41 緊張なんて忘れてしまえ(4)
そんな風に、試合は進んだ。
何を言えばいいのかわからなくなってしまう事も多かったけれど、その時は、昔馴染みのフィーリングで大抵ケントがなんとかしたし、目の前の状況は刻一刻と変化していくため、解説が止まったことなど誰も気づかなかったみたいにみんなは試合に集中していた。
そして話題は次へ。その次へと変わった。
聞きづらいところも、きっとたくさんあっただろうし、半分くらいは思ったような解説なんてできなくて、寧ろケントとのいつもの会話が多くなった。
段々と慣れていった実況席は、それでも落ち着かない場所に変わりはなく、いつだって選手一覧と睨めっこで時間を凌いだ。
「1組逃げ切ったー!決勝進出は1組!!」
ケントが叫んだところで、体育館は歓声に包まれた。
レクリエーションが目的であるからか、負けた組も他の組を応援することが多いようだった。
「決勝は午後、1年対2年で勝った方が、3年との対戦権利を得ることが出来ます」
「優勝目指して頑張ってください!」
ざわざわと、観客達が立ち上がる。
マイクのスイッチを切る。
お……。
お……。
「終わったーーーーーーーーーー!」
「おつかれ!りょーくん」
ケントと拳を突き合わせる。
「うまく出来てたかな」
「カンペキ」
すぐそばで、礼央とサクもこちらに笑顔を向けていた。
それに返事をするように、亮太も満面の笑みを浮かべた。
テーブルの上に置いてあった水のペットボトルを最後まで飲み干す。
いつも通り、購買で昼食を確保して、屋上へ向かった。
4人一緒に歩く。
正面から、放送部部長の長岡さんが小走りに歩いてくるのが見えた。
「お疲れ様です!」
亮太とケント、二人で声を掛ける。
「あ、お疲れ〜!」
忙しそうな割には、のんびりとした声が返って来た。
特別な問題は発生してないということだろう。
「良かったよ!二人とも〜!」
「ありがとうございます!」
「あっ、ありがとうございます!!!!」
亮太の“ありがとうございます”は、異様に力が入ってしまった。
それからすぐ、2年1組のバスケメンバーにも出くわす。
パティシエ田中先輩に、バド部の名塚先輩。それに、いつも陽気な藤堂先輩、犬みたいな顔の平田先輩、書道部の加茂川先輩だ。
「お」
「つ」
「か」
「れ」
「さ〜ん」
一人ずつ、ケントと亮太の肩や頭に、ポンポンとタッチしていく。
「すっげぇ良かったよ」
去り際に、手を振ってくれたのはバド部の名塚先輩だった。
それは、ちょっとした一言だったけれど。
こんな風に……褒められる事もあるんだ。
人前に出る事で。
なんだろう。
お腹の辺りが、嬉しくてくすぐったい。
いつの間にか、亮太の隣には礼央が居た。
ケントはサクと名塚先輩の話で盛り上がっている。
「ほんと、よかったよ」
「そ、か」
あれほど手伝ってもらったれおくんに言われ、少し気恥ずかしくなる。
「れおくんのおかげだよ。ありがとう」
嬉しいのか、自分でもわからなかった。
混乱も、高揚も、まだ身体の中を駆け巡っている。
そのせいか、少しだけ泣きそうになった。
◇◇◇◇◇
みかみくん編はここまでにしたいと思います。次回から新展開!
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