みにくいアヒル
※この作品には過激な暴力表現が含まれています。
『今日のゲストは教育研究家。そして2人のお子さんを全員東大に合格させた“
俺、
『やはり子どもを東大生に育てるにはぁ〜、親が子どものことを信じて、一緒に頑張ろうねって気持ちが大切なんですね〜』
TVの中の母は、いけしゃあしゃあと能書きを垂れながら子どもが小さい頃の写真や、赤門の前で撮った写真を紹介する。だが、そこには俺が写っているものは一枚もない。写っている子どもは、5つ上の兄、亮平と3つ上の姉、愛だ
それは、東大はおろか、高校すら卒業していないヒキニートな俺は、この
俺は、3人兄弟の末っ子として生まれた。父親は大手商社勤務のサラリーマンで、母は結婚してからは、今時珍しい専業主婦になった
元々見栄っ張りな性格で、学歴にコンプレックスを抱えた母は、ママ友の勧めで行った教育セミナーに影響され、『東大生の母』の肩書に憧れるようになった。そこからある日突然、俺たち兄弟に過度な教育を施し始めたのだ
「はい、これ。デデニーのハウスイングリッシュ。今日からこれで遊びなさい。いつまでもアルトラマンやミニモン、それに、こんなくだらないおもちゃで遊んでると、お馬鹿な大人になっちゃうわよ」
そう言って祖父母に買ってもらった、ぬいぐるみやおもちゃはことごとく捨てられた。そのかわり、母がは、なんの面白みのない知育玩具や、教育教材ばかりを俺たちに買い与えた
俺たち兄弟が大いに抵抗しようものなら、その度に母は、激しい
「あんたたちが、立派な大人になるようにお母さん頑張ってるのに!あー知らない!お馬鹿な子はもう、お母さんの子どもじゃないから。勝手にしなさい!」
俺はそんな母が大嫌いだったが、母が思った通りのことをやると、まるで別人のように褒めてくれた。それはとても、嬉しかったのを覚えている
いつしか俺は、兄貴や姉貴たちと同じように、『母の笑顔が見たい、もっと褒めてもらいたい』と思いながら、機嫌を損ねぬよう、注意を払うようになっていった
俺が小学校2年生のころ、両親は離婚。ギリギリ学区内にある母の実家に引っ越してから、母による恐怖政治は、さらにエスカレートした。祖父母の金で、行きたくもない塾に行かされ、学校以外の場所で友達と遊ぶことを許してもらえなかった
「まぁ!お兄ちゃんもお姉ちゃんも全教科100点!頑張ったわねぇ〜、お母さん嬉しいわ〜それに比べて......」
テストで90点以上取らなけりゃ、ヒステリックに怒鳴られ、夕飯を抜かれたこともあった。ゲームやアニメ、漫画は禁止。テレビもニュース番組のみ。成績の良い兄貴や姉貴たちとは違い、“出来損ない”の俺は部活動すら許されず、ひたすら学校と塾、家の往復だった
「千尋!あんた、いい加減にしなさい!悠斗は悠斗なんだから、亮平や愛と比べることないじゃない!」
一度、祖父母が見かねて母を叱った。すると母は激しく癇癪をおこした
「うるさい!私はねぇ!悠斗の将来ためを思って厳しくやってるの!亮平や愛は、“できる子”だから、あまり言わないだけなの!親は私よ!お父さんもお母さんも黙ってて!」
ひどい時には、自殺をほのめかしたり、2〜3日行方をくらましたりとしてるうちに、祖父母もまた、母の機嫌を損ねぬように気を使うようになってしまった
その厳しい教育の結果、兄と姉は無事に東大の文三に合格し、母の期待に答えた。“2匹のガチョウが金のタマゴを産み”、母は遂に『東大生の母』の称号を得たのだ
すると母は、専業主婦の傍ら、オンラインセミナーや講演会、執筆活動に軸足を移す
自身の傷である、高卒派遣OLの部分を恥も知らずにさらけ出し、『そんな私が、子ども2人を東大に行かせた』と自分自身を大いに宣伝し続けた。そのうち、あやかりたい母親たちの間で口コミが広がり、ついにメディアにまで取り上げられるようになった
実家から出て、高層マンションの一室を買い、住み始めたのも丁度この頃だった
だが、“出来の悪い”俺は、そうは行かなかった。兄や姉と同じ、東大合格率の高さで有名な私立高校に入学はできたものの、そこからは新たな地獄が待っていた。そこは俺の苦労なぞ、鼻で笑うような“勉強のバケモノ”だらけの魔郷だった。幾ら勉強したって、彼ららの足元にも及ばない。
