39 緊張なんて忘れてしまえ(2)

 亮太と礼央の二人のペアは、結局、予選落ちだった。


 体育館の床で座り、「あ〜〜〜〜〜」と天井を仰ぐ。

 半分以下になったペットボトルの水は、まだ冷たい。

 そこへ自分の卓球を終えたケントが、

「お疲れ〜。体育館行こうぜ」

 と来たので、気を取り直す事にする。


 それから30分後。


 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。


 亮太は、コートの脇に設置されている実況席に座っていた。


 うわあああああああああああああ。


 時間と共に、大きくなるざわつき。

 1年の試合はもうどこも終わり、2年生達が試合の準備を始めている。

 バスケは特に人気があるようで、観客席もいっぱいだ。


 なんだこれえええええええええええ。


 亮太は、固まっていた。


「しゅ、主役はバスケの選手であって、俺達じゃないから」


 言うと、隣のケントが真面目な顔をした。


「そうだ。よくわかってるじゃんか。その弱々な声じゃなきゃな」


 揶揄う時の声。

 実際、亮太の声は、震えて小さくなってしまっていた。


 ケントが、隣から耳打ちするように声を掛ける。

「全員じゃがいもじゃがいもじゃがいもじゃがいも……」


「じゃ、じゃがいもじゃがいもじゃがいもじゃがいも……」

 つられて唱えてみる。


 その頭を寄せ合う二人の姿を見て、近くに座っている礼央が真顔になった。




 チャイムが鳴り、試合の時間が来る。


 さあ、実況の始まりだ。


「皆さんこんにちは!2年生バスケ始まりました。放送は1年、実況の島崎と、」

「解説の三上でお送りしていきます」


 ケントに続いて、スムーズに挨拶ができた。


 いける。


 続けて、バスケチームのメンバーが5人ずつ、目の前に並ぶのを見ながら、解説を始める。


「赤チーム2年1組と黄チーム2年2組の対戦です。試合時間は10分10分のショートバージョン。インターバルは2分です」


 ピー……!


 笛の音が耳に響く。


「さあ、始まったー!」

 ケントの声が聞こえた。


 ダンッと目の前でボールの取り合いが始まる。


 すごい、迫力だ。


「1組田中先輩取ったー!すかさずパス!これは鋭い的確なパスですね」

「そうですね、インタビューでは、腕の筋肉とコントロールには自信があると言っていましたからね」

「田中先輩は運動系なんでしたっけ?」

「田中先輩は、次期部長とも噂されている料理部のエースです!」

「料理部!!」

「なんでも、パティシエになるには、腕の力が必要だとか」

「流石未来のパティシエ!!あのサラサラヘアーは伊達じゃない!!おっと、ここで、1組の流れが2組の巨体に止められたー!」


 目の前では、2組の縦にも横にも大きな新田先輩が1組のメンバーからボールを取り上げたところだった。

 ケントの言葉に呼応するように、観客達が、「おぉ〜」とざわめく。


「あれは、新田先輩。身長は学年の中でも一番なんじゃないかと噂です。部活は吹奏楽部。担当楽器はサックスです。体力には自信ありだそうです」

「ボールが2組ゴールへ……!いったぁぁぁぁぁ!!」


 観客達が歓声をあげる。

「わあああああああああ!」


 すごい……。みんなが、楽しんでくれてるのが分かる……!!



◇◇◇◇◇



そんなわけで、島崎賢人くんです。いい名前だね。

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