第6話 崖のぼり *(英)



大発見かつ摩訶不思議!!さっきの棒、魔法の杖だったのか…?

いやでもこんな空間だしありえるな!

まさかの、押すと、杖の先があっている部分は盛り上がるとは。

めちゃくちゃ使えるじゃん!

捨ててなくてよかった〜。

あの時は和香に何してんのな目を向けられてたけど、どうだ。

少しはあの和香も俺のこと見直してくれるかなー。

って、何で俺見直してほしいんだろ…?

ああっもう、とりあえず!

「な、これで登れるだろ?」

まだ不思議そうに警戒した目で棒を見る彼女に畳み掛ける。

「登れる…?」

もっと怪訝な目で見られてたじろいだ。

あれ通じなかった⁈ ほら、これでちょっとずつ崖でも木でも凹凸作ればいけるくないと思ったんだけど!

「あっそういうこと!」

パァっと笑顔になる。

余程ここから出たいのか。

まあそれは俺も同じだけど。

「じゃあ崖か木どっちが行けるかな」

独り言を始める和香を横目に俺もみ比べてみる。

んん、やっぱり見通しの良い崖かな?こんなしっかり凹凸ができたらロッククライミングみたいにいけそう。木のほうは大樹感があって色々乗っかりつつお生い茂ってる。

虫とかいっぱいいそう…。

「とりあえず、崖から試してみる?」

おっ、同じだ。

和香と同じ思考回路を辿れた感じが阿呆自覚している俺には安心する。

「そうだなー。」

「ちょっと貸して。」

握ったまんまだった杖のような棒に手を伸ばしてくる。

「あ、ああ。」

なんか和香との会話、マシになってきた?

これから一緒に行く仲間として安心してきたかも。

「よしっ」

言いながらなぜか和香はイキイキと崖を見上げる。何だか自然な笑顔だ、不思議と。

「いくよ!」

なんか和香…楽しんでない?すげーな。

ああっ、でもやっぱり不安だ…。俺運動神経めちゃくちゃ鈍いし。

どうしよ…。いや行くしかない!

「う、うンっ」

意気込んだばかりなのに、声が裏返ってしまった。

まずい、しっかりやらないと大怪我じゃすみそうにない!

和香からは不思議そうに見つめられたあと、

「大丈夫?」

の一言。

うっ。

「やなにが!?大丈夫だけど!」

つ、つい大幅に強がってしまった。

今までの和香とのギャップがぎこちなくて目を逸らす。

これほんとに本人か…?あんなに睨んで強い視線で注意してきてたのに。

もしかして夢の中の別人?有り得るかも…。

「そ、そう?いくね?」

心配そうな目を向けられて余計居心地悪い。

ああぁやっぱり相性悪いのかな俺ら!

手際よく、グイーンと伸ばして足場を作って行ってくれている。ちょうど十五センチくらいの出っ張りを手足の部分に出していってる。面白そうに。

その後をよじよじ必死につかまっていく。

けど結構順調かな。右手左足、左手右足を繰り返していく。

和香の作る手足の幅は絶妙にあっていて行きやすいんだけど、

慣れた手つきでやってるスピードにしか思えない和香の速さにはついていけない!

どうしてそんなに⁈

「わぁーすごい。」

上から声が降ってきてる気がするけど見上げる余裕が全然ない。

「ヒィっ」

「ふー」

「ほへぇ」

ってさっきから俺ばっかり息切れしてないか⁈

ほんとにどうしてそんなにスムーズに…!和香ってもしかして運動得意な方だったのか。

全然知らなかったんだけど!

やばいやばい。差が広がってきてる!

五メートルくらい登れたのかな。いや、和香はもう二メートルほど先を行ってる‼︎

それにさっきすごいとかいってたか?何かあるのかな。

「あぁーこれまずいのかな。」

かすかにもっと不安な声が聞こえてきたんだけど…。

なにがっ。聞き返さないと…!

「ひ、えっ、なにがっ、まず、い、のっ?」

完全に上がってしまった自分の声は自分で聞いてても情けない。

「うーん、ほらこの後二十メートルくらいありそうでしょ?これ落ちたら相当まずいかなと思って。これどこまで伸ばせるんだろ。地面がでできてるってよりは引っ張られてるよね。だから引っ張り過ぎたらなんか形おかしくなるんじゃないかと思ったけど、落ちて大怪我よりはどうなるかわかんないけどマシか。」

多いおおい。おおおおいいいいいィ。

どうしてそんなスムーズに話せるの!!!?しかも片手で捕まりながらこっち見下ろしてるっ。

怖くなってきた…。和香の身体能力どうなってんの?

ボーゼンと見上げる俺を残して、和香は視線を外し考え始める。

やっぱり俺にはついていけないか、何もかも。こんなになにもできてないんじゃ。

体力はないし、思考力もないし、想像力もないし。

あれ俺ってなにができるんだろう。

どんどん沈んでいく自分とは裏腹に上から真剣、でも明るい声が降ってくる。

「やっぱり安全を取ろう。ほんとに落ちたら危なすぎる。」

降ろしてるミドルヘアを邪魔そうに顔から払いながら言ってくる。

「だ、だな…。」

とりあえず合わせた返事を返しても、本当はなにもわかってないんじゃ意味がない。

ひとまず落ち着いて、和香がなにをしようとしてるのか気づかないと!

数秒前落ち込んでいた俺が別人のように思えてきた。

え、いやいや本当にどうしたんだろ、あんなにマイナスなことしか考えられなくなっちゃって。

まずこのままじゃ危ない、確かにそれはそうだ。

この高さから落ちたら大怪我じゃ済まないかもしれない。

ここに落ちてきた時のあの力が働かない限り…。

ほんとにあの力、何だったんだろ?ポンって音ですごく安全に地面につけたけど。

まぁいいや、それは考えても分かりそうにない。

考えてるうちにも、和香はなにやらあの杖を使って俺の下にまわり始める。

そして腕を横に伸ばしてグイーンと伸ばし始めた?!

数十センチ伸ばしてから、

「あ、これやっぱだめじゃない」と自分を責めるように独り言を言うと、少し登って自分が座る淵を作りそこからさっきの続きを伸ばし始める。

ああっなるほど!!

伸ばしまくって落ちても大丈夫なように地面を作ってるのか!

やっとわかった…。

申し訳なく思いながらも、和香が伸ばしていってくれてるのを俺はおわぁと眺めてる。

それも必死に凹凸に掴まりながら。

ううぅかっこ悪い…。

でもこれ…。

「よし、これぐらいで…ってえ?!」

だいぶ広がった地面から体をこっちに向けた和香。

うんちょぉっとアレかも?

引っ張られた分、壁が変形して、登ろうとしてたところが滑り台のようにカーブを描いている。

湾曲の中に入れられたみたいだ。

これじゃ登れない。掴み手を作ってもきっと危ない。

あ、でも。

「反対側まで伸ばせない?」

軽くパニクってる和香に声を掛ける。

反対側は伸ばされてないから普通の崖だ。

でも…和香が気づかないはずないか。

「あのねぇ。」

いきなり呆れ顔を向けられてドキッとする。

え俺変なこと言った?

「木があるでしょ。なんで英ってば、初めっから木が透明にうつるの?」

「あ…」

そうだ真ん中のこの巨大な木をよけて行こうとしたらバランス崩すか…。

う、木には嫌な記憶があってつい…。ああっでもせめて何か役に立たないと!!

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