第2話 問題児

呑気にそんなことを考えている間に時間は進み、授業開始の号令が響く。

今日は一日、教室で寝るって決め込んだから無視をする。

ここだけ聞くと、俺は間違いなく問題児だろう、実際は全然違う。

ただ少し授業を受けるのも勉強するのが嫌いな少年に過ぎない、自分で何を言っているんだろ?

寝ようと思ったけど、中々眠れない、これは非常にまずいな。

何かしら暇つぶしを作らないと、仕方ないから顔を上げ、窓の方を見る。

都合がいい事に俺の席は窓際。しかも教室の中では一番後ろの席の隅側。

最高な席、できることならば一生、席が変わらないで欲しい。

外を眺めると、どうやら体育の時間のようだ、流石に何年生までかは分からない。

グランドで一所懸命走っている、偉いな、そんな面倒くさいこと、俺には出来ないことだ。

何気にずっと眺めていたら、キーンコーンカーンコンと、チャイムの音が鳴る。

授業終了の知らせ、もうそんなに時間が経ったか。

つまりこの時間、ずっと外の授業を眺めてた。ただの暇人か。


「あんたどこに行こうとしているの?」

「ん? ただのお散歩」

「内心点に響くよ、そんな人のこと気にしている暇あるなら、自分の事を心配したらどうだい?」

「は!?」


沸点が低いな、まぁ、そうなるように煽ったんだけどね、こういう委員長タイプは正直好きになれない。

世の中には好きという物好きがいるが、到底理解することが出来ない。

今にでも爆発しそうなほど、顔が真っ赤。

少し煽っただけでここまで怒るってどんだけ沸点が低いんだろう?

このまま、ここに長居すると怒られそうやから速やかに退散しましょうと。


「あ、待ってこの野郎」

「待たないよ」


無視して教室を出る、追いかけてきそうな雰囲気は合ったが、そこまでのことをするタイプではない。多分、今頃、大人しく席に着いているだろ。

教室に居っても暇だし、やっぱあそこに行くか。


「なんだお前サボりか?」

「一番授業をサボってる方に言われたくないな」

「わしゃは気まぐれで自由人だからな」


この独特の一人称で自由人と豪語するのは、俺のこの学校で少ない友人の一人。

教室から抜け出し、真っ先に屋上に来たら、すでに先約として彼がいた、堂々と横になているのは流石としか、言いようがない。


「つうか椎名くん。こんな所に居って大丈夫なの?」

「いや全然大丈夫じゃない。どこかの誰かさんが生徒会に喧嘩を打ったせいで、真っ先に怪しまれて大変なんだよ」


と、言いながらも椎名くんの表情は少し楽しそうだった。どこかの誰かさん。

絶対これ、俺バレたらぶっ飛ばされる案件。


「で、黒衣。わしゃに何か言うことはないか?」

「うーん。今日も天気がいいね」

「分かった。それが遺言でいいんだな?」


椎名くんは ポキポキと指を鳴らしている、あ、やばいしばかれる。

それ以前にもう既にバレている! 


「疑われることは慣れているさ、でもな。生徒会に苦情入れそうな奴は限られているぞ?」


消去法でバレた訳か、顔は笑っているのに目は笑ってないから怖い。

自由人でありながら問題児の彼は――椎名黒音。

この学園で一番、目を付けられている存在、それでも俺は彼と居ると楽しいから友達になった。


「揉めたか知らんけど、あんまあの面倒くさい連中を敵に回すなよ」

「経験者が言うと全然違いますねー」

「ほんま一回、お前のことをぶっ飛ばしてもいいかな?」

「はは怖い。真っ先に怪しまれてたって言ってたけどさ」

「珍しく教室で授業を受けようとしたら生徒会の連中が来てな」


あ、この後の展開。何となく読めたかもしれない。もしこの読みが当たっているならば……どうか会計の奴ですように。

心の中で願っていると、


「特に会計? が、手紙を持ってお前だろ! こんなことする奴はと因縁つけられた」


よしあのくそったれだ。内心でガッツポーズを取る。

椎名くんはやれやれと首を振り、少し疲れたような表情を浮かべている。


「今頃、多分保健室で眠っているんじゃ?」

「一応聞いとくけど、何をしたの?」

「それはお前のご想像にお任せする」


保健室に眠っているか、椎名くんの性格的に多分。ぶっ飛ばしているだろう。

逆に云うとぶっ飛ばしても何も問題にならないのは椎名くんだけ。


「当分はお前ってバレないだろうな」

「椎名くんがぶっ飛ばした時点でほぼ犯人確定と思われるね」


少し椎名くんには悪いことをしたなと感じた。気にしている様子はなかった。

腑と思った、こないだ出会った女子生徒を彼ならば知っているんじゃないか?

考えるより先に言葉が出た。


「ねぇ椎名くん。生気のない女子生徒のこと知っている?」

「何だその曖昧な情報は?」


俺の言葉に椎名くんが困惑してる。確かに曖昧な表現だなと思った。

だけど、そんな表現しか出来ない、そもそも一目しか見たことない。

だから彼女に対して、生気のない女子生徒って印象と認識しかなかった。


「お前はそいつに見覚えは?」

「ないね。少なくとも二年生ではない」

「考えられるとしたら三年か一年かだな。珍しいなお前が人のことを気にするって」


確かに椎名くんの言う通り、俺が人のことを気にするのは珍しい方だ。

自分でも理由は分からないが、妙にあの子のことが気になる。

もう一度会いたいとか不純な気持ちではないと思う。

もし言葉で表すとすれば好奇心。

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