第3話 好奇心への渇望
「それでそいつを探し出してこいと?」
「そこまでは言ってないけど」
露骨に嫌な顔をされてしまった。俺自身、探ってきてまでとはいかなった。
変に探りを入れられ、その子のことが好きなのかと勘違いされたら溜まったもんじゃない。
椎名くんに話したせいか、妙に彼女の顔が頭の中から離れない。
何かが気になる。引っ掛かる、そんなような曖昧な表現しか出てこなかった。
「仮に探ったとしてお前はその子にアクションを起こすのか?」
予想外のことを言われて、一瞬が時が止まったかのように自分が硬直したのが分かる。
思考回路すらフリーズした、「はぁぁぁ」わざとらしい溜息が聞こえてきた。
椎名くんはこめかみを抑えていた。
考えもしていなかった。正直、ただの話の延長線上。
暇つぶしの話題として出したつもりだった。けれど、思った以上に食い付いてくれた。
彼も話の輪を広める為だったかもしれないし、それ以前に俺が人を気になったことに興味を抱いた可能性もある。どっちも否めない。
もしも彼があの子の情報を入手したとして一体どうする?
何かアクションを起こすのか?
否、起こさないと思う。だってこれはただの世間話の延長線上に過ぎない。
そうだと頭では分かっている。だけどそれ以上に彼ならばやりかねないと考えてしまう。
気まぐれで人の事情を誰よりもしり、気分次第でその情報を漏洩する自由人。
正に彼へ相応しい言葉。
「分からない。その時にならないと」
「そうか」
俺は逃げた――自分がどうするかなんて分かっている。
だけど、それ以上に――彼椎名くんの気まぐれさに少しビビっている。それと同時に自分の中に眠る、好奇心が疼く。
「お前の笑顔って怖いんだけど」
「失礼な!」
「探ってきてもいいが少し時間は貰うからな」
「探ってくれるんだ、面倒臭いからパスとか言いそうなのに」
「普段ならば言うだろうな。単純に生気のない女ってのが気になる」
椎名くんらしいなと思った。少なからず、あの子の情報は入手できそうだ。
それまでの間。一体どう過ごそうかな? ピコンとスマホが鳴る。
通知音? スマホを見ると連絡アプリの通知だった。
通知の相手――連絡を送ってきた人物の名前が映っている。
「どうかしたか?」
「うーん。ちょっとね、谷崎から連絡が来た」
連絡の内容はこうだ。
授業を抜け出し、屋上で椎名くんと雑談に花を咲かせている時、クラスへ生徒会と風紀員が来た。
犯人探しをしているようだ。先生が言っていた検討がついている犯人が、自分だったかもしれないと考える。
だが、その答えより確実なのは椎名黒音を犯人から消し、やりそうな相手を犯人へと仕立て上げる。それが学園の二大トップの
手当たり次第クラスを回っているのだと思うが、俺を犯人して丸く抑えたい可能性も捨てきれない。
そもそもとして犯人は俺なんだけどね! テへ。
慣れないことはやるもんじゃないな。横から低い声で「キモっ」と言われてしまった。
「泣くよ?」
「勝手に泣いとけ。気色悪い」
酷い言われようだ。でも、それが彼らしい。
逆に言うと礼儀正しい椎名くんが居ったらそっちの方が違和感が凄い。
話が少し逸れてしまった。自業自得だ。
時間の問題とは? と思い彼を見る。視線に気付いたのか顔を逸らされてしまった。
俺には関係ありませんという態度を取られた。実際の所。そうなのだから何も言えない。
「ほんまだりぃ」
「お前が調子に乗って苦情なんか入れるからだろう?」
「いやだって彼奴らムカつくし」
「それはそう」
生徒会をぶっ飛ばしている人よりは断然マシだとは思っている。
問題児は伊達じゃないってことか。
流石に風紀員まで出てくると面倒臭い。どっちか片方だけでも厄介ではある。
しばらくは警戒して過ごすか。とりあえず谷崎にどんな様子か聞いてみる。
メッセージを送り、少ししてから返信が来た。
しばらく滞在していたけど、諦めて帰ったらしい。
もうそのまま一生諦めて犯人探しをしないで欲しい。きっとそんな淡い期待は無意味。
「さてさてわしゃは探ってきますかね〜」
「分かったら連絡して」
何も言わずに屋上から去っていく。また暇な時間が出来てしまった。
「いやそれ以前の話か。椎名くんがいるって想定はしてなかった」
本当読めない男だ。そういえば君とは二年くらい友達をやってるけ?
二年くらいって気にしている時点で俺の頭はちょっとバグっている。
友達になれば多少、その人の考えとかが分かるけれど、君だけは例外。
会った時から現在に至るまで分かっていない。
「SNSでも見てみるか」
特に何も変わらないか、どんどんとスワイプをしていると、とある投稿に目が止まった。
『由緒正しきエリート校夜桜学園の謎」
と書かれていた、実にくだらないなと思って飛ばす。
この学園の謎か? そんな大それたことがあるのかね? 由緒正しきエリート校ってのも怪しい。
もしも仮にこの学園に謎が合ったとしたら一体どんなことなんだろう?
気になる、興味が断然と湧き出てくる。冷静になって平常な思考回路に切り替えようとする。
だとしても好奇心の方が勝ってしまう。
「あるかも分からないことを考えても仕方ないや」
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