21 君の声が聞きたい(1)

 6月に差し掛かった朝の事だった。


「あ、話、あんだけど」

 と、言いづらそうにケントが話しかけてくる。


 あ。


 スッと血の気が引く音がした。


 小学校からずっと一緒にいるせいで、ケントがどういう時にこんな顔をするのか、知っている。

『俺のクラスのさ、湯川さんいるじゃん?なんか……、いじめ?っていうか、わかんないんだけど。できないって言ってたのに、今度の当番押し付けられちゃったみたいで、さ』


 今日と同じ様な顔をして、ケントがそんな事を言ったのは、確か小学5年生あたりだったと思う。


 ケントがこんな顔をする時は、誰かを助けたい時。誰かのフォローをしたい時。誰かを気遣っている時。


 自分の為には、そんな顔しないくせに。


 今回気遣っているのは、そう、きっと俺の事だ。




 そんなわけで、昼食は礼央とサクと離れて、ケントと二人で食べた。

 まあ、いつもの非常階段に、先に二人で行ったってだけだ。


 いつもの惣菜パンをかじる。

 今日はオーソドックスに焼きそばパンにした。

 いつも通り、パックのコーヒー牛乳をすする。

 いつもの味。


 先に口を開いたのは、ケントの方だった。

「お願いがあるんだけどさ、部活に参加して欲しくて」


 あくまで、軽い感じだった。

 けれど、それは軽い話だと思っての言葉ではない。軽く話したほうが、亮太が気負わないと思ったからだ。


「…………参加って?」

 亮太の方も、なんでもないように返事をする。


「今度さ、球技大会あるじゃん?それの進行することになって。結構、表でも話すんだけど」


「ああ……うん」


 脳が思考を停止して、なんだか曖昧な返事になってしまう。


 結局、亮太は、参加するかどうかの返事を待ってもらうことにした。


 空を見上げると、大きな雲が流れていくところだった。


 それから、亮太は、ただ無心に、ずびずびとパックのコーヒー牛乳をすすった。

 礼央とサクは、お昼休みの最後まで非常階段には来なかった。きっと、気を使ったんだろう。

 そんなのいいのに。


 けど、確かに、そんなのいいのにって思うのだけれど、来なくて有り難いとも思ってしまう。


 気晴らしに二人と話したいのも本当だし、その方が頭の中が整理できただろうということも本当だ。

 けど、今の顔を見られなくてよかったと思ったのも本当だった。

 きっと、今の俺は、生気のない顔をしている。


 ケントも何だか、いつもの推しを眺める気分でもないらしく、ぼんやりと手持ち無沙汰な雰囲気で階段に座っていた。

 緑茶のペットボトルを手にぶら下げて。

 何かを待つように。

 きっと、あの二人を待っていたんだと思う。



◇◇◇◇◇



新展開〜ということで。ここからしばらくは、みかみくん編として展開したいと思います。

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