38 緊張なんて忘れてしまえ(1)

 球技大会当日は暑いくらいの晴れだった。


「よっしゃー!」

 朝早くから、学校の第二体育館では、1年生のバドミントンの試合が行われていた。


 それぞれクラスで3つのペアを出し、ダブルスで戦う。

 亮太と礼央のペアは、二人でFPSに明け暮れたからか、サクがなかなかのスパルタぶりを見せたからか、初戦で3点差で勝つという、この二人にしてはかなりいいスタートを切った。


「流石俺の弟子!」

 いつもは冷めた顔をしているサクも、運動の事となると、とりわけバドミントンの事となると熱が入るようだった。


「先週1週間、かなり鍛えられたからな」

 亮太が汗を拭きながら、呆れたように言う。


 練習に付き合ってほしいと言うと、サクは快諾してくれた。

 その後、球技大会に向けての1週間、バド部の横で毎日2時間の練習をさせてもらったのだ。

 この1週間は、球技大会の為に部活休む奴も多いし、臨時で入ってくる奴も多いからって、オッケー貰ったけど。やっぱ流石に一番練習したんじゃないかって感じがした。


 とはいえ。


 亮太とサクが、チラリと礼央の方を見る。

 明らかに、息が上がっていた。

「流石に1週間じゃ、体力増強までは無理だったな」

「俺も、かなりヤバいしなぁ」


 亮太と、礼央の視線が合う。

「番狂わせさせられただけでも、俺らにしちゃ上出来だよ」

 亮太が言うと、礼央が困ったように笑った。




 そしてその予想は、外れようがなかった。


「おおっと、三上高坂ペア、シャトルを落とした!高坂礼央の汗が光る!野球部の二人には体力で負けてしまうのかー!」


 そもそも、運動とは無縁の二人なのだから、どれだけチームワークと技術力が上がっても、体力が最後まで保てないのはわかり切った事のはずだった。


「押忍!」

「押忍!」

 野球部二人の掛け声に、観客までもが呼応する。きっと、クラスの掛け声なんだろう。


 同点で粘ったものの、結局1点差で負けてしまう。


 試合が終わると同時に、亮太と礼央は体育館の床に突っ伏した。


「れおくん、生きてる〜……?」

 息も絶え絶えな声で近くに転がっているはずの礼央に問うと、

「なんとか……」

 という弱々しい声が返って来た。


 そこへ、亮太の頬に、ヒヤッとした物が触れた。

「うっわ!冷た!」

 飛び起きると、そこに立っていたのはサクだった。


「みかみくん、どうし……」

 と言いかけた礼央の頬にも、同じものが。

「うっわああああああ!」


 見ると、水のペットボトルだった。自販機で買ったばかりのようで、火照った身体には氷の様に冷たい。

「お疲れ、二人とも」


「ありがと」

 二人して、ゴキュゴキュと水を喉に流し込む。


「すごい、楽しかったよ」

 亮太がサクを見上げる。

「楽しかった。上手くなったらもっと、別の世界が見えそうだった」

 礼央が笑った。

 礼央の笑いはどちらかというと、マッドサイエンティストみたいな笑いを含んでいた。ゲーマー魂に火でもついたんだろうか。


 そんな二人を見て、サクががははと笑う。

「だろう!?俺も二人とバドするの、すっげぇ楽しかった」



◇◇◇◇◇



サクくんは、大人しそうな外見ですが、笑い声はでかいです。

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