◆第三章 光の明滅
夜も
日当たりが悪い寮の一階の自室で僕は深いため息を
彼女と出会ったあの日、丘から帰り部屋でくつろいでいると寮長に呼び出された。なぜだろうと思いながら
体調不良で早退したと
全く
テーマは
『
「
とのことらしい。その上。
「
いらぬ
―― 我々が住む
生まれたての
このように
誕生した元素は
恒星内部で炭素が誕生し始め、ヘリウムが激減すると星は
鉄は元素の中で最も安定している元素の一つである
星は
この時、中心部では鉄の
これが
気体で構成されているガス
岩石や金属で構成されている
粉々になって引き寄せられた
これがジェットである。これにより元素は遠い宇宙へと運ばれる。
つまり
課題もようやく終わりそうな頃、
予期せぬ出来事に驚き、窓に目をやる。何度も叩かれ、
予想外の出来事に目を
―― どうして?
―― ここに?
―― あの遠い教会から?
―― こんな遅くに?
―― どれだけの時間をかけて?
―― そもそもなぜ、ここを知ってるんだ?
次々と
「お
と、か細い声で彼女は
しばらく
彼女を
僕は隣の
「どうしたの」
と
「なんで僕の寮を知っていたの」
と聞かずにはいられない質問をすると
「聞いたの」
少し顔を上げ、彼女は小さく答えた。
「誰に?」
「学校の人に。連絡して、丘で会ったことを話して、アモルのことを教えて欲しいって、お願いしたら教えてくれたの。なぜか向こうからとても感謝されたわ」
と彼女は言った。
僕は首を
君が ―― 犯人か。
不可解な謎は
「どうしたの?」
彼女は何も分からないようで、不思議そうに聞いてくる。
「いや、何でもない」
と手をかざし、
一つ呼吸を置いて、
「それより、そっちがどうしたの?」
と顔を上げて
「……今日、あなたが言ったことを
と話してくれた。少し
だけど、ひどいと言われても困ってしまう。どう
「……
困った
つぶらな瞳に光が差して、
いい、心して聞いてねと ――
「まず宇宙にはね、たった四種類の『種』しかなかったの。暗闇の中で四つの種が静かにたゆたっていたのよ。その種は永い年月を
正に奇跡よと、彼女の瞳は
僕には輝く理由がさっぱり分らない。とりあえず、彼女が言わんとしていることを、自分なりに解説してみる。
「つまり、言い換えると初期の宇宙には四種類の元素しかなかった。具体的に言うと、水素とヘリウム、リチウム、ベリリウムの四つ。それらが永い年月をかけて、部屋の
と自分の知識を
「 ―― その引力は
そういうことだよね、と
「何なの、その
「宇宙規模の部屋と水素と時間が在れば」
と思ったままを口にすると、彼女は話の腰を折らないでと、不満そうに僕の答えを切って捨てた。
彼女は小さなため息をし、
「いい、奇跡は宇宙に光を
彼女はそう言って目を
「それってつまり、
その時、彼女が
彼女は何事も無かったように話を進める。
「だけどね、星にも寿命があって、いつかは死んでしまうの。それは悲しいことではなくて、ただ形が変わるだけ。どういう風に形が変わるかっていうとね、星という形を捨てて本来の種に戻るの。その種は星が死ぬ時に、広大な宇宙へと拡散され運ばれて行くのよ。その運ばれた種は次の命へと
なぜか彼女は遠い目をしている。とても、らしくない表情だ。言葉を
思いあぐねるその
間近にある彼女の顔。
心がざわつく。
早く離れたくて、僕は何度も
彼女はそれを見て、ようやく手を放してくれた。
「いい、星は死の
星の死、つまり
「これよ! これ! とっても
資料の画像を一つ選び、僕に
その
「ほんとに
ありのままの感想を
「私もいつかこんな風に……」
それは無理だろうと思ったが、何も言わないことにした。
「
彼女は
「広大な宇宙に拡散された
彼女は
人を構成する元素はリン、鉄、炭素、マグネシウム、ニッケル、酸素、カルシウム、その他合わせて三十種類近くの元素で構成されている。
宇宙にたった四種類しかなかった元素は、星々が起こす自然作用によって、
僕の思考を
「私達は
そして
すると
「アモル、手を出して」
と彼女は右の手の平を突き出してくる。
少し驚いたが手を合わせろということだろう。ためらいつつも左手の平を、彼女の手の平に合わせようと腕を伸ばす。
彼女に ―― 触れる、手から伝わる
そこから引き込まれて行くような
僕はなぜか
近づくことも、触れることも。
彼女は話し始める。
僕を
「私たちは主義も主張も違うけど、こうやって触れ合うことが
―― でもね、と彼女は
「人の心は
―― 手の平の
「いい、私達は引かれ合うの。星が誕生する時のように。そして色んな感情を生み出すわ。楽しい気持ち、嬉しい気持ち、時には悲しい気持ち。それは星のように輝いては消えていくの。私達の心は
――
「
―― そう言って彼女は
「一緒なの。生も死もある。星が死ぬ時、自分を構成していた
――