下から数えた方が早い成績と、ついていけない授業、睡眠不足......次第に心が折れ、高2の1学期末のテストが終わった後、俺は、家の外から出られなくなった
最初の頃は、いつものように激しく癇癪をおこして、俺を従わせようとしたが、次第に諦めたのか、接してくれることはなくった。幸い、飯や住環境は提供してくれているので、俺はこうして生きている
皮肉なことに、俺には勉強の才能はなかったが、引きこもりの才能はあったようだ。最初の頃は自殺を考えたほどだったが、引きこもって1年目で、もう、どうでもよくなってきた
『白鳥にもなれない、みにくいアヒル』。こうして俺は、“いないもの”として扱われている、“生きる肉人形”のような生活をもう8年も続けているのだった
「ただいま......はぁ〜、つかれたわぁ〜」
ついウトウトして、ソファーで寝転んでいると、母が帰ってきた。朝の情報番組の出演のため、早起きしたせいか、バッチリメイクした顔の奥に、疲れが滲み出ている
そんな母は、俺の姿をみるなり、顔を真っ赤にして怒鳴りつけた
「何一丁前にソファーに寝転んでんの!この、恥晒し!もういいわ、限界。とっとと出ていって!あんたみたいな、東大どころか高校も卒業してない、“馬鹿な子ども”が1人いるってことが、世間にバレたら、私の肩書きが全て台無しになるのよ!そうなったら、責任とってくれるの?取れないなら、出ていけ!」
母は怒り狂って、罵詈雑言を浴びせながら手に持った高級ブランドの鞄で、俺を何回も殴打した
ついに俺の中で何かがキレた
「あああああああああ!!黙れぇーっ!黙れ、黙れ黙れぇえええっ!」
俺は、拳を思い切り母の顔面にぶち込んだ。鼻血を吹き出しながら倒れ込む母。その眼は、信じられないと言う目でこっちを見ている。その目がさらに癪に触ったので、俺は馬乗りになり、何度も何度も顔面に拳を叩き込む
「子どもはなぁ!テメェのアクセサリーじゃねぇんだよ!自分は大したことない、高卒ババアのくせに!兄ちゃんや姉ちゃんが、頭が良くて東大に行っただけで、教育の専門家みたいな態度で、オレを馬鹿にして!見下して!」
殴り慣れてないせいか、拳の先が皮が向けて血が滲んでも、不思議と痛くはなかった
「ひっ!......い、痛い!やめて!ごめんなさい!ごめんなさい!ゲフ!もう、ガッ!やめて!......ゴブ!やめてくらふぁい......ガフ!」
俺は、涙声になりながらも、その手を止めない
「返せよ!なぁ!お前が奪った俺の青春を!友達も!あの日捨てた大事なモノも全てを返せッ!」
......どれくらい殴りつけたか覚えてはいないが、ハッと我に返った時、母の顔は、元がわからないくらい腫れあがり見る影もない。そこには不細工顔の醜い肉人形が、口や鼻から血を流してピクピクと痙攣を起こしていた
「二度と俺に逆らうな......って臭っ!派手に漏らしやがって!クッセェなババア!◯すぞ!」
「わがぢまじだ、もうじまぜん......だかだぼう、なぐらだいで......おねがいじまず!」
俺はゆっくりとソファーに腰掛けて、ふぅと一息ついた。とても清々しい気持ちだった
支配からの解放。恐怖の対象であった母は今、ボロ雑巾のように、自身が垂れ流した、血と涙と糞尿にまみれ、床に這いつくばって、俺に許しを乞うている
しばらくすると、ババアが図々しくも、いびきをかいて眠りはじめた。あまりにもうるさかったので、一発顔面に蹴りを入れてから、キッチンのタオルを持ってきて口に噛ませたら、10分ほどで静かになった
側に転がった、ババアの鞄の中からスマホを取り出し、110を押す
『はい、埼玉県警の内藤です。事件ですか?事故ですか?」
警察署に電話が繋がると、俺は興奮に、手と声を震わせながら、静かに言った
「......母親を◯しました。すぐに来てください」
おわり
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