第5話 単純に *(和香)

数少ない会話の中だけど、英って結構単純なのかな…って思う。私の言動に一つ一つ素な反応を見せるし。

ほんと、お互い全然お互いのこと知らなかったんだな〜、ってつくづく思う。

のはさておき。

この崖、どう登ればいいんだろ?慎重に行かないと大怪我しそうだしな…。

それにしてもこれ…、夢なのかな?現実でいきなりこんな状況おかしすぎる。

んんん。

とりあえず、崖か木か。どっちが安全か確かめた方が良いよね。

「どう、確かめたらいいと思う?」

何気なく聞いたつもりなのに、英は想像以上にギョッとする。

「え…何を?」

珍しいものをみるような顔を向けられて。

「あっ…」

主語がなかった。

相手が小さくふき出すのが見える。

「んんもー!私だってそんくらいのミスあるよー!」

「女子らしいんだな」

「はぁ?」

ギスギスな空気は消えたけど、これじゃほんとにこの穴から出れる気がしない。

もっとしっかりした人とであれば…。だめだ、私がしっかりするんだから。

もう一度空を見上げる。

快晴だ。雲一つない。太陽は見えないけど、多分照ってると思う。今明るいし。

でも…、ここから出れたら、どうなるんだろ?

ゲンジツ世界に戻れるんだろうか。じゃぁここは異空間?私の夢?

夢って考えるのが一番あってる気がするけど、いやにリアルな描写だ。

ボール取りに行って寝るとかどうかしてるし…。

「登るしかないんじゃない?」

英が面白そうに木を見上げる。

それにしてもこんな木に躓くまで気づかないってすごいね…?

「そうねー…、じゃあどうぞ?」

「え?」

「え?」

「ん?」

勘違いが生まれたらしい。

「え、和香が登るんじゃないの?」

「いやなんで?」

っていうかなんで呼び捨て?

「え、俺が登るの?」

「いや私が登るの⁈」

あ、そなの?

違うのかな、運動大好きさんに見えてたんだけど⁈

「あは…」

なぜか苦笑してる彼を見ててもしょうがない。

崖の出っ張りに手をかけてみるも。

ガラッ。儚い弱さで粉々に…。

こっちはやはりだめだ。出っ張りは小さすぎるしボコボコで怪我しそう。

でもここに来た時点で無傷なのはすごいんだけど…。

木を見上げて手足をかけれそうな部分を探してみる。

「ね、これなんかスイッチみたいなのあるんだけど、使えそうじゃない?」

「ん?」

スイッチ?使えそう…?

意味がわからない声かけの方を向いてみると、英はさっきの棒を持っている。

「どういうこと?」

「や、ほら見て」

こっちに寄って来て棒の上部分を指す。

確かに何かついてる?丸い小さな木のボタンみたいなのがちょこんと出っ張ってる。何だろ…?

「それ押したの?」

聞くと、よくぞ聞いてくれましたな顔をする彼。

なんかいいことでもあるのかな?

「百聞は一見にしかず!ほら!」

ぐいと押した、と思うとおおぉっ?!

地面が盛り上がった?!え、なにそれどういう?んん?!

「ははは驚いた?」

「え…」

パチパチ目を瞬く私に英は満足笑顔。なんで…?

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