「―― 共に歩むの。それが星の子。だから雲に乗って旅立つの。ジェットに
雲? ジェット? 僕の分らないという表情を察して、
「言うなれば、最新技術の粋を結集した箱舟かな。特別な結晶に変換して遠い彼方の ――」
その時、突然ノックの音が部屋に鳴り響いた。
その音に僕も彼女も固まる。
窓に目をやると
再びノックが響く。
彼女を見る。
彼女はゆっくり
僕は腹をくくり玄関に向かった。
ドアを開けると、そこには寮長がいた。
部屋の明かりが朝まで点いたままだったので、心配になったそうだ。身体に気を付けてくださいね、と
その時、突然寮長が僕の
どっと疲れた。
彼女の姿は
彼女はいつも
机に目をやると、殴り書きの手紙が置いてあった。
―― 明日、同じ時間、あの丘で ――
窓から差し込む
結局、彼女が怒られた理由は分らず
それと何かを忘れている ―― そうだ、名前だ。
怒るだろうけど、次はちゃんと聞かないと。
頭があんまり、働かない。
本当に疲れた。
少し寝ようとベッドの上に体を投げ出す。
今日は色んなことがあった。
学校を飛び出して、丘に行って、自由になって、あの子が出てきて、帰るとおこられて ―― めんどうな課題をやらされて ―― また、あのこが、あらわれて ―― ふしぎな、はなしを ―― 。
―― 悲しいことではなくて ――
―― ただ形が変わるだけ ――
―― 本来の種に戻るの ――
―― 彼女は微笑み ――
―― 命を
――
―― 共に歩むの。それが星の子 ――
その瞬間、まどろみから目覚め身を起こす。
それって ―― どういうことだ。
翌日、あの丘に向かった。
だけど、いくら待っても彼女は現れなかった。
********************
二度目の眠りから目覚めた彼は、いつも
まずは ――
彼と共にいよう。
彼はラウンジに
「いつもここにいますね。
彼は何も答えない。こちらを見ようともしない。
キラキラと輝きながら暗闇の中をジェットは進む。それは命を
突然、ノイズが視界を
ノイズは続く。少女の
「後悔しているんだ」
その言葉に我に返る。
「なんであんなことを言ったのか……」
彼はこちらを見ずに
「結局のところ何にもなかったんだ。ただ
私には何の話をしているのか解らなかったが、深い悲しみは理解できた。彼を思う。遠い記憶の
そんな彼に
しばらく
「君が聞いてきたんだぞ」
彼は何も答えない私に耐えきれなくなったようで、少し照れ臭そうに言った。きっとこの告白は彼にとって一生の
「……てっきり私は生命の
彼は再びだんまりを決め込んだが、まんざらでもないのか、よそよそしく落ち着かない
私にはそれが
「もしよろしければ、これからは私を名前で呼んでいただけないでしょうか。おい、や君だと少し
なぜか不自然な間が空き、彼が私を
そして首を
「……それって人格OSの名前のことかい?」
「はい。その通りです」
「だったらもう違うよ」
「……どういうことでしょうか?」
「ごっそり書き換えたんだよ。だからもう違うよ」
「何を言っているか理解できませんが……」
「ほら初めて会った時。記憶は
「では、私は誰だというのです!」
「……忘れた。昔に書いたコードをそのまま使ったんだ。だから覚えてない」
彼はそっぽを向いて、ふて
「―― あなたという人は!」
非常識も
その間、彼は
********************
彼女が丘に現れなかった次の日、僕は教会を
教会は
入口付近で彼女と同じ服装の老女が
そんな
老女は優しく
だが、アモルという名前を出すと態度は一変する。
「
突然の怒声に
「
老女は怒りを
「これ以上あの子をたぶらかすことは許しません! あの子には使命があるのです!
―― 自分のままでいたい ――
自身の言った言葉が
そんな風に
せめて彼女の
肩を落とし
空は燃えあがるように赤く染まっていた。
大きな雲が
そんな雲間から射す光の柱は神秘的ではあるけれど、大きな雲に
そんな風にも見て取れた。
あの時、どんな気持ちで僕の
伝えたいことが伝わらない。
頭ごなしに批判され、誰も耳を傾けてくれない。
味方など一人もいない。
―― 危険思想だ ――
―― 心に問題があるのだ ――
――
――
それを
そして、来た道を振り返り教会を
気が付けば、あんなにも赤く燃え上がっていた空は
僕が危険視されたように、彼女も異端視されたんだろうか。
そう思うと胸が痛い、締め付けられるように痛い。
そもそも話さなければ良かったんだ。
あんな思い付き。
何の価値もない下らない
調子に乗ってベラベラと ――。
全部、全部、僕のせいだった。
確かにあった
―― あの子には使命があるのです ――
老女はそう言った。
ならば ――
自分の信仰の
それは
僕には口を
―― もう会わない方がいい。
ようやく
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