっげえええええええええ!」


 亮太も、解説として実況を取り戻さないとなんて思うこともなく、


「うわああああああああああ」


 すっかり夢中になって叫んでいた。


 二人同時にハッとする。

 最初に声を出したのはケントだった。

「3ポイントシュート決まったぁぁぁぁぁ!」


「今のは驚きましたね!!観客席もすごい歓声でした!!」

「まるで絵画を見ているようでした!世界がすろぉぉぉぉぉもーしょん!!!!」

「バド部の1年達からも一目置かれているという話でした。なんでもシャトルが上からビシィっと降って来るとか」


 そして最後にケントがため息を吐くような声で、


「ほんと、すげぇ……」


 と感嘆の声を上げた。



◇◇◇◇◇



バド部の名塚先輩……イケメンに違いない。

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