◆第二章 目覚め
「 ―― 自由ですか」
眠りから目覚めた彼は唐突に質問を投げ掛ける。私はカップに温かい飲み物を注ぎ、
「誰にも
と言ってカップを手渡す。彼は予想外の答えにきょとんとした表情で渡されるままカップを受け取った。私はそんな彼の前に座り 、
「【自】の字は【
そう話しながら彼の生体チェックを開始する ―― とは言っても『
「コールドスリープによる筋力と骨密度の低下は少し見られますが、バイタルサインは良好です。長らく冷凍状態にあった細胞の
と彼に
「そうだ、外をご
とカップを置かせ、景色の見えるラウンジへと
「きっと母艦に乗っている方々は、お祭りのように騒いでいたでしょうね。なんたってこの広大な宇宙で十数年に一度、観測できるかどうかの天体ショーです。その上、我々が永らく暮らしていた星の
そう言い終わる頃に、壁一面ガラス張りのラウンジに到着した。
そこには
そして、
彼は無言のまま窓に近づき、その景色に見入っている。
私は彼の
「私達の
と話し
―― 生まれ変わったら何になりたい ――
と
********************
―― 自由を感じていたんだ ――
その返答を聞いた彼女は変な人、と答えて、またクスクスと笑う。
僕は腰を抜かしたような格好で、ぽけっと彼女を見上げている。
やっと頭が回り始めると、笑われていることに対して徐々に怒りを覚えたが、彼女の
彼女は笑ってもいいのだと判断したのか、声を出して笑い始めた。
僕もつられるように声を出して、思いっきり笑った。
「 ―― ここまで驚いたのは初めてだ」
「
彼女は涙を
「君は何をしていたの?」
と投げ返すと、またクスクスと笑い、
「私は ―― 考えていたの」
と僕を
目を泳がす姿が
ようやく笑い終えると彼女と目が合った。
彼女は何かを思い付いたように、にんまりと
「ねぇ、あなたに答えて欲しい質問があるの」
と尋ねるので、僕は何も考えずに了承した。
すると彼女は
「あなたは ―― 生まれ変わったら何になりたい ―― 」
「私は ―― 吹き抜ける風になりたい。
彼女は目を閉じ両の手を広げ、その場をくるりと一回りする。
全身で自然を感じているかのように ――
「 ―― 色々なりたくて、ずっと悩んでいるの」
そう言うと、また僕を
「あなたは変な人だから、きっと私に無い答えを持っていると思うの。ねぇ、あなたは何になりたい?」
目の前の変な子に、変な
所々に
白を基調とした一つながりの着衣。
柔らかい風に
それは
僕は質問には答えずに
「君は ―― 『
「ええ。そうよ。ほらあそこに見えるのが分かるかしら ―― 」
と学校と反対方向の平地を
立ち上がり、彼女の指し示す方向を確認する。
そこには
あの教会から ―― 驚き、彼女を見る。
と同時に疑問が
そんな存在が、こんな所に一人でいるということは ――
「もしかして、抜け出して来たの?」
「そうよ。でもだから何? 私だってその制服の学校、知ってるんだから」
と何やら
言葉を
「そ、れ、よ、り、も ―― 」
と小さな指で胸をつつく。
「 ―― あなたの答えが聞きたいわ」
―― 生まれ変わったら何になりたい ――
彼女はそう言った。
僕は
「そんなこと、急に言われても分らないよ」
「大丈夫、あなたは答えを持ってるわ。私の目に
彼女はそう言って
「心を空っぽにして。感じたままを話せばいいの」
何が何でも答えを聞きたいようだ。
僕はため
どこまでも高く透き通る青空。
全てが吸い込まれそうな感覚になる。
無限に広がる大空は何を思うのだろう。風が吹こうが雨が降ろうが、そんなことはお
「 ―― 理想の自分になりたい」
と彼女の目を見て答えた。
彼女は
「自由だと常に感じられる心を持っていたい。正しいと思えることをして、胸を張って生きていきたい」
「生まれ変わらなくてもなれるじゃない」
「生まれ変わってもそれになりたいんだよ。月や太陽になれたとしても、僕は変わらずに今の自分のままでいたいんだ」
「どうして? 変わらないなんて簡単なことでしょ?」
「ううん。難しいことだよ」
「どういうこと?」
彼女は少し困った顔をしていた。
僕はたどたどしく説明する。
せせこましく
自由を ――
それを感じ取れる自分で在りたい。
今まで、ずっと抜け
裏切られて全てを失くした、あの時から ――
僕は作られた人間だ。人口推計が危険水域に達した際に、つまり、人口が減少し人類の繁栄に支障が出ると判断された時に、
外見は人と同じ。中身は少し違う。構成する元素の分布が異なり、退化して機能しない臓器は元からない。病原体に対する
カリキュラムは単に知識の詰め込みではなく、適正に合わせ芸術や文化、技術職等、
僕はアンドロイド工学を専攻し、特に人工電脳に強く
その結果、最後に残ったモノは
そして、
目に映る全てが
ここに
変わりたくない。
忘れたくない。
自由を感じられる自分を。
だから僕は生まれ変わっても、自分のままでいたい。
思い
まじまじと聴いていた彼女は、少し考え込んだ後、やっぱり変な人ね、と
「でも、
そう言いながら僕を
「私の目に
と、また
その時、教会の鐘が高らかに鳴り響く。
「いけない、私行かなくっちゃ!」
彼女は
「あなたの名前、なんていうのー」
と良く通る声で尋ねた。
僕は大声で
「アモルっていうんだ!」
聞こえたようで、彼女も返す。
「私の名前は ――」
と言い
彼女の
********************
―― 生まれ変わったら何になりたい ――
と
「私はアンドロイドですから、生まれ変わること等あり
と答えた。
すると彼は驚いたように、ゆっくりこちらを向き、初めて私の目を見て話してくれた。
「まるで『
「私には信仰するための『心』がありませんよ」
と、少しおどけた
人の姿が ――。
少し頭を振り、なぜそんなことを
そして、彼は二度目の眠りに
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