第9話 瓦礫と夜 *(和香)
「英っ?」
いきなり棒を、そして木から引っ張られた時はすごくびっくりしたけど。
今は彼の身の心配しかない。こんなのところで何かあっても、対処できそうにない。
落ちていく瞬間に気を失ったみたいだ。
「え・い!」
自分でも驚く慌てっぷり。
でもこれが本当の私なのかもしれないとも思う。
またあの力、ぽんって音で無事に地面に着ける現象が発動してくれたおかげで、怪我なくは着けた。
ほんとになんなんだろう…?
落ちてる最中はちゃんと重力がある感じだったのに。
「んんっ…ん…?」
「英!」
怯えるようにゆっくり目を開ける彼。
焦点がこっちに定まった。
よ、よかった!
たぶん、いや絶対さっきは無理してたんだろうな。
教えてくれれば、違う方法を考えたのに。
なんで隠したかったんだろう?
あの力がなければ大怪我だ。
安心と同時に、腹立ちが混じる。
「ねぇ英。木登りは苦手なんだね?」
つい心配の言葉の前に出てしまった。
「いや…その…」
また濁そうとする彼をわたしは強く見つめ返す。
ここで自分から言ってもらわないと、この後どうしたら良いのかも分からない。
「英、誰にも得意不得意があるんだよ。ちゃんと教えて。」
真剣に伝えたい気持ちを声に乗せる。
さっき私が棒で作った地面から登ったおかげで、あまり落下せずに済んだ。でも…、なんだか空が暗くなってきてる。
この空間も夜が存在するのかな…?
だとしたら不味いよ…。一夜過ごすとかできる?
沈黙を放った彼の答えを待つ間、なんとかどうしたら良いか考える。
んん、でも私の限度はわかっても、英のは教えてくれないとわからない。
言動で想像つける位、私が優秀なら良いのかもだけど…。
わからない以上、なんの作戦も立てられないよ!
「あの、さ…。ほんとにごめん…。」
体感数分経った後、帰ってきた返事はまるで的外れ。
「はぁ」
思わずため息こぼしちゃう…。そんな答え待ってないんだけど。
「…だから!英、何ができて何は苦手なのか教えてって言ってるの。木登りが得意じゃないなら、先に教えてくれれば良かった。そしたらあんな危なくならなかったよ。」
「ごめん…、わかったよ…」
そこから、英は呆れ笑いをこぼしながポツポツと話だした。
自分の思う自分は本当はどんななのか。
*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜
「英ー!大きいのお願いー」
「おうー」
いいながら落ちていた綿の実を運ぶ。
これの中身を敷いたら、寝れるんじゃないかって事になった。
英の話が終わった直後、辺りが急に暗くなってきたんだ。
そして雨まで降ってきた。
だから、降りるのは本当に大丈夫、と言う英を信じて地面を作れなかった方から木をつたって初めの位置に降りることにした。
そして、また上で地面のあった方の下に行けば、屋根になってて完璧!ではある。
それにしてもさっきの話、私は正直信じがたかったけど、ほんとに私が知ってた英とはまるで別人だった。
でも、それが本物の彼みたい。
繊細だし、運動も得意じゃなく、家では「真面目なお兄ちゃん」らしい。
いや全然想像つかなかったな〜。
あんないつもお調子者?を若干演じてたなんて。
私と似てる、とも思った。
なりたい自分になれていない。
だけど違うのは自然とそうなってる訳じゃない所。
英は、そのキャラを演じようと思って演じてるんだ。
面白い男子の方が友達できるだろうと思ったら、方向性を間違えたらしい。
うん、だいぶ間違ってはいる。
正直あの時はほんとに腹立ってたし。
のは一旦さておきとなり、今日はこのよくわからない空間でお泊まり!
準備の今の段階はちょっと楽しい。でも…。
ぜんっぜん嬉しくないよぉ…。
瓦礫の上で寝るのは痛すぎると判断。棘がある植物も混じってて、手をついただけで、痛かった。
寝るなんてもってのほか。地面に直接も考えたけど、喪が這ってる感じで、とても寝る気にはなれない。
今度は一緒に考えた挙句、下に落ちてた細長い実のようなのを破ると綿が出てくるのを発見。大量に落ちてるし、これをなんとかして集めていけばいけるのではとの結論になった。
まぁ現実的ではあると思うけど、なかなかの労働作業だ。
二人分の敷物の面積には結構いるんだな…!
一個一個、英が集めてきた実を割って開け、中の綿を揉み出す。それもすでに50個ほどやってきて、もう少しで一人分の面積が埋まりそうなくらいだ。
外で降ってるように見える雨は小雨になってきて、風が吹いてないからまだ作業がしやすい。
「よっしょ!」
どさどさとまた大量な綿の実が運ばれてくる。
うん…。気が遠くなりそう…。
「あ、ありがとう」
分担にしたからには頑張らないとなぁ。体力はないとかいいながら、力仕事は好きらしい。
「いや和香こそあんがと」
照れ臭そうに初めてお礼を言ってきた…。え?!
「えあうん?」
びっくりして手元に向けてた目線をもう一度上げると、もう英はあっちの方で拾い始めてた。
なぁんだ、英も素直じゃないのか。
思わず笑顔になってしまう、初めはなんで英と、なんでこんな目に?としか思ってなかったけど、これもお互いを知れるチャンスなのかもしれない。
夢じゃなければだけどね…。
ボールを取りに行った記憶がすごく前な気がしてきた。
そこからがもう夢なんじゃないかって思えてきてしまって。
朝本当は起きてなくて、ずっと夢なのかな…?
どっちにしろ嫌にリアルだし、とりあえずこの作業を完了させよ。
両手にいっぱい包み込んで運んできた英に、今度こそまた気が抜けそうになった。
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