22 君の声が聞きたい(2)

 いつもの帰り道。

 亮太はいつもの顔で、いつも通り礼央と公園を通って帰る。


 空は晴れていて、むしろ暑いくらいだ。

 公園内の歩道脇に植わっている木々の下を歩くのが、心地良いくらいに。


 その日も、急ぐわけでもなく、ゆっくりするでもなく、のんびりと二人のペースで歩く。


 大きな明るい池のそばを通りかかったところで、礼央が口を開いた。


「何かあった?」


「…………」

 ふいっと礼央の方を見る。


 心配かけたかな。


 礼央は、こちらを見てはいなかった。

 なんでもないのを装っているのがバレバレだ。

 何も言わなくてもいいように。

 質問した言葉を、聞こえなかったフリで通せるように。


 ここで何も言わないのは簡単だった。


 自分の事に踏み込まれるのも、さほど好きなことじゃなかった。


 けど、ちょっと待て。


 こいつは俺の事、好きなんだよな。


 だとしたら、弱音なんか吐いたら、呆れて、そんな好意なんて、持たなくなるんじゃないかな。

 そんな、男同士の歪んだ感情なんて。

 そんな、出会って間もないうちに芽生えた、上っ面しか見てないような感情なんて。


 そう、これは、嫌われるための一つの手段だ。


 周りに人がいないのを確認して、亮太は言葉を紡ぐ。


「俺さ、ケントと、放送部入っててさ」


 あ、思ったよりも、弱気な声になった。


 言葉にした途端、礼央の顔を見る。


 晴れた空の下で、陽光に照らされた黒髪。

 少し俯いた横顔。

 地面が見えているのではないかと思われる伏せられた睫毛。

 静かに、耳を済ませているのが分かる。


 ああ、なんだ、俺。


 れおくんが、どんな顔して聞くのか、不安になっちゃってるじゃん。

 そして、静かに耳を済ませていることに、ほっとしてる。


 そう、こいつは俺の事が好きだから。


 好きなら。


 本当に俺の事好きなら、聞いてくれるんじゃないかって思ったんだ。


 考えていたより、ずっと吐き出したかったみたいだ。


 嫌われるためだなんて嘘ばっか。

 考えていたより、ずっと聞いてほしかったんじゃん。


「今度の球技大会で、放送部の活動、参加してくれって言われたんだけど。でもちょっと、俺、人前で喋るの苦手でさ。昔さ、ちょっとあって」


 話し続けていても、礼央の表情は変わることはなかった。


「あ」


 礼央の、小さく上げた声で、顔を上げる。


「あそこ、座ろっか」


 礼央が示した方を見ると、池の畔に、小さなベンチがあるのが見えた。

 丁度よく木の下で、陽も遮られそうだし、歩道からも見づらく、あまり聞かれたくない話をするには、丁度良さそうな場所だった。


 ゆっくり、聞いてくれるという合図のようだった。


「うん」

 返事は、自分でも思った以上に安心した声になった。


 地面に、木漏れ陽が揺らぐのが見えた。



◇◇◇◇◇



ケントくんの出番は多いですが、ちゃんとこの二人の話です!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